°弾(毎週ショートショートnote

「金、用意できているか?」
「……ここに」
市長自らジュラルミンケースを開け、提示した額と同じ額の札束が露わになるや否や、むんずと掴み取る
「ソーダ水から炭酸が抜け出たような空気に街が覆われ、p行の音が消え、言葉の終わりの小さな丸が消え、とうとうh行も声にならなくなって……」
「だからこそ、私に依頼したのだろう?」
依頼者である市長と共に、街一帯を見下ろせる山に急行
「ああ!」
予想より濃いもやが、街一帯を覆っていており、すぐさま仕事に取りかかることに
私がトランクから取り出した仕事道具を見るなり、市長の顔が一瞬にして凍り付く
――無理もない
私の仕事道具が、銃そのものだから……
「ひぃっ!」
やはり、この辺りならh行の音が出る
ならば……
銃を構え撃つ。
「ぴぃっ!」
市長の声の音が変わった
よし、いける!
「市長、笑え!」
「ははははは」
腰を抜かし、渇いた笑いをあげる市長の頭上を撃つ
「ぱぱぱぱぱ」
「もっと、もっと!」
薬莢を捨て、新しい°弾を込める
「へへへへへへ」
だらしなく声をあげる市長の頭上を撃つ
「ぺぺぺぺぺぺ」
いいぞ、いいかんじだ
「さあ、大きく息を吸って~ 出して~!」
「ふぅ……」
市長の大きな安堵の息に向かって撃つ
「ぷぅ……」
おならのような音と共に、街を覆っていた薄暗いもやが少し消えた
「よし、もう一度!」
「ふふふふふふ」
やけになった市長が笑う
「ぷぷぷぷぷぷ」
市長の笑い声のおかげで、街を覆う薄暗いもやを消す去るその時がみえてきた
撃つ、撃つ、撃つ
°°°°°°。。。。。。°°°°°°。。。。。。
「これでどうだ!」
ひときわ甲高い音が一つ。
「おおお! 戻った、戻った!」
眼下には、すっきり見渡せる街並に、たちまち笑みがうまれゆく。
「ありがとう、ありがとう!」
まるで子どものように喜び、そうして長い長い安堵の溜息。
「ま、マズい……」
私の顔を見る市長の頬に赤みがかるを見るや否や、°弾の残りを撃ちこむ。
……あぶない、あぶない。°弾を残しておいて正解だった。
足元に転がるプリンに、思わず苦虫を噛みしめた。

お題はこちらの「スナイパーの意外な使い方」から。