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さとゆみゼミ#3「犯人しか知らない言葉」を研ぎ澄ます

「犯人しか知らない言葉」の効用について書きたい。最初に言ってしまうと、さとゆみさんの話を聞きながら、胸が熱くなり涙腺にまで伝わった。悲しくもないのに涙が出た。

犯人しか知らない言葉の凄さ。それが最も心に残った。

犯人しか知らない言葉を使う

島田紳助さんが、吉本の後輩芸人に行った「伝説の講義」での言葉だそう。
漫才にリアリティを持たせるテクニックとして紹介されたらしい。

「犯人しか知らない言葉」=「本人しか知らないエピソード」五感で書く。ディテールを伝える。

オール阪神・巨人さんの、漫才の一コマを例に出された。

「一万円を拾った」
    ↓
「雨が降っていて、アスファルトに一万円札がピターっと貼り付いていて、破れないようにそーっと剥がした」

本人だけが語れる個人的なエピソードを盛り込むと、読者が前のめりになる。話に引き込まれる。

「雷に打たれたような衝撃」とはつまり?

さとゆみさんから、インタビュー記事の裏話を聞いた。胸が熱くなり、涙で視界が揺らいだ。「犯人しか知らない言葉」の凄さよ。

さとゆみさんご自身のメディアCOLECOR.JP(コレカラ)で三浦一馬さんをインタビューされたときのこと。※バンドネオンという楽器の演奏家

三浦一馬さんは最初、バンドネオンとの出会いを「雷に打たれたような衝撃だった」と表現されたらしい。

さとゆみさんは、さらに「場所はどこだったのですか」と質問された。三浦さんも、その質問をきっかけに、当時の状況を思い出されたとのこと。記事を読むと、三浦さんのバンドネオンを見たときの衝撃や、逸る気持ちが伝わってくる。

当時『N響アワー』というNHKの番組があって、たまたま家族で夕食後にその番組を見ていたんです。今でも鮮明に覚えているのですが、画面全体に何やらボタンのようなものが並んでいて。「え? なんだろう」と思った瞬間に、カメラがズームアウトして、不思議な楽器を映し出しました。それを見た瞬間に釘付けになってしまったんです。どストライク。一瞬で自分がこの楽器を好きだということを確信しました。最初は動けないくらいの衝撃でその映像に見入っていたのですが、はっと思い立って慌てて自分の部屋に行き、ビデオテープを持ってきて、録画ボタンを押しました。当時はまだVHSでしたよね。番組が終わった直後から巻き戻して何度も見て、翌日からもテレビを占領してずっと見ていました。

COLECOLOR.JP「10歳で世界の扉を叩き、16歳でアルゼンチンへ。世界的バンドネオン演奏家。三浦一馬さん」2023/12/28

この後、バンドネオンの巨匠に初めて演奏を聴いてもらう場面。三浦さんがとても「緊張している」場面を、記事では次のように表現している。

小学生の頃からいろんなステージで弾いてきて、緊張なんてしたことなかったのに、その時ばかりは足がガクガク震えて、弾けたもんじゃない。バンドネオンって蛇腹がついてるので、震えるとこう、ガチャガチャと音がするんですよ。緊張で脚がずーっとガクガクして蛇腹が鳴っていたのを覚えています。本当に怖かった。

COLECOLOR.JP「10歳で世界の扉を叩き、16歳でアルゼンチンへ。世界的バンドネオン演奏家。三浦一馬さん」2023/12/28

「雷に打たれたような衝撃」という文言は、三浦さんにインタビューした他の記事でも使われていたという。本人も言い慣れた表現だったに違いない。

本人にしか語れないエピソード書く。読者の脳内に映像を作る。気持ちを聞くのではなく、そのときの状況や行動を細かく聞く。インタビュイーの記憶のトリガーを探す。


インタビュー記事にはライターの姿がにじむ

インタビュー記事にライターが自分の意見を書くことはない。しかし、原稿にはライターの姿がにじむ。

インタビュイーの言葉しか書かれていなくても、記事の解像度に現れる。

感想だけで終わらせない。

どこで?いつ?誰といた?天気は?寒かった?暑かった?すべて聞けないにしても、読者の脳内に映像を描くため、必要な情報を取りに行く。

書けなくなるのは好転反応だ

前回の課題は「推しを400文字で書く」だった。ほとんどのメンバーが「難しかった」「時間がかかった」と答えた。

私もしかり。書いては消してこねくり回して、400文字書くのに3時間くらいかかった。そのことに関して、さとゆみさんは次のようにおっしゃった。

400文字って指先で書こうと思ったら書ける。脳みそを停止しても書ける文字数。だけど、脳みそを動かしたからこと、書けなくなる文字数でもあります。これから、学べば学ぶほど文章は書けなくなります。「この言葉って安易にかいていい?」「この言葉よりいい言葉ない?」考え出すと、たった100文字書くのでさえ時間がかかる。好転反応だと思ってください。

課題を通して「なんとなく生きていた」という事実に直面した。エピソードはあっても、そのときの状況を五感をつかって語れない。犯人しか知らない言葉が、見つからない。

ゼミメンバーと話し合ったのは「なぜそれを選んだのか」「どんな気持ちなのか」など、ふだんから敏感になっていこう、ということ。言語化していく。

メンバーのそんな感想を聞き、さとゆみさんは「沼に入ってるね」とニヤリ。

この3ヶ月、面倒くさい人間になります。「深く見なきゃ」「感じなきゃ」「なぜ選んだ」「なぜ感動してるの」とぐるぐるするのは、正しい沼。面倒くさい人間こそ、いい文章が書ける。

感想を言いたくなったらチャンス。感想を言われたらチャンス。行動や状況、体の反応で表してみよう。

3カ月、いっぱい考えてぐるぐるしよう。めいいっぱい、面倒くさい人間になろう。


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