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読書感想文#06

例えば、インドカレー屋さんにふらっと入る。店内は香辛料の香りが充満していて、カウンターに目をやると不思議な置き物や装飾品が異国の雰囲気を漂わせている。全く馴染みの無い料理名が羅列してあり、心の中でワクワク感と少しの警戒心が一緒くたになり、まるで食を通して旅をしている様な気分になる。

私はこの感覚を体験するのがとても心地良いのですが、今回の書籍はまさにその要素がぎゅっと詰め込まれており1日で読み終えてしまいました。

ときどき旅に出るカフェ/ 近藤史恵

瑛子にとってこの世で一番好きな場所は自宅のソファー。そんな彼女は37歳独身、一人住まい。子供も恋人もなし。満員電車でぎゅうぎゅうにプレスされながら毎日通勤し、会社では話の通じない上司に嫌味を言われることも。
一般企業に勤めている方なら共感できる事も有るのではないでしょうか(私も2年間会社員をしていたので共感できました)。

彼女が休日に自転車で近くの住宅街を走っていると、カフェ・ルーズという一軒家を改装したカフェを見つけます。そのカフェの店主は6年前に退職した同僚の円(まどか)でした。

円は旅をする事が趣味で、カフェは毎月1日から8日を休みにし、旅に出ます。そこで出会った食べ物を再現したり取り寄せて店で提供していました。

瑛子はすぐにカフェに通うようになり、物語は円と瑛子、カフェ・ルーズを訪れるお客様を中心に進んでいきます。

物語はとにかくカフェのコンセプトと円の人柄が素敵でした。なぜ素敵かと言うと、店で出している物は現地で、円が自分で体験した味であり、一つ一つにストーリー(お菓子の歴史や円のお菓子に対する思い入れ)が有るからです。サイトで検索して何となく再現した味と比較するとお客さんの目線でも違いがはっきり分かる事が印象的でした。あとは、作品を読みながら料理名を検索しては作ってみたい、旅をしたいという欲求が刺激されるような知らない料理が沢山出てきた事も魅力的でした。また、会社員では無く個人事業主であるが故の自由と苦労も描かれており共感できました。

下記が登場したメニューの一覧です(一部抜けてるかも…)

ミント水、ざくろ水、クワス、カフェ・マリアテレジア、ストロープワッフル、シナモンプッラ、アルムドゥドラー、苺のスープ、ツップフクーヘン、鳳梨酥、千層酥、烏梅酥、月餅、ザッハトルテ、セラドゥーラ、ガラオン、メイア・デ・レイテ、ガロット、鴛鴦茶、バクラヴァ、etc

羅列すると呪文みたいになりましたが…
私は知っているお菓子が殆ど無くて、毎回ワクワクしました。あなたはいくつ知っていましたか?

以下は私が面白いなと思ったお菓子のストーリーの一例です。

1: カフェ・ルーズの人気商品であるロシア風ツップフクーヘン。なんとこれはドイツ語で"ロシア風チーズケーキ"と言う意味のドイツのケーキでした。

日本にもそういう物は沢山有りますが(ナポリタンとか天津飯とか)、海外にも同様にあることに驚くと同時に少し嬉しくなりました。

2: 100年以上の歴史があるウィーンのお菓子、ザッハトルテは当時の環境(冷蔵庫などが無い時代)でも保存が効くような工夫がレシピに有りました。

カフェ・ルーズの近辺に同じコンセプトのチェーン店がオープンした際には、お菓子が開発された時代背景を尊重したカフェ・ルーズのザッハトルテの方が最終的に評価されていた事に感銘を受けました。やはり現地に出向いて本物を食べた人が作った料理は説得力があると思います。私も何か質問を受けた時に答えられない事が無いような、深みを持つように心掛けようと思いました。(しかし一方でアジア旅行中に美味しいと感じていたココナッツジュースが日本で飲むと美味しいと感じない現象は何なのでしょうか…)

作品が面白くて1日で読み終わってしまったので、実は彼女の別の作品を既にもう一冊購入してしまいました。

他にも積読している本があるのでどれから読もうか迷うー!

おしまい

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