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あの日から60年 イヴ・サンローラン展 後編



イヴ・サンローランのショー・デビュー60周年を記念しての企画展でパリの6箇所の美術館を巡ったまとめで、前回はイヴ・サンローラン美術館について書いてみた。今回はそれ以外のルーヴル美術館、オルセー美術館、ピカソ美術館、ポンピドゥー・センター、そしてパリ近代美術館を訪れて写真を撮りまくったりした結果のまとめをご報告。


5つの美術館での展示は似通った点もあれば何の共通点もなかったりするので順番に並べて見るより自分が関心を持ったポイントをいくつか挙げて素人の私が果たしてこんなに勝手にいじくり回して良いのか悩むところだが今回の企画の核心に少しでも近づけたら大満足なのだけど。


さて、先ずは今回の企画を全体的にもう一度振り返ってみた。
イヴ・サンローラン(以降YSLとする)は並外れた強運の持ち主であることは間違いない。なぜならあのクリスチャン・ディオールに認められたのだから。
でも運だけでは本当に凄いことは実現できない。それでは他に何が必要か?

才能と努力か…。

と、ありきたりの答えだがYSLの場合納得してしまうのであった。


今回のエキジビションで私的に一番心動かされたのはYSLと現代アートの関係性。パリで現代アートに多く触れられるところといえばポンピドゥー・センターが先ずは頭に浮かぶ。
しかも前編のイヴ・サンローラン美術館での莫大な数のデザイン画はすべてYSL引退記念のショーの為のものでその会場としてはポンピドゥー・センターが抜擢された訳だから。
ということで今回の6箇所の会場の中で唯一簡単ではあるが説明のパンフレットをヴィジター用に用意したりと力が入っているのがポンピドゥー・センターであった。

その説明の中では数多くの展示の中から3作品に焦点が絞られていた。YSLがマティス、モンドリアンそしてマルシャルレイスから受けた影響をもとに製作されたドレス達である。


まずマティスといえばその色彩の追求の見事なところが尊敬すべきところの一つであり、YSLも彼の絶え間ないその仕事に対する姿勢を絶賛している。

アンリ・マティス(1869-1954)
<ルーマニア風のブラウス>
1940年


先ずは2021年にポンピドゥー・センターで行われた<マティス展>の宣伝のポスターにも選ばれた為に、より印象の強い作品、<ルーマニア風のブラウス>にオマージュを捧げた一点が展示のスタートを飾った。この作品は他のYSLに比べてフォークロア調なところが特徴かと思われるが、スカートを除いて、色使いがマティスの作品とよく似ていてまさに<かわい〜い>感がある。

モンドリアンの作品は前編で紹介してあるので良かったらそちらを参照にしてほしい。 
https://note.com/yokokaise/n/nb3a6ab4dd650


また、ポンピドゥー・センターの展示で是非見てほしいのはポップ・アートとYSLのコラボである。
ポップアートというと一言で<アートの大量生産>、例えばアンディ・ウォーホールのポートレートなんかがそうである。
アンディ・ウォーホールとの出会いもYSLに多大なる影響を与えた。

これは近代美術館に展示されていたYSLのポートレート


さらに注目されていたのは同じくポップアートのマルシャル・レイスの<ラ・グランド・オダリスク>。


マルシャル・レイス(1936-)
<Made in Japan- ラ・グランド・オダリスク>
1964年


グランド・オダリスクといえばあのアングルの名作が浮かんでくるが、そのコンテンポラリー版である。そこから閃いたコートは1971年作だが、マルシャル・レイスの作品は1964年、さらにアングルというと偉大なる19世紀のフランス絵画を代表する画家だが、この作品は1814年のもの。

ドミニク・アングル(1780-1867)
<ラ・グランド・オダリスク>
1814年
ルーブル美術館所蔵


この時代を渡っての持続性と言ったら良いのか、それぞれのコンテクストの中で見え隠れする時代の流れがとても興味深いのである。

ピカソの作品もあったが、やはりピカソ美術館での展示に注目しよう。

<縞の帽子を被った女の胸像>、YSLのヴェスト


YSLはピカソの作品から閃いたドレス等を何着も製作しているし、とあるインタビューでも<常に注目している存在>と答えている。

ピカソ美術館はパリのマレ地区にあるオテル・ドゥ・サレという元々は17世紀に建立されたマレ地区で一番大きい邸宅。
1985年よりピカソ美術館として開館し、およそ5000点の作品を所蔵している。
とくに今回YSLの作品が展示されている階段付近が美しい。何故かYSLのドレスとよく合っている。特に気品を感じる。
<エレガント>という表現がピッタリである。


ピカソ同様、展示のコーディネートで感動したのは近代美術館のマティスである。可笑しいと言っても良いであろうがピカソと優雅な邸宅のインテリア、そしてマティスと広々とした室内の壁…、
この2つには何の共通点もない。 
なのに両方とも<素敵>という言葉が似合う演出なのである。

部屋に入る前は壁なので何も見えないが、入ったら突然にマティスの<未完成のダンス>がどど〜んと目の前に広がり、その前には3点のドレスが立っている。
反対側はダニエル・ビュランのシマシマが壁一面を飾っている。

立つ位置によってムードが全然変わってくるのでこれは面白い。
ヴィジターが自分で舞台を想像して演出できる。これこそまさに現代アートの楽しみ方ではないか。

何よりまた、このスケールに圧倒される。

同じく近代美術館では会場に入るなりラウル・デュフィの幻想的なイメージをバックにYSLの3点のアンサンブルにも驚いた。

これはまるでショーみたいだ。

更にまた展示会場の重要さといえばルーヴル美術館の<アポロンのギャルリー>にはまさに度肝を抜かれたといって良いだろう。

ルーヴル美術館、アポロンのギャルリー天井


会場に入ると先ずは天井に注目してしまうが、凄いのはそれだけではない。
見学者は自分の目の高さにある重厚な硝子のケースに、さらにその中にある今まで見たこともないような王、貴族が所有していた目に眩しい歴史の宝物に見とれてしまうのだ。

展示場所に関しては他のスペースも考えられた。例えばすぐ近くのイタリアのルネッサンス作品の展示場所とかもという意見も実際あったようだが、結局YSLがゴージャスなものを好んだというところからこの場所に落ち着いたそうだ。

ルイ15世の王冠


その横の壁に数点のキラキラ輝く宝石等で飾られたヴェストがまぶしい。

カラコ 1981年

上の写真は<カラコ>と言われる腰丈の女性用の上着で昔のものである。
1981年の秋冬コレクションの際に登場した。
絹から作られた布にスパンコール、宝石、飾り用の糸で刺繍されたものであるが「眩しい」の一言ではなくフランス史の中のモードの分野を感じるというと生意気であることを重々承知のうえで敢えて発言させてもらう。


さて、まだ今回全然触れていないのはオルセー美術館。
しかもあのマルセル・プルーストが絡んで来るのだから見逃せない。

マルセル・プルースト(1871-1922)の生誕100年記念のギイ男爵主催による1971年12月2日にシャトー・ドゥ・フェリエールでのパーティであるがその際YSLは数点のデッサンを描いている。中には男爵夫人、ジェーン・バーキン、エレーヌ・ロッシュのためのドレスも含まれている。

上の写真を見ると、ベル・エポックの時代に流行したスタイルのイメージが浮かぶと思う。
また、プルースト作の<失われた時を求めて>の登場人物を彷彿させる出来上がり。
もちろんプルーストの存在はYSLにとって重要であり、こう語っている。

「プルーストは最も女性について多く語った人で、また彼の人生は少しだけ私の
人生に近い。」


演出として興味深いのはモデルの後ろにオルセー名物(?)の時計が見えるが、100年生誕祭のとき元々駅であったオルセー美術館の建物の大時計のうちの一つの前でもプレゼンテーションが行われたそうなので、この話は知っておかないとこの展示の面白さ半減かな。

オルセー美術館での展示は二箇所のみで、もう一箇所にはマルセル・プルーストの生誕100年記念パーティーの為の、そしてジャン・コクトーの<双頭の鷲>のためのクロッキーが展示されていたが写真が上手く撮れてなかった。 ごめんね。一応載せておくけど。

実はまだまだ入りきれない写真も結構あるのが心残りだけどnoteを始めてから初めての大準備仕事、しかも短期間ということで(別に頼まれたわけではないけれど単に自分が引きずりたくなかっただけのこと)、怠け者の私としては頑張ったと思うので自分に褒美をなにかしようかと考えている。

今回はモードという世界でアートについて多く語ることが、そして学ぶ事が出来、YSLに感謝している。
自分なりにこの企画を理解することが出来たと思う(あくまでも今回の企画についてであって、YSLやその仕事についてはまだまだで、もっと奥深いものだと思うのでその追求に関しては続けなくてはいけない)。
もしこの記事を書くのが例えばモードのプロだったら全く違うものになっただろうなと思うし。

情報量があまりにも多く、よくあるようなバイオグラフィについて言及することがほとんど無かった。
しかしながら彼の過去について分析するのは今でなくてずっと後でいいと思うような、そう、YSLはまだ生きていて現役の人なのだと思わせるような影響力を残していってくれた人なのだ。


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