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従業員を引き抜かれた!

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 優秀な人材ほど会社に定着しない、という悩みを抱える経営者は少なくないはずです。

 しかも、優秀でしたたかな従業員は、在職中に他の優秀な人材を自ら発掘し、自分の退職に際して連れて行ってしまうことも往々にしてあります。

 そうなると、会社の被る損害はただごとではありません。

 では、会社は他の従業員を引き連れて退職した元従業員に対して、その被った損害の賠償を請求することはできるのでしょうか。

引き抜き行為の違法性

 引き抜き行為に対して損害賠償請求が認められるには、その引き抜き行為が違法であると評価されることが必要です。

 では、引き抜き行為は違法なのでしょうか。

 もちろん、会社としては、引き抜き行為を完全に阻止したいと考えるでしょう。

 しかし、他方で、従業員側には職業選択の自由があります。引き抜かれる従業員も、自分の自由な意思で他社への転職を考えているはずです。それを、会社が「引き抜き行為は違法だ」と言って引き留めることはできるのでしょうか。

 裁判例は、単なる転職の勧誘に過ぎないような引き抜き行為は違法ではない、としています。

 単なる転職の勧誘といえるかどうかについては、問題になる余地がありますが、おそらく、特に役職にも就いていないような平の従業員が他の従業員に声をかけて一緒に転職するような場合は、転職の勧誘に過ぎないと判断される可能性が高いと思われます。

役員や幹部従業員による引き抜き行為

 これに対して、取締役や幹部従業員であれば、話は別です。

 会社に在籍中、従業員は、使用者の利益を不当に侵害してはならない信義則上の義務を負います。労働契約を締結したことにより当然に負う義務です。

 もちろん、役職のない平社員もこの義務は負いますが、幹部従業員は使用者側に近い立ち位置にいることから、より高度な義務を負うと考えられます。むしろ、会社の経営に関わる立場にありながら、会社の利益に反するような引き抜き行為をすることが違法と評価されやすいことは、なんとなくおわかりいただけるのではないでしょうか。

 具体的には、「勧誘の態様が会社の存立を危うくするような一斉かつ大量の従業員を対象とするもの」、「幹部従業員がその地位・影響力を利用し、会社の業務行為に藉口して又はこれに直接に関連して勧誘するもの」、または、「会社の将来性といった本来不確実な事項についてこれを否定する断定的判断を示したり、会社の経営方針といった抽象的事項についてこれに否定的な評価をしたり、批判したりする等の言葉を弄するなど、その引抜行為が単なる転職の勧誘を超え、社会的相当性を逸脱した不公正な方法で行われた場合」には、幹部従業員の誠実義務違反が認定されます(東京コンピュータサービス事件東京地方裁判所平成8年12月27日判決)。

 要は、やり方が酷いな~とだいたいの人が感じる方法でなされた引抜行為が違法と評価されやすいということです。

 取締役に至っては、より明確に法律上会社に対して忠実義務を負っています(会社法355条)。

 (忠実義務)
第355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

 したがって、引き抜き行為がこの忠実義務に違反していると評価されるときは、違法として損害賠償請求の対象となりえます。

損害賠償の額

 引抜行為が違法になれば、損害賠償を請求することができるようになるのですが、その損害としては、退職した従業員が働いていたら得られたであろう利益の1~2か月分が認められています。

 退職者を補う人材の確保に時間がかかるとしても、使用者であれば、引抜行為の有無にかかわらず、いつでも退職の危険と隣り合わせですから、実際に確保できた時までの損害を請求できるわけではありません。

 ですから、引抜行為があったとしても、がっかりしている暇はありません。早めに次の新しい人を見つけましょう。

引抜対策として一番いい方法は?

 引き抜かれて困った~となる前に、まずは、引き抜かれない対策を取ることが最も良い方法です。

 そして、引き抜かれないための対策として最も有効な方法は、優秀な人に選んでもらえる会社、優秀な人材に育った従業員が末永く活躍してくれる会社になること、ですね!

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