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有期労働者の契約更新の上限年齢を65歳とする就業規則は合理的な労働条件か

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 いつまでも若いつもりでいるのですが、おじさんだな~と思った人の年齢が実は自分よりも下だった、ということがたびたび起こるようになっています。

 世間からしたら、私も年なのかもしれません。

 65歳を超えたら雇止めをされる、なんてケースに出くわすと、「そんな若い年で?」と思わざるをえません・・・

 ということで、今日は、有期雇用労働者の契約更新の上限の年齢を65歳とした就業規則に合理性があるかどうかが争われた裁判例を紹介します。

就業規則の有効性

 まず、前提として、就業規則がルールとしての効力をもつために必要とされる要件は、労働契約法上、以下のように定められています。

第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。・・・(以下省略)

 要件の1つ目は、使用者が就業規則を「労働者に周知」させていることです。

 形式的にどのような掲示をしなければならない、ということではなく、実質的に事業場の労働者たちが就業規則の内容を知りうる状態に置いてあることが必要です。

 実際に内容を知っていることまでは要求されません。

 採用の時に知ろうと思えば知ることができる状態にしておくことが必要ですし、採用後も同様です。


 要件の2つ目は、合理的な労働条件が定められていることです。

 合理性はそれほど厳格には求められません。人事管理上の必要性があり、労働者の権利・利益を不相当に制限していなければ、合理的であると判断されます。

日本郵便(更新上限)事件(最高裁判所第二小法廷平成30年9月14日判決)

 この裁判例は、就業規則がルールとして有効になるのに必要な要件の2つ目の要件である「合理的な労働条件」に関して問題となったものです。

【事案の概要】

 被上告人である日本郵便株式会社は、平成19年10月1日に、期間雇用社員就業規則(「本件規則」)を制定し、被上告人が必要とし、期間雇用社員が希望する場合、有期労働契約を更新することがある旨、「会社の都合による特別な場合のほかは、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない。」旨(本件上限条項)を定めました。

 被上告人は、平成23年8月、同年9月30日をもって雇用期間が満了する期間雇用社員に対し、期間満了予告通知書を交付しましたが、同日時点で満65歳に達している期間雇用社員に対しては、本件上限条項により契約を更新しない旨を記載した雇止め予告通知書を交付して、その有期労働契約を更新しませんでした。

 被上告人は、平成24年2月、同年3月31日をもって雇用期間が満了する期間雇用社員に対し、期間満了予告通知書を交付しましたが、同日時点で満65歳に達している期間雇用社員に対しては、本件上限条項により契約を更新しない旨を記載した雇止め予告通知書を交付して、その有期労働契約を更新しませんでした(本件各雇止め)。

 これに対して、雇止めをされた従業員らが、被上告人による雇止めは無効であると主張して、被上告人に対し、労働契約上の地位の確認及び雇止め後の賃金の支払等を求めました。

【東京高等裁判所(原審)の判決】

 原審である東京高等裁判所は、以下のように述べて、上告人らの労働契約上の地位の確認及び本件各雇止め後の賃金の支払を求める請求をいずれも棄却すべきものとしました。

 上告人X1らは、本件上限条項の制定により、一定の年齢に達したことのみを理由に雇止めをされることはないという事実上の期待を失うにすぎず、被上告人が期間雇用社員について一定の年齢以降の契約更新を行わないこととすることには、必要性と合理性がある。本件上限条項は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に抵触せず高齢再雇用社員との均衡も取れている。さらに、各労働組合との間で本件上限条項と同内容の労働協約が締結されていること等を踏まえると、本件上限条項によって旧公社当時の労働条件を変更する合理性が認められる。そして、本件規則を周知させる手続も実施されている
 したがって、本件上限条項の定める労働条件は、本件各有期労働契約の内容になっており、本件各雇止めは、本件上限条項により根拠付けられた適法なものである。

【最高裁判所(上告審)の判決】

 最高裁判所は、「本件上限条項は、被上告人の期間雇用社員について、労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものであるということができる」としました。

・・・本件上限条項は、期間雇用社員が屋外業務等に従事しており、高齢の期間雇用社員について契約更新を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ、高齢の期間雇用社員について、屋外業務等に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に、その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず、被上告人の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。そして、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は、定年を定める場合には60歳を下回ることができないとした上で、65歳までの雇用を確保する措置を講ずべきことを事業主に義務付けているが(8条、9条1項)、本件上限条項の内容は、同法に抵触するものではない。
 なお、旧公社の非常勤職員について、関係法令や旧任用規程等には非常勤職員が一定の年齢に達した場合に以後の任用を行わない旨の定めはなく、満65歳を超えて郵便関連業務に従事していた非常勤職員が相当程度存在していたことがうかがわれるものの、これらの事情をもって、旧公社の非常勤職員が、旧公社に対し、満65歳を超えて任用される権利又は法的利益を有していたということはできない。また、被上告人が郵政民営化法に基づき旧公社の業務等を承継すること等に鑑み、被上告人が、期間雇用社員の労働条件を定めるに当たり、旧公社当時における労働条件に配慮すべきであったとしても、被上告人は、本件上限条項の適用開始を3年6か月猶予することにより、旧公社当時から引き続き郵便関連業務に従事する期間雇用社員に対して相応の配慮をしたものとみることができる。

 原審が、本件上限条項が、旧公社から被上告人に引き継がれた労働条件を労働者の不利益に変更したものであることを前提として、本件上限条項の合理性を検討した点については、旧公社の非常勤職員であった者が被上告人との間で有期労働契約を締結することにより、旧公社当時の労働条件が被上告人に引き継がれるということはできないとして、被上告人が本件上限条項を定めたことにより旧公社当時の労働条件を変更したものということはできない、としました。

 また、上告人らと被上告人との間の各有期労働契約は、本件各雇止めの時点において、実質的に無期労働契約と同視し得る状態にあったということはできない、上告人らにつき、本件各雇止めの時点において、本件各有期労働契約の期間満了後もその雇用関係が継続されるものと期待することに合理的な理由があったということはできない、とも述べ、結果として、本件の雇止めは有効であると判断しました。

 最高裁判所は、原審の判断のうち「本件各雇止めが適法であるとした部分は結論において是認することができる」としつつも、その理由付けについては違法があるとしています。ただし、原判決の結論に影響を及ぼさない事項についての違法であるとして、上告人の上告は退けられました。

よほどのことがない限り「合理的」

 裁判例上、就業規則の合理性が否定されたことはほとんどないようです。

 その判断のベースには、労働者が就業規則を受け容れて採用されたという前提状況があると思われます。

 いまさら合理的じゃないと言われても・・・ということでしょうか。

 ただし、経営者としては、労働者が嫌とは言えない弱い立場にあることを十分念頭において、就業規則が労働者の権利・利益を不相当に制限するような内容にならないように注意しましょう。




 

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