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会社の情報を持ち出した従業員の責任

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 ゆうべは荒れ模様の天候でしたが、今日は良い天気になるといいですね。

 さて、会社には、様々な情報があります。

 開発・製造を行っている会社であれば、製品に関する情報が会社にとっての大切な資産になるでしょうし、営業販売を行っている会社であれば、顧客に関する情報が会社の大切な資産のはずです。

 では、この大切な会社の資産を勝手に持ち出した従業員は、刑罰を受けるのでしょうか。

刑法上の責任

 まず、従業員が会社の重要な情報が記載された書類を持ちだした場合には、刑法上の窃盗罪(刑法235条)や業務上横領罪(刑法253条)が成立します。

 しかし、この場合、窃盗や業務上横領の被害品は、大切な情報そのものではなく、その情報が記載された「紙」です。

 刑法上、情報自体を保護する罰則はありません。

 ですから、スマホで会社の情報を撮影して持ち出した場合には、刑法上の罰を受けることはありません。

 また、社内のコンピューターの中の情報を、従業員自身のデバイスにコピーして持ち出したり、メールに添付して送信したりする行為は、刑法上の犯罪には該当しません。

不正競争防止法上の責任

 しかし、実際には、情報自体こそが保護されなければなりません。

 そこで、不正競争防止法は、数度の改正により、情報自体の保護を図っています。

 不正競争防止法の改正の経緯の詳細については、経産省が資料を出しています。

 平成15年改正で営業秘密の漏洩についての罰則が新しく設けられ、平成17年改正では、営業秘密の刑事的保護が強化(処罰の対象が拡大)されました。
 平成18年改正では、営業秘密、秘密保持命令違反罪に係わる刑罰が、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に引き上げられました。
 平成21年改正では、営業秘密侵害罪の目的要件が変更され、また、営業秘密の領得自体への刑事罰が導入されました。
 平成27年改正では、事業者が保有する営業秘密の漏えいの実態及び我が国産業の国際競争力の強化を図る必要性の増大等に鑑み、事業者が保有する営業秘密の保護を一層強化するため、営業秘密の刑事的保護について、営業秘密侵害罪の罰金額の上限の引上げ(2000万円以下の罰金へ)、その保護範囲の拡大等の措置を講ずるとともに、民事訴訟における営業秘密の使用に係る推定規定の新設等の措置を講じられました。
 平成30年改正では、データの利活用を促進するための環境を整備するため、ID・パスワード等により管理しつつ相手方を限定して提供するデータを不正取得等する行為を、新たに不正競争行為に位置づけ、これに対する差止請求権等の民事上の救済措置を設けられました。

(罰則)
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・・・
四 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、その営業秘密の管理に係る任務に背いて前号イからハまでに掲げる方法(※)により領得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用し、又は開示した者
※ イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
  ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
  ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
五 営業秘密を営業秘密保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)
六 営業秘密を営業秘密保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第四号に掲げる者を除く。)
七 不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、第二号若しくは前三号の罪又は第三項第二号の罪(第二号及び前三号の罪に当たる開示に係る部分に限る。)に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
八 不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、第二号若しくは第四号から前号までの罪又は第三項第二号の罪(第二号及び第四号から前号までの罪に当たる開示に係る部分に限る。)に当たる開示が介在したことを知って営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
九 不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、自己又は他人の第二号若しくは第四号から前号まで又は第三項第三号の罪に当たる行為(技術上の秘密を使用する行為に限る。以下この号及び次条第一項第二号において「違法使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供した者(当該物が違法使用行為により生じた物であることの情を知らないで譲り受け、当該物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供した者を除く。)

ちなみに民法上の責任は?

 なぜ従業員が会社の情報を持ち出したがるかといえば、その多くが金儲けのためです。

 情報を売却して一時的なお金を得たり、持ち出した情報を自分のために利用して金儲けをしたりするためです。

 会社としては、会社の大切な情報を持ち出された挙げ句、持ち出した従業員が良い思いをしているとなれば、到底許すことはできないでしょう。

 そのような場合には、会社の被った損害の賠償を請求することになります。不正競争防止法では、民事訴訟上の立証責任が一部被告側に転換されていますので、会社としては、その点では訴えやすくなっていると言えます。 

防御も従業員のため

 会社は、大切な情報が簡単に持ち出されることのないよう、日頃からセキュリティ体制を整えるようにしましょう。

 簡単に手に入る状態になければ、わざわざ大きな危険を犯して営業秘密を持ち出そうとする従業員は減るはずです。

 従業員に魔を差させない体制づくりは、会社だけでなく従業員を守るためのものです。

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