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小さな声を届けたい~コロナ禍で初動画を撮影するまで~


1 エスカレーターから動画を撮りたい

勤務先の出張所には、各課のイベントのチラシが送られてくる。それをロビーのパンフレット立に陳列するのは、私の仕事だ。
ある日もチラシを陳列していると、後ろのエスカレーターが、ガタガタと音がした。
数分経っても止まないため、「異常」と同僚を呼びに行ったが、その時はもう音が静まり、様子見となった。この日から私は『狼おばさん』となったのだ。
 老朽化がすすむエスカレーターは、何らかの音がしてもおかしくない。 
しかし、業者が来て、その状況が再現される保証はない。普段と様子が違うなら動画に記録すればいい。その日から、私はスマホで動画撮影を始めた。

同僚達は点検時には、異常は無いとしながらも、温かく見守ってくれた。 
そして、異常音を撮るのが目的としても、縦画面と横画面をどう撮ったらいいのか知りたいなと思い始めていた。

2 毎日ビデオジャーナリズムラボの門をたたく

その時、第7期 毎日ビデオジャーナリズムラボの受講生応募があった。 
4月から半年間。講義内容としては、個人の発信力を映像などを使って高めるプロジェクトだ。
しかも、ZOOMを使用するオンライン開催という。           
今までは、バリアフルの場所で車いすでは諦めていたが、オンラインでは問題は無いと、定員残り6人に何とか滑り込んだ。
 講師陣は、毎日新聞グループホールディングス顧問の小川 一さん。   
令和メディア研究所主宰、インターネットメディア協会理事 下村 健一さん。  
ジャーナリスト/NPO法人「8bitNews」代表の堀 潤さんが三人が講師を務める。一流のジャーナリストから、撮影の基礎を学べると、私は、わくわくした。                               次の章では、少しコロナ禍の生活について少し書きたいと思う。

3 コロナ禍の生活

 4月の始め、通勤電車がコロナで危険と言われると、報道に感化されやすい同居の母からは「あなたは絶対今月感染する。そしてお母さんも感染して死ぬ」と怒りのような脅迫のような言い方をされた。
 そうなるものかと免疫力強化のために、ノンアルコールの甘酒を飲み、手洗い・うがいは徹底した。母とは現在でも「暫く休め」「休まない」を繰り返している。
また、自分はコロナに罹らないという正常性バイヤスを壊すのにも必死だった。                                職場は、もしコロナに罹患したら、消毒等で、2日間休まざるおえないことが職員に説明された。コロナの融資で住民票の写し等が、必要な区民に迷惑がかかる。このような事や持病の喘息もあって、家と職場の往復しかできなくなった。ゴールデンウイークは、家から外出禁止の部長命令が出たりした。

人事としても、重症化する恐れのある職員等には、長期在宅勤務や時差出退勤を推奨しているが、職場のサーバーは、自宅のパソコンからアクセス出来ない。階段があって、職員通用口に行けない。車いすで喘息持ちの私には制度を使うのは、難しかった。

それから「四つ葉さんは退庁後出かけてないよね?」と度々確認された職員もいた。(コロナ前は、しょっちゅう私が出かけていたからだ)まるで感染するなら私が1番先と言わんばかりに。

多方面からのプレッシャーに不安で押しつぶされそうになった時に、藤井風(Fujii Kaze) - Piano Live Streaming ピアノ弾き語りライブ配信 Day 2をYouTubeで観覧した。
彼は、配信終了直前、私達に「みんな大変なことも今多いじゃろうけど、落ち着いていたら、絶対わしら大丈夫やけん。いつも冷静にね。優しく」と語りかけてくれた。世の中に絶対なんて無いけれど、誰かに大丈夫って言って欲しかったなと、心に沁みていた。その時に自分の不安が、かなり消えていくのを感じた。


4 課題と講評 

毎日ビデオジャーナリズムラボは、最終目標がインタビューをして、編集し、YouTubeに動画をUPすること。
内容は、月1回のゲスト講師の講話の他に、動画を撮る際のアドバイスや受講生が提出した課題を講評されたものが、配信されたりした。
どのゲスト講師も、取材対象者との信頼が第一と、作品よりも信頼関係を築くのに時間をかけていたり、自分の生い立ちとしっかり向き合える話は、とても有意義だった。

そして、堀講師は、緊張して上手く喋れない私の為に、進行しつつもチャットをこまめに見てくれた。それはまるで聖徳太子のようだった。

 課題の講評についても、物語性のある1枚という課題で、私があるデパートの出入口がコロナで1Fに集約され、いつも行くエレベータのデパ地下の入口が閉鎖されたが、地下道のB2しか閉鎖の案内が無い。1Fにも案内が欲しいと案内の看板を撮影して投稿した。                  下村講師は「1Fに案内が無いという写真の方が良かったのでは。現場を見てみないと分からないけれど」と言われ、(この時下村講師の声は鋭く、怖かった気がした。いつもTVで見ていた一方向ではなく、多方面を見るという姿勢を感じた。後で、とてもお茶目な一面もあると知る)           
堀講師は「車いすやベビーカーを押した親子ずれもしくは車いすの利用者の方が看板を見ていた画の方が良かったと思う」             小川講師は「僕もベビーカーの親子ずれか、やらせになっちゃまずいですけど、消毒液等、もう1アイテム何かコロナを連想させる物があれば」と言われた。自分の撮影の未熟さを痛感した。

最終目標のインタビューについても、相手が地方在住で、リモートでインタビューをしたいと講師陣に問うと、小川講師は「こんな時代だからこそ、リモートインタビューもOKなのでは」と理解を示していただけた。

5 最終目標の動画撮影に向けて

最終課題の相手として、森 俊介さんにインタビューのOKを貰う。   
2014年に、渋谷に森の図書室をオープンし、2020年長崎県壱峻島で、(仮)島の図書室をオープンさせようとしていた。森さんとは、森の図書室のクラウドファンディングで、知り合った。
 車いすが行けるかどうか不明なのに、この企画応援したいと支援して、階段があるために、重い電動車いすは、持ち上げられず利用するのが厳しかったのは、後で知った。

私は、緊張すると、顔が強張るので、カメラやビデオは大の苦手だったが、インタビュアーなら声だけでOK。まして知り合いなら、さほど緊張しないだろうと思ったのだ。(この考えは、後に大幅な変更を余儀なくされる)
 インタビューの打ち合わせと思っても、森さんと互いに時間が合わず、長雨の影響で図書室の建設に遅れが出てきた。

 そんなある日、森さんからインタビューはOKなのだが、YouTubeはちょっとと断りのメールが来た。

私も動画を撮られるとなると、躊躇う。それなのに断るのを嫌だと言える筈もない。
課題提出はしないと思っていたら、自問自答でもいいと思うという堀講師のメッセージを見た。
 そして、動画を撮るかも決めていないのに、堀講師のスピンオフ講座に参加した。
 現在制作中の動画についてアドバイスがいただける講座である。
 前にオフラインでも参加している受講生は、すでに動画や構想があった。
 しかし、私は何も無く、車いすでも撮れる構図や自分が伝えたいという姿勢と観た方に考えて貰う姿勢とどちらがいいか質問した。
この後、この講座を無断で撮影された方がいたが、撮影前に一言断る方が良いと堀講師が示されたのは、取材の礼儀としても、とても大事なことだと思った。
 

6 小さな声を届けたい

 伝えたい事はあるけど、自撮りは恥ずかしい。
そんな葛藤をしていた時、背中を押された講義があった。

Schooの心をつかむ超言葉術「SNSでの言葉の発信」の仕方だ。      
この中で、講師の阿部 広太郎さんは「小さな声だとしても、自分の声を届けたい。手を伸ばせば握ってくれる人はきっといる」「遠慮はするな、配慮はしろ」(自分の思いを出すのに、誰にも遠慮はするな。しかし読む方も人間なので傷つく気持ちにならないよう配慮はしようの意味)「どうせ誰も見ていないと思って思い切り書きましょう」「きっと誰かが見ていると思って書き続けましょう」と心を揺さぶる言葉が多かった。

(※録画授業は、有料会員のみ視聴可能です。ご了承ください)

動画撮影でも、同じ事が言えるかも。
動画を撮ったら、誰かに届くのかな・・
セルフインタビューを、撮りたいと思った。
その頃、クラウドファンディングで、マスクヘッズさんの帽子とフェイスシールドが一体化したフェイスシールドキャップを購入した。


コロナに感染すれば、重症化する怖さは、もちろんあるけれど、このような商品を使用して、感染するリスクを下げ、外出の機会を増やす方が大切だと伝えたいと思った。


次の日の朝、藤井 風の「キリがないから」の歌詞
ここらでそろぼち舵を切れ いま行け未開の地


を聞きながら、喋りたい事をストップウォッチで計測する自分がいた。


7 全否定しての撮影 

いよいよ自室で撮影。
顔が強張るのは、マスクで見えなくしたが、最初の一言で緊張して言葉が出てこない。
 昔、クレーム対応で習った「お客様の感情に流されないように、対応する時は、自分を俳優か女優と思ってください」を試してみたが撮影できない。
 
 そこで、次を試してみる。
・画面に映っているのは他人。
・カメラなんか無い。スマホは石。
・動画なんて、公開しない。(本当は後で公開するけど)と否定をした。それでも早口にならないように気をつけて、3時間掛け、何とか2分弱の動画を撮り、編集したのだ。
後で、タイトルがあった方が良いと、サムネイルを追加した。
構図は、ほぼ正面で撮影したが、帽子の一体感が伝わらないと横から撮影した箇所もある。折角構図を習ったから、使用したかった。
どうやって、収納出来るかも撮ったらいいかもしれないと思ったが、マヒの左手を晒したくないと、強烈な潜在拒否が働いた。
 マヒの手で、フェイスシールドを開くと時間が掛かるとか、上手く左手で持てないから画像が乱れるとか理屈は、幾らでもある。
でも、根っこは『動かないマヒの手を、動画で晒したくない』だった。

今では、スマホのカメラで動画の撮影し、YouTube等でUPすれば、誰でも発信者になれる。
しかし、障害者への偏見は根強いものがあり、動画を見た方が私が伝えたい事よりも、障害に目がいき、伝わらない事もあり得るのだ。
良い視聴者ばかりでは無い。
 緊張しないで撮るのが、精一杯だったし、小さな頃からの偏見で、染みついた拒否感から、逃れる術を私は知らなかった。
こうして撮影した動画が【WITH コロナ生活をして行きたい 不安よりも対策をして行動】である。



8 作品発表会

 発表会は、第7期というだけあって、前期から受講している方もいる。私は初めてだから、改善点一杯だろうなと。少しでも緊張しないお守りに、ZOOMの壁紙を大好きなソフトの絵にした。
 後で知ったが、大賞や各講師賞が選ばれた。
 いよいよ講評が始まる前に、チャットに「緊張する。退出したい」と書いた。
 下村講師は、「思いをストレートに伝えていていいと思います。すごく。後はこの思いを更に皆に沁み込ませる為には、画の工夫をね。するともっと良くなる。家の中で撮ると、外でダイナミックに撮影するのと比べて、映像の制約が、どうしてもありますよね。このフェイスシールドのシーンなんかは、スマホを置いたり、何処かに立てかけて両手を自由にして構造を撮るとかフェイスシールドのシーンなんかは、帽子とどう繋がっているのか。横向きのシーンがすごく良かったので、ここまでやったから。後もう一歩ね。こういう仕掛けなんですよというのをやってみるとか。外に出て行くなんて終わりの方にありましたけど、敢えてそのフェイスシールドをして『外出の時はこれを着けま~す』と言って玄関から1歩出る所まで撮ると、変化があって、ここから外に出るのがすごく判ってタイトルである「不安より対策をして行動」というのが、その目で一発でメッセージとして伝わるので、ちょっと画の工夫をすると、もっともっと伝わるようになりますから次からまたチャレンジしてみてください。」と講評された。
 

小川講師は「冒頭の喋り方がすごく引き込まれて出だしとしては、ばっちりだったと思いますね。後1回も外に出ていう事を、何か別の形で、表現出来たらな。例えば手帳を見せていてこの日から全然外に出てるのがない。この日が最後で、手帳は出ていませんとか。そういう事をカレンダーでもいいんですけど、出てない日は〇で何個目ですとか。そういう事がちょっと間に入るとより説得力があったのかな。このコロナの自粛の日々というのは、終戦直後のいろんな日記とか、戦争中の日記がすごく価値をもつみたいに、ほんの僅かな事でも多分将来的に価値をもつ歴史的映像になるので、その中の一つに十分なる作品だと思います。良かったです。」と講評されました。  

ゲスト講師は、「場面が殆ど変わらないという事によって、それだけ移動が出来ていない。それだけ狭い範囲の中で行動するしかないんだなと、制約されている窮屈さが伝わってきて良かった面もあった。だからこそ最後の言葉が、それによっていきてきたと思う」と講評されたので、これは自分の気持ちが伝わったと、とても嬉しかったです。

9 未開の地の先へ

堀講師は「当事者の方が、こうしてご自身で吐露する。すごくインパクトがあります。今回初めてトライされたかと思いますが、普段は、中々顔とか名前を出したり、声を出すのを緊張するという中よく顔出しで気持ちを発信してくださいました。お疲れさまでした。これからも応援していま~す」と講評されて、8bitNews賞をいただけました。
 多分これからも、動画撮影を続けて欲しいという励ましが、大半を占めていると思いますが、その励ましに、応えられるように、動画撮影を続けたいと思います。
                 終
ここまで、長い文章をお読みいただいた読者の皆さま。
お名前使用を快諾いただいた毎日ビデオジャーナリズムラボの講師陣   小川 一さん・下村 健一さん・堀 潤さん。            
そして(仮)島の図書室 森 俊介さん。
引用の快諾をいただいたコピーライター 阿部 広太郎さん。
第7期毎日ビデオジャーナリズムラボの受講生とゲスト講師の皆さま。
最後に、コロナ禍の生活を、言葉や音楽で支えてくれている藤井 風さん
ありがとうございました。

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