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フランス生活で美味しいパン屋さんが近所にあることはそれだけで幸せと言えるかも


つい最近、近所のパン屋のオーナーが代わった。 パリには美味しいパン屋がたくさんあるのだが、私の住んでいる12区にも、徒歩5分以内のところに10軒以上はパン屋がある。といっても正直なところ、多少当たり外れがある。値段も様々だったりする。

こちらでは主食はパン(特にバゲット)なので当然ながらその重要性は、日本ではご飯、特に白米と同じなのである。私は日本で生活していた頃から毎日白米ご飯を食べなくても、それどころか朝食に白米ご飯を食べてしまうと一日もたれてしまうので注意していたぐらいだ。

それでも20年以上前にフランスに着いた時は白米 ご飯が懐かしいと感じる事が多々あった。当時は パリにでも行かないと日本米は手に入らなかったし、その価格というのが恐ろしいほど高くて、学生には手の届かないものであった。仕方がないので スーパーマーケットで<カマルグの米>なるものを購入していたが、その後実際にカマルグ(フランス南部の米の名産地で知られている)まで行く機会があって食べた米とは全く異っていた。本場で食べたカマルグ米は日本の米とは違うが、味わいあって満足したのを覚えている。

そもそもフランスでは米の食べ方が違って、サラダにしたり、メイン料理の付け合せにビラフやリゾット、或いはデザートにリ・オ・レというカスタードソースと白米の組み合わせの、最初は個人的には馴染めなかった不思議なものもあるくらい、とにかく主食扱いではないのだ。

パンはフランスでは食卓に欠かせないもので、それは時には過剰といっても良い位、例えばレストランでピッツァを注文すると、追加料金無しでパンがついてくる位。しかもバゲットが。かなり炭水化物に悩まされる事が多かった時もあった。

昨年の今頃のロックダウンの時に、バゲット1本を買う為だけにパン屋に行き、罰金を言い渡された方が数人いたという話を聞いた。なるべく他人との接触を避けるために、買い物はまとめて行くようにということであったらしいが、その後罰金を払わされたのかどうなのかはわからないが、まとめて購入して、質の落ちた、あまり美味しくなくなったパンは食べたくないと言う気持ちはわかる。それでその人達は毎回食べる分だけ行きつけの店に買いに行ってたのであろう。

以前ボルドーに住んでいた時にも、郊外の庭付き一軒家に住んでいた人達は大きな冷凍庫を持っていて、毎週末の買い物の時に町なかのひいきのパン屋で一週間分のバゲットを買って凍らせて、食事の際にその時食べる分だけ自然解凍していたのを覚えている。バゲットは空気にさらして置きっぱなしにしておくとカチカチになってしまい、風味が落ちてしまうのでそれぞれ皆、自分の生活環境に合わせて工夫しているのだが、パリでは皆が皆そんなに大きな冷凍庫を所持しているとは限らないので出来るだけ美味しい状態で食べたい人はやはりこまめに パン屋に出向くのが正解であろう。

勿論バゲット以外に田舎パン、ライ麦パン、全粒粉パン、シリアルパン、パンドミーなど(クロワッサンとかは朝食や、或いは夕方に小腹がすいたときにかじっている人を見かける)様々な種類があるので好みによって、また、その時の気分で選べば良いが、 一般的にどんな食事にも合うというとやはりバゲットであろう。

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さて、話を戻すが今回の主役はウチの近所の新オーナーのパン屋、その名も<オノレ(Honoré)>といい、以前も同じ様な店名であったのを覚えている。味もなかなか、例えば私は今のアパルトマンに2015年から住んでいるが、友人を家に招待する時はしばしばそこのプティフールを出すと喜ばれた。また、手土産にここのチョコレートケーキを持っていっても感激された。ディスプレイも素敵であったが、一つ 困った事は、せっかく美味しそうなサンドウィッチやサラダなのに置き場所が悪く、いつも太陽がサンサンと当たってしまって、サーモンサラダなど午後になったら買う気がしなかったことである。誤解されない様に言わせていただくが、決して私は前オーナーの批判をしているのではない。ディスプレイ以外は良いパン屋だったと今でも思っている。

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オーナー変更の後は今までの食事パンコーナーの ところに上の写真の様に一切サーモン、ハム、チーズなどを使用したものを置かなくなり、中央の日の当たらないショーウィンドーに、昼までは食事パン、サンドウィッチ、サラダを置き、午後に同じ場所にケーキを置くようになった様だ。そのディスプレイは臨機応変であるが、クロワッサンやクレープなどは常にレジの横に置かれており、そして目立つところに<コーヒーとクロワッサン或いはパン・オ・ショコラのセットで2ユーロ>とわかりやすく表記してある。私にとっては、これでディスプレイの問題は解決されたのである。

早速バゲットと<トルサード>という名のパンを買ってみた。バゲットは<トラディション>、トルサードはチョリソー入りを選んだ。家に帰って(パン屋を出てから家の玄関まで5分とかからない)まずはバゲットから。「これ、美味しい!」と思わず笑顔が。

ところが、コレ!と思ったものを完璧に表現するのは本当に難しい。昔ソムリエ試験を受けた時に一番苦労したのはワインの品種当てとかそんなものではなく、ワインをどう表現するかであった。私の時代はまだマークシート方式ではなく、感覚を出来る限り鋭く研ぎ澄ませて、なけなしの語彙を引っ張りだしてそのワインの正体をエレガントに伝えなくてはいけなかった。例えば他人にこのパンがどんなものかを伝えるのに、粉の種類、水はなんの水かなどと言っても相手はピンとこないであろう。ワインの場合もまさにそれである。

そこで無駄かもしれないが、一本のバゲットのせめて皮と中身がどんな感じかを、まだ食べていない人にわかってもらうには…、と暫く考えていた。例えば皮は「パリッ」、「ギシッ」、「カリッ」とか…、 一番それらしいのは恐らく「パリッ」かと思うが、一言に行って「パリッ」にも色々あると思う。焼き加減、粉の質具合などによって違ってくると思う。中身だって「もちー」、「フワッ」などあるし、私はバゲットの奥深さと同時に、ただ「美味しい」としか表現出来ない自分の無能さが恥ずかしかった。

フランスではパンを評価する機会が頻繁にあるが、特にパリのバゲット・コンクールはよく知られている。何故なら、毎年行われるのだが、その年の優勝者には4000ユーロが渡される他、一年間は大統領官邸にバゲットを配達する事が出来るからである。

ウチから5分くらいのところに、2019年の優勝者のパン屋がある。評判も良く、常連も多く、よく店の前に長蛇の列も出来ている。そこでオノレとバゲット比べをしてみた。チャンピオン2019の方が皮が「カリッ」としている感が強いかなと思う。粉にもこだわりがあって、モッチリ感がオノレに比べると強いかも。ただし、こう言うのは好みの問題であって、私個人的にはオノレのバゲットに勝敗があがる。ただし、バゲットをハーフサイズで購入する場合、チャンピオン2019は一本を半分にカットしてくれるが、オノレは予めハーフサイズのバゲットを製造して販売しているので、ハーフサイズでバゲットを比較する事は出来ない。それ程繊細なのである。

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パンとは微妙でデリケートなものである。ところで、パリ市のバゲットコンクールについてもう少し詳しく話すと、毎年春に行われるのだが、候補者はトラディションのみを出品する。<トラディション>とは、何か?パン屋で「バゲット下さい。」と言うと、「トラディション?それともクラシックですか?」と聞かれる。そう、実はバゲットといっても、トラディションの方が美味しくて、少しだけ値も張るのに対して、クラシックは製造する際に規制が緩く、例えばグルテンなど添加してもよいとか、発酵時間も短く、温度はかなり高くても良しとある。トラディションの発酵時間が15〜20時間でその時の温度が4〜6℃であるのに対して、クラシックの場合は発酵3〜4時間で温度20〜29℃で許可されている。これだったらクラシックの大量生産が可能である。食べてみると、クラシックの方がかすかに乾いた感じがして、中身のふんわり感に欠け、皮は厚めで粉っぽい。さらにトラディションの販売に関してはその場でつくられたものに限って、冷凍してはいけないなどの決まりがある。


美味しいバゲットをたべたかったら、<トラディション>を選ぶ事。これは食いしん坊の常識である。


コンクールの審査員はM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)が中心、そして大統領官邸(エリゼ宮)の料理長、さらにはインターネットでの投票もあるのでかなり厳密である。審査基準は見た目、焼き、皮の噛みごたえ、香りと味である。また、長さは55cm〜70cm.重さは250g〜300gと定まっている。毎年200本以上のバゲット・トラディションが候補にあがる。オノレが参加した事が過去あるのか、または今後参加する予定があるのかは聞いたことがない。

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話はまたオノレに戻るが、私が特に高評価しているのは、オリジナリティをどんどん提案しているところである。例えば<トルサード・サレ>。普通トルサードというと甘いが、ここでは今のところ4種類の 食事用トルサードをつくっている。組み合わせはちょこちょこ変わるが、この間は<ベーコン>、<チョリソとピーマン>、<くるみとブルーチーズ>、<オリーブ、ハーブ、ドライトマト>であったが、とても美味しかった。何が美味しいかというと、パン生地の食感が最高であった。バゲットより柔らかいが、コシがあって、具とよく合っていて、工夫の跡と、創造性が感じられた。<トルサード>とはひねりのことであるが、そのアイディアが見事にパンと具をマッチさせた感じ。ちなみに下の写真はサンドウィッチ。

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これからも私はこのパン屋<オノレ>を応援しながら、全種類のパンとケーキの味見を制覇するつもりだ。

ところで、暑くなって食欲がない時にもここの美味しいパンを食べ続けるために考えたのだが、私は ガスパッチョが好きだけど(フランスのスペシャリティではないが)あまりにも暑い日は自分で作る気力もなく、パック入りをスーパーマーケット等で買って来るが、その日の気分でオリーヴオイルをたらしたり、或いは氷を浮かべたりすると食が進む。これがまたバゲットに合うのだ。ガスパッチョは通常トマトだけれど、最近キュウリもあって、あるいは赤ピーマンもなかなかいける。その他、よく試すのはオリーブオイルにおろしたパルミジャーノを合わせて、それにバゲットをつけて食べること。さらにロゼワインをマッチさせると真夏のテラスでのランチも楽しくなる。

でも本当に美味しいバゲット・トラディションは他に何もなくても、それだけで食べても幸せなのかもしれない。

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