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読書感想文#05

今回は二冊。フフッと電車の中で笑ってしまうような本たち。


1. 円卓/ 西 加奈子

まにまにを読んで以来、西加奈子さんの作品は二冊目でした。ユーモアに富んだ登場人物や、滑らかな関西弁。「うるさいボケ」なんてセリフがスッと出てきたりするけど、年齢を問わずに誰が言おうと、ほぼ反射的に放たれるそれは可笑しくて。今回も彼女の作品は暖かくて憎めない人物が多かったです。

公団住宅で三つ子の姉と両親、祖父母に愛されて暮らす「こっこ」こと渦原琴子8歳。口が悪く偏屈な少女の好きな言葉はなんと、孤独。

難解でカッコ良いと感じた言葉をとにかくメモしたり、他人の境遇や些細な変化をきっかけに、友人らが自分とは違う孤高の存在に思えたり。

恐らく誰もが似たような体験をしていて、例えば私は小学校から中学校に進学した時の周囲の変化に衝撃を受けたのを覚えています。小学校では学年ごとの上下関係は曖昧で「〇〇くん」と分け隔てなく話せてたのが中学校に進学した途端、上級生に話しかけると「〇〇先輩やろ?」と凄まれたのが衝撃でした。一方で「〇〇先輩~」とすんなり呼べている同級生がビジネスマンの様に見えたのを覚えています。まあ一番最初の印象は「えー…」となぜか幻滅したのですが。しかし恐らくその第一印象こそ、こっこと同様に世間の価値観に立ち止まり、疑問を抱いた瞬間なのかなと思います。
また、本当は誰とも話さず独りでラノベを読みふけっているオタクに憧れていたことも思い出しました。一人の世界に浸っている姿ってカッコ良いと思っていたな~とか、当時の心情を思い出しながら読んでいました。

こっこの中の世界は学校と家族に守られた狭くて暖かい日常で、それがクラスメイトとの交流を経て、少しずつ、少しず~つ広がっていく。彼女と同じこと考えてた、共感できる、とは言えないけど、毎日が疑問や驚きに溢れている様子が読んでいて懐かしいと感じました。作中の登場人物はとてもユニークで、私が歩んできた人生とはかなり違う背景や思考を持っています。それなのにどこか懐かしい。なかなか説明がし辛い感情をドンピシャでついてくる感じが好きだなと思いました。

特に個人的には夏の夜に団地のベンチでぽっさんと議論する場面が好きでした。2人とも犀利な感覚を持っていて、ストレートなこっこの質問に対しぽっさんも考えて真面目に答える。そんな小学3年生のやりとりに引き込まれました。

「なんでじゃ」を連発するこっこと「リライアブル」なぽっさん。

2. インスタント沼/ 三木 聡

こちらは放送作家や映画監督をされている三木聡さんの作品。構成作家として「トリビアの泉」や「ダウンタウンのごっつええ感じ」等にも携わっていた方だそうです。

8歳のこっこから一気に進展し、主人公はOLの沈丁花ハナメ39歳。彼女が編集長を務める女性向け雑誌が打ち切られ、彼女は出版社を退職する事を決めます。仕事を失った彼女は新しい人生に向けて進んでゆくのかと思いきや、恋もペットも離れてゆき挙句の果てに財産はほぼゼロに。

彼女の状態をじり貧と紹介されていましたが、私的にはもう踏んだり蹴ったりのどん底だと思いました。彼女自身やけくそになりながらも、なんやかんやで最後はハッピーエンド。物語はジェットコースターの様な展開で進みつつ、数々の迷言を残してくれました。下記が代表的な2つです。

水道の蛇口をひねれ!

人生がジリ貧だったり、何をしても上手くいかない時は上記の言葉を思い出せば前向きな気持ちになれそうな気がしました。どんなに落ちても何をしたら良いか分からなくても、彼女の様に小ボケをカマしながら生きていれば何とかなる。とにかく水道の蛇口をひねれ!
なんのこっちゃと思った方は是非読んでみて下さい!笑

シオシオミロ

これは彼女が8歳から習慣にしている朝食の名前です。
ミロをスプーン山盛り10杯。それを12.5ccの牛乳で溶かす。はい、完成。このドロドロした物は予想だにしない所から物語の中で重要になってきます。
レシピはすごく簡単なので、試しに作ってちびちび飲みながら本を読み進めるのも面白いかもしれませんね。

3. まとめ

今回の二作品は、登場人物が少なく物語のイメージがしやすかったです。普段読書をしない方も世界観に引き込まれてスラスラ読み進めていけるのではと思いました。

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