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私のプロフィットロール

フランスてデザートを楽しむ

勿論甘いものは何でも好き。ガイドという仕事柄 モンサンミッシェルに週3回位日帰り往復していた時ランチもディナーも甘〜い林檎のお菓子を食べ過ぎ、(林檎はノルマンディー地方の名物だから)挙げ句の果てにフルーツはやはり生が良いと思ったことも一時あったが、コロナ禍でしばらくはノルマンディーに足を踏み入れられなくなった今、無性にタルト・タタン(林檎のタルトで、生地と中身がひっくり返っている)が食べたくなる。が…これはパン屋さんやケーキ屋さんでも買えない事もない。だから今でも近所の店でも手に入れる事が可能なので問題は無い。美味しい林檎のタルトの買える店も知っている。

コロナ禍のせいで私がフランスで今なくて寂しい思いをしているのはやはり他の人と同じくレストラン。現在の最悪な条件で店を開けてテイクアウトしてくれる店には本当に感謝しなければいけない。何故ならばもう半年以上も3食自炊を続けて、さすがに毎日続く自分のレパートリーに飽き飽きしているので、外食気分を味わえるのは有り難い。それでも敢えてわがまま言うのなら、その場で食べないと駄目なものがあってテイクアウトでは悩み解消が出来ないものもあるという事。

ふと思い出したのだが、ブロフィットロール(profiterole)が好きである。滅多に食べないのはテイクアウト出来ないデザートだからである。ではプロフィットロールとは何か?というと、シュークリームのバリエーションと考えると話は早い。ただし中身がカスタードクリームや生クリームではなく、ヴァニラアイスクリームなのである。また、食する時には必ず皿にのってサービスされる。何故なら上に熱いチョコレートソースがかけられるからである。

フランスに来て20年以上、最初少し困ったのは意外とカスタードクリーム入りのシュークリームがないという事であった。日本ではシュークリーム大好きだったから。フランスではパン屋さんなどの店頭で、白いザラメ糖がかかっていて、外見はシュークリームてあっても中身は空っぽで、その名もシューケットという、それはそれで美味しくて、小腹が空いた時に丁度よいものかある。軽くて食べやすいのて、今ではお気に入りになった。写真はシューケット、実は数日前、朝早くにたまたま通りかかったパン屋さんでみつけた。何でもそのパン屋さんはその日オープン記念日と言うことで、なんとシューケットをプレゼントしてくれた。いただいたからという訳ではなく、美味しかった。歯ごたえも、香りも、たかがシューケットと侮ってはいけない。

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或いはフランスではアペリティフ(食前酒)の時によくおつまみとしてサーヴィスされるグジェールという、やはり空っぽであるが、生地自体にすりおろしたチーズを加えてからオーヴンで焼くというシューもある。勿論甘くないが、美味しい。ブルゴーニュ-フランシュコンテ地方のスペシャリティである。  毎年ボーヌ(Beaune)市で開催されるオスピス・ド・ボーヌのオークションの際の<栄光の三日間>という行事の時には顔を出すのだが、その時には町中バーベキューやワイン、チーズなどのスタンドでいっぱいになる。グジェール売りのスタンドもいくつか出るので帰りには必ず買ってくる。大きさはシューケットと同じ位の一口サイズが当たり前と思っていたが、一度シャブリChablis(ワイン産地で白ワインが有名)のマルシェで見たグジェールはかなりビッグサイズで、たとえ中が空っぽとはいえ、アペリティフというよりメインディッシュで充分いける位。さすが!

料理にしてもデザートにしてもレストランで食べる時はお皿の中だけでなく、誰と食べるか(勿論一人だってあり)、どんな雰囲気かが大事かと思うので、そんな話も合わせながら、私にとって忘れられないブロフィットロールの思い出を3つご紹介。フランスに来て何回も食べているはずなのにたったの3回しか覚えていない。それだけその3回がキョーレツだったのか…?

①ボルドー ラントルコート L'Entrecôte  Bordeaux

実はステーキハウス。私がフランスで初めてプロフィットロールを食べたのは20年前にボルドーのこのレストランでメキシコ人の友人と。この店は当時ボルドーでは珍しく行列の絶えない店であった。   予 約は不可で、メニューは一種類だけ。サラダとフライドポテトにステーキ。焼き加減は選べる。デザートはプロフィットロールがおすすめ。友人は 一度ここで食事をしているのでよく知っていて助かった。独特なサーヴィススタイルなのでもし初めてで一人だったら何かと迷っていたであろう。とにかく、2人ともおしゃべりだし、周りも ガヤガヤだったので、それはそれは楽しかった。 ラントルコートはフランスに何店かあり、パリにもある。ただしボルドーのラントルコートはソースが赤ワインソースなのが決め手。何故かというと、ボルドーはワイン大生産地、アントルコート(牛肉の部位。最高級の部分)の赤ワインソースと言ったら地元のスペシャリティ、多くのレストランではこれが   自慢のオススメ料理としてメニューにのっている。どこでも実に美味しい。そんな中でラントルコートの人気の秘訣はやはり価格かな…?お手頃価格で美味しいとくればね…。さらにデザートにプロフィットロールというのもナイスな選択だと思う。

②パリ モラール  Mollard Paris

パリのサンラザール駅前。ここはシーフード自慢のレストラン。私がパリでガイドとして働きだして間もない頃にドライバーと話していて『美味しいシーフード料理の店』を質問した時の彼の答えがここの店であった。その後忘れていたが、偶然やはり仕事でお客様グループを迎えに来たのがここであった。通常私は約束時間より早めに到着するので、だいたいデザートの頃になる。その日サーヴィスは少し予定より遅れていて、メインディッシュがまだ終わっていなかったので.横の椅子に座って待つことにした。そこへ大きなプロフィットロールが一つのった皿を持ったレストランのサーヴィス担当の方がやってきて、「お待たせしてすみません。これ是非食べてみて。」と私に向かってその皿を差し出した。咄嗟にボルドーで食べた美味しいプロフィットロールを思い出した。が、チョコレートソースがかかっていない。直ぐに他のサーヴィス担当者が片手に何やら入れ物を持ってやって来て、先ずはお客様の各2個ずつのヴァニラアイス入りのシュークリームの上にソースをかける。ソースは熱々のチョコレートソースであった。私のところにもやって来てドバっとそのソースを。驚いた。何故ならボルドーのラントルコートではソースは予めかけてあったからである。しかし、食べる直前に目の前でかけてもらうというのは感激の他何ものでもない。ちょっとした    パフォーマンス気分を味わえ、またシューの中には冷たいヴァニラアイスクリームが入っているのだから、そのショー・フロワ(熱冷)の感触が口の中で広がって何とも言えないのだ。その日から私は益々プロフィットロールの大ファンになった。しかしながら毎日食べられるものではないし、テイクアウトしたら、この素晴らしさが半減してしまう…。

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 ③パリ ラ・クーポール      La Coupole Paris

パリのモンパルナス地区にある。モンパルナス大通り沿いの界隈にはいくつかこの様なレストラン、 カフェがズラ〜っと並んでいる。これらには20世紀初旬には画家達が頻繁に出入りした事で知られている。画家たちは当時お金があまりなかったので  コーヒー一杯て一日中居座っておしゃべりしたり、或いは水一杯でねばったりしたそうだ。そうして 知り合いの輪を広げていったそうだ。このラ・クーポールの店内はまるで写真展の様にピカソやジャン・コクトー達の思い出の写真が飾られている。 これを見るだけでも楽しい。ここでのサーヴィス 担当者は<ギャルソン>とよぶのがふさわしい。      白 シャツに黒ヴェスト、<タブリエ>とよばれている   エプロンが彼らの制服である。動きも軽く、決して気取っていないし、わざとらしくなく自然でかんじが良い。その日はフランス人の親友(ダンス仲間)と土曜日のおやつを食べながら喋りまくろうと言う事でこのお洒落で素敵なカフェレストランを選んだ。彼女とはよくお互いリサーチをして流行りの店を提案しあう。また、モンパルナスは家からそう遠くないので決めた。やはりでてきたプロフィットロールはパフォーマンス付き(ソースを目の前でかけてくれる)、また私達のテーブル担当のギャルソンはこう言って私を喜ばせた。親友に向かって、「プロフィットロールを選ぶなんて、貴女のお友達はフランス 料理をよく知っていますね。」すこし木に登るような気持ち、(ほら、豚もオダテレバ…)何故なら私は 褒め言葉にとても弱いのであった。

それはそれとして、プロフィットロールは本当に美味しいので甘いもの好きな食いしん坊はお試しいただきたい。また、その場の雰囲気も大事。たとえ3つ星レストランのような高級感がなくても、たとえそれが明らかに演出とわかってもサーヴィス担当者の立ち振る舞いは料理を良くも悪くもする。

プロフィットロールって「マリー・アントワネットも食べたのかしら…?」、いや、ありえない、このスタイルのプロフィットロールが出回ってきたのは19世紀初期、しかも最初はアイスクリームもチョコレートソースもなかったらしい。ではそれ以前は?というと肉などを詰めた甘くないプロフィットロールが食されていたらしい。偉大なるアントナン・カレーム(Antonin Carême)(1784-1833)がシューケットファルシーを発案した時にカスタードクリームあるいはホイップクリーム入のプロフィットロールが出現したがその時にはチョコレートソースのプレゼンテーションはまだなかったそうである。果たしてひんやりヴァニラアイスクリームと熱々チョコレートソースの組み合わせは誰の発案なのか、これは謎である。

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