土のにおいの風を髪にまとう【ハノイ2日目】
ハノイのはじっこHa Dong(読み方は分からない)という場所で目を覚ます。
移動日だった昨日の夜は、固いベッドのマットの上に倒れるように眠りについた。あぁ、明日は起き上がれなくてもいい。身体が満足するまで、眠りこけてやろうと、そんな気持ちでいた。
すーすーすー。
久しぶりの熟睡。
なのに、そこに奇妙な物音が割って入る。
「くっけこー、くっけこゥゥゥゥー」
窓の外は薄暗い。なんだなんだと怖くなって、目が覚める。でも私はまだ夢うつつで…。きっと気のせい、昨日はえらく疲れていたから。と、目を閉じる。
「くっけこー、くっけこおおおおおおおおおゥゥゥゥー」
もうね。
たぶんね。これさ、にわとりだ。
びっくりするぐらい、うるさい。
しかもベトナムのにわとりは2オクターブくらい声が高い。かなりのソプラノで声量も抜群、さらには良く通る鳴き声。
うるさい。
旅の疲れに身を任せて、ずるずると罪悪感を感じながら昼まで寝る。そんなぜいたくな朝を過ごそうと思っていたのに。
だめだ。殺意を感じるくらいの勢いで、1羽のにわとりは鳴き続ける。
「くっけこー、くっけこおおおおおおおおおゥゥゥゥー」
あはは。
起きるしかない。笑っちゃうくらいうるさいのだ。
ハノイ滞在中の家の大家さんは日本語学校を経営している。家賃と光熱費を無料にする代わりに、私は日本語教室のチューターみたいなバイトをする約束だ。
本当は明日から教室に顔を出すつもりだったけど、にわとりのせいでおちおち寝ていられない。
「私、今日から行っていいかな?」
「もちろん、さぁここに乗って。」
同じビルに住む、ベトナム人の日本語の先生たちが教室までバイクで連れて行ってくれる。
「ありがとう。」
バイクに跨る。ヘルメットはかぶらない。土埃を含んだ朝の冷たい風が、私のシャツをパタパタと揺らす。
前には私と同じ日本から来たマギーちゃん(日本人だよ)の背中が見える。私と同じ様にベトナムの風を浴びている。
こんな風に私のベトナム生活は始まった。
あぁ、明日もきっとにわとりに殺意を抱いて目を覚ますのだろう。
ふふふ、なんか笑えてきた。
私は今日、幸せだったんだと思う。
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