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モーリス・ベジャール・バレエ団 "バレエ・フォー・ライフ" 東京文化会館 2021.10.14

ずっと念願だった"バレエ・フォー・ライフ"やっと観れました。コロナ禍で2回の延期からの中止を経ての3度目の正直でした。今回逃したら、私の年齢ではリアルではもう観れないかなとおもってました。だから観るの超楽しみでした。
この作品、過去4回来日公演があって、今回は13年ぶりの公演になります。

"バレエ・フォー・ライフ"のテーマは愛と死。フレディは1991年に、ベジャールの愛弟子のジョルジュ・ドンは1992年に、ふたりは同い年で同じAIDSで亡くなりました。ベジャールは、フレディとドンの人生を重ね合わせ、2人へのオマージュとしてこの作品を生み出したそうです。ベジャールは、死は絶望でなく美しささえ存在すると。ベジャールの作品の解釈は哲学的になります。

"バレエ・フォー・ライフ"の初演は1997年1月、パリのシャイヨー国立劇場でした。その頃はまだAIDSの治療法が進んでなくて、それまでにもたくさんの人がAIDSで命をなくしてる時代でした。その頃に創作されたということがこの作品の前提にあって、初演当時はおそらく観客もその背景を共通認識してこの作品を鑑賞していたとおもわれるのですが、昨今はAIDSに関しての医療状況は違ってきてます。今この作品を鑑賞するというとき、鑑賞者がちょっと違う感想を持つこともあるかもしれないなとおもったりしたのですが、ただ私たちは昨今コロナという疫病に見舞われ、この作品もコロナに影響を受けての上演となりました。不思議な巡り合わせという気がしないでもないです。

"バレエ・フォー・ライフ"の冒頭は、布に覆われたダンサーが横たわっていてそこから一人ひとり顔を出していくところから始まります。ラストは、破壊力抜群の楽曲"Show must go on"に乗って、ダンサーたちが冒頭と同じ振りを経て、布を纏い、床に横たわって最初の状態に戻っていきます。ラストのシーンを見て、これで”終わる”ではなく、また”始まる”ことで、これからもずっと人の営みは続いていくのだと。まさにShow must go on、なんだと、勝手に理解しました。

私は熱いバレエファンでもないし、バレエに詳しいわけでもないし、過去のバレエの鑑賞体験は、バレエ好きの友人に誘われての2度程だし、あとは小さい子供のバレエの発表会くらい。"バレエ・フォー・ライフ"は、クイーンのナンバー(一部にモーツアルトの曲も使用)とバレエが融合した演目ということを識り、観始めたのです。

私がいままで繰り返し観てきた"バレエ・フォー・ライフ"は、1997年のローザンヌ・メトロポール劇場での公演を収録したDVDで、フレディを踊っていたのはグレゴール・メッツガーでした。そのDVDで一瞬にして私はグレゴールの踊りに魅せられました。グレゴールは、ゾクゾクするほどキュートで妖艶な踊りで、異才で特異だったフレディのメンタリティーを過不足なく繊細に斬新に体現してるようにみえました。ちなみに、そのDVDで、「死」を踊っていたのは、今回の公演で芸術監督を務めている最も華やかりし頃のジル・ロマンで、ベジャールもカーテンコールでオーラ満載で登場します。今回の公演でフレディ役をしてる当時19才のジュリアン・ファヴローも群舞で出演しています。
残念ながら、グレゴールは、現在はバレエ界から引退しています。

実は、グレゴールのDVDを見すぎてた私は、グレゴールの亡霊に囚われてしまってたところがあって、今回のフレディ役のジュリアンになかなか溶け込めなくて少々困惑してました・・・・。

とはいえ、ダンサーが布をばさっと羽織ってただ歩いてるだけでかっこよくて胸いっぱいになりましたし、体の動きのどの瞬間を切り取っても伝わってくる美しさに、静にも動にも激しくにも確かに伝わってくる踊りの力とエネルギーに、細やかな動作 仕草一つひとつに至るまでの鍛え抜いた身体のコントロールに、Queenのナンバーというすごくポピュラーな楽曲を使用しながら軽佻にならずバレエという抽象的な身体表現の芸術作品に仕上げていることに、感動しました。ステージから放つダンサーたちの膨大な熱量にも胸が熱くなりました。とても楽しい時間でした。できたらもう一度観てみたい!

この作品で衣装をデザインしたジャンニ・ヴェルサーチは1997年に、ベジャールは2007年に、この世を去っています。それでも、いまもこのように、クイーンの音楽とともに、新たな才能と個性をもつダンサーたちにこの作品の魂は受け継がれていってます。これもまたまさに、show must go onなんだと。

クイーンの数多ある楽曲のなかでも、Born to love you、Radio Ga Ga、Bohemian Rhapsodyなど超有名な曲以外に、take my breath away、Winter’s tale、Millionaire Waltzなどメロディラインの美しいバラードなどのラインナップのセンスの良さにも改めて納得です。

最後に、この公演、子供文化芸術活動支援事業で、18歳以下の子供が無料招待されてました。素晴らしい。子供たちにこういう作品どんどん観せてほしい。

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