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懲戒処分の方法

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 私は、今から9年前、夫と共に大阪市内にレストランをオープンしました。

 しかし、当時、私も夫も飲食店経営は素人でしたし、そもそも何かの事業をすることも未経験でした。

 何からどう始めたらいいのかも全くわからなかったので、オープンに先立って神戸大学の教授がされていたビジネス実践塾に入塾し、事業計画の立て方を教えてもらいました。

 おかげさまで開業資金の融資を受けることができ、開業にこぎ着けました。

 昨夜は、その時お世話になった教授と同じ実践塾の仲間、実践塾進化版である(と勝手に私が思っている)「イノベーションアクセル」という研究会の会員の皆さんが、お店に遊びに来て下さいました。

 ずーっとリアルでは会えない状況が続いていましたが、やはり面と面を合わせてじっくり話をするというのは、人間にとって大切なこと、いや、必要なことだと感じました。

 みなさんに支えられていることを実感できた、良い時間でした。

 さて、今日は、懲戒処分のしかたについてですが、懲戒処分をするにあたっても、面と面を付き合わせて処分対象者の話を聞くことがとても大切です。

 ただし、“話を聞く“と言っても、懲戒処分には作法がありますので、注意が必要です。

懲戒処分の根拠規定

 懲戒処分は、その懲戒の理由となる従業員の行為の性質および態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効になります(労働契約法15条)。

 懲戒処分は、懲戒権という権利に基づいて、その権利の行使が濫用にならないようにしなければなりません。ということは、まずは、懲戒権がなければなりません。

 そして、懲戒権は、懲戒の理由となる事由と、その事由に対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記され周知されることによって発生します。

 刑罰を科すに当たっても、刑法等の法律でどのような行為がどの罪に該当するのかを明確に定めて、それを公布しておく必要がありますが、それと同じ原理です。

 企業の秩序を維持するために、就業規則等に定めがなくても使用者は当然に懲戒処分を科すことができるようにも思えますが、企業秩序の維持のためには懲戒処分以外にも普通解雇や配置転換、昇給・昇格の見合わせ、損害賠償請求などの方法もありますから、当然に懲戒処分を科すことができるということにはなりません。

 ですから、懲戒処分をするためには、まずは就業規則等で懲戒処分に関するルールを定めておくことが必要です。

客観的に合理的な理由の存在

 つぎに、従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当し、「客観的に合理的な理由」があると認められなければなりません。

 日常的な業務の中の行為を特定した上で、その行為がどの懲戒事由に該当するのかを客観的合理的に説明することは、結構難しいものです。

 小説やドラマのようにストーリーが明確なことは現実の世界ではそれほど多くありませんし、明確であっても客観的にその行為を説明するには技術が必要です。

 そのため、行為を的確に抽出できず特定が不完全なまま懲戒処分してしまった、ということもあります。

 そうなると、後に裁判で懲戒処分の有効性が争われることになれば、いったいどのような行為に対して懲戒処分が下されたのかが分からず、結局懲戒処分が無効とされてしまうことにもなりかねません。

 懲戒事由に該当する行為の抽出と特定は、慎重に行うようにしましょう。

社会通念上の相当性

 さらに、懲戒処分は、「当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、・・・社会通念上相当である」と認められなければ無効です。

 懲戒事由に該当する行為であっても、その行為の性質・態様や、処分を受ける従業員の勤務歴などに照らして、その懲戒処分を下すことが重すぎる場合には、懲戒処分は無効と判断されます。

 この社会通念上相当かどうかの判断の1つの要素に、手続きの相当性があります。

 つまり、就業規則や労働協約で、組合との協議や懲戒委員会の討議を経るべきことが決められている時には、当然その手続きをふまなければなりませんし、そのような手続きの定めがない時でも、原則として処分を受ける従業員に対して弁明の機会を与えることが必要です。

 弁明の機会を与えなかった場合には、懲戒処分が無効になる可能性があります。

 ただし、本人が事実関係を全面的に認めているとか、明らかな証拠が出そろっていてわざわざ本人に弁明させる必要性がないような場合には、その行為の性質や重さにもよりますが、弁明の機会を与えていなくても懲戒処分が有効とされた裁判例もあります。

 しかし、「弁明の機会」と名付けるかどうかは別として、非違行為を行った従業員とは、面と面を合わせて十分話をしておくことが大切です。

 懲戒解雇以外の懲戒処分であれば、再発を予防するために本人の自覚を促すことが必要ですし、懲戒解雇処分の場合でも、本人がそのような処分を受けても仕方ないと納得することでその後の訴訟リスクを抑えることができます。

 また、弁明の機会を与えることで、見えていなかった社内の問題が発覚することもあります(実は陰でパワハラ行為が横行していたとか、実は黒幕が他にいたとか・・・)。処分対象者とじっくり話をしてみることが、このような問題発見のきっかけとなるものです。


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