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労働施策総合推進法における事業主の責務

おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

今日は強引な前ふりなしで、ずばり中身に入ります。

労働施策総合推進法とは

 国の雇用政策を定めた労働施策総合推進法は、1996年に雇用対策法として制定された法律で、2007年の大改正を経て、2018年の働き方改革関連法により、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という名前に改正されました。

 長い・・・名前が長すぎて覚えられない・・・

 ということで、「労働施策総合推進法」と呼びます。

 この法律の中には、パワハラ防止に関する規定があるので、「パワハラ防止法」とも呼ばれています。

 労働施策総合推進法の目的は、次のように定められています。

 (目的)
第1条 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。
2 この法律の運用に当たつては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。

事業主の基本的責務

 労働施策総合推進法は、国や地方公共団体がなすべきことを定める他、事業主の基本的な責務として、①労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善、労働環境の整備、②事業規模縮小に伴い離職する労働者の再就職の援助、③外国人労働者の雇用管理の改善及び解雇・離職時の再就職の援助を定めています。

(事業主の責務)
第6条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善その他の労働者が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することができる環境の整備に努めなければならない。
2 事業主は、事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者について、当該労働者が行う求職活動に対する援助その他の再就職の援助を行うことにより、その職業の安定を図るように努めなければならない。

第7条 事業主は、外国人が我が国の雇用慣行に関する知識及び求職活動に必要な雇用に関する情報を十分に有していないこと等にかんがみ、その雇用する外国人がその有する能力を有効に発揮できるよう、職業に適応することを容易にするための措置の実施その他の雇用管理の改善に努めるとともに、その雇用する外国人が解雇(自己の責めに帰すべき理由によるものを除く。)その他の厚生労働省令で定める理由により離職する場合において、当該外国人が再就職を希望するときは、求人の開拓その他当該外国人の再就職の援助に関し必要な措置を講ずるように努めなければならない。

 労働施策総合推進法は、この基本的責務をベースにして、個別に具体的な義務を事業主に課しています。

 つまり、

① 募集・採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保

② 事業縮小等に際しての再就職の援助等

③ 外国人雇用状況の届出義務

④ パワーハラスメント防止の措置義務

です。

 以下、簡単に見ていきます。

募集・採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保

 事業主は、「労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」(労働施策総合推進法9条)こととされています。

 厚生労働省令(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則)では、年齢に応じた募集・採用に正当な理由がある時を例外として規定していますので、そのような正当な理由がないときには、原則的に年齢にかかわりなく均等な機会を与える必要があります。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則
第1条の3 法第9条の厚生労働省令で定めるときは、次の各号に掲げるとき以外のときとする。
一 事業主が、その雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをしている場合において当該定年の年齢を下回ることを条件として労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。
二 事業主が、労働基準法その他の法令の規定により特定の年齢の範囲に属する労働者の就業等が禁止又は制限されている業務について当該年齢の範囲に属する労働者以外の労働者の募集及び採用を行うとき。
三 事業主の募集及び採用における年齢による制限を必要最小限のものとする観点から見て合理的な制限である場合として次のいずれかに該当するとき。
 イ 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限り、かつ、当該労働者が職業に従事した経験があることを求人の条件としない場合であつて学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園(特別支援学校の幼稚部を含む。)及び小学校(義務教育学校の前期課程及び特別支援学校の小学部を含む。)を除く。)、同法第124条に規定する専修学校、職業能力開発促進法第15条の7第1項各号に掲げる施設又は同法第27条第1項に規定する職業能力開発総合大学校を新たに卒業しようとする者として又は当該者と同等の処遇で募集及び採用を行うときに限る。)。
 ロ 当該事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者(以下この項において「特定労働者」という。)の数が相当程度少ないものとして厚生労働大臣が定める条件に適合する場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。
 ハ 芸術又は芸能の分野における表現の真実性等を確保するために特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき。
 ニ 高年齢者の雇用の促進を目的として、特定の年齢以上の高年齢者(60歳以上の者に限る。)である労働者の募集及び採用を行うとき、又は特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用を促進するため、当該特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき(当該特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用の促進に係る国の施策を活用しようとする場合に限る。)。

2 事業主は、法第9条に基づいて行う労働者の募集及び採用に当たつては、事業主が当該募集及び採用に係る職務に適合する労働者を雇い入れ、かつ、労働者がその年齢にかかわりなく、その有する能力を有効に発揮することができる職業を選択することを容易にするため、当該募集及び採用に係る職務の内容、当該職務を遂行するために必要とされる労働者の適性、能力、経験、技能の程度その他の労働者が応募するに当たり求められる事項をできる限り明示するものとする。

 この義務に違反した場合には、都道府県労働局長による助言・指導・勧告の対象になります(33条、37条)。

 しかし、罰則はありませんし、これに違反する行為が無効になったり損害賠償請求の対象になったりすることも予定されていません。

事業縮小に際しての再就職援助計画の作成等

 事業主は、事業縮小等に伴って離職を余儀なくされる労働者に対して、再就職の援助をすることが努力義務とされています(6条2項)。

 この基本的努力義務を受け、事業主は、当該離職を余儀なくされる労働者の再就職の援助のための措置に関する計画を作成しなければならないこととされています(24条)。

 この計画の作成・変更にあたっては、労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴かなければなりません。

 また、作成・変更した時は、公共職業安定所長に提出し、その認定を受けなければなりません。

労働施策総合推進法
(再就職援助計画の作成等)
第24条 事業主は、その実施に伴い一の事業所において相当数の労働者が離職を余儀なくされることが見込まれる事業規模の縮小等であつて厚生労働省令で定めるものを行おうとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該離職を余儀なくされる労働者の再就職の援助のための措置に関する計画(以下「再就職援助計画」という。)を作成しなければならない
2 事業主は、前項の規定により再就職援助計画を作成するに当たっては、当該再就職援助計画に係る事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合の、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者意見を聴かなければならない。当該再就職援助計画を変更しようとするときも、同様とする。
3 事業主は、前2項の規定により再就職援助計画を作成したときは、厚生労働省令で定めるところにより、公共職業安定所長に提出し、その認定を受けなければならない。当該再就職援助計画を変更したときも、同様とする。
4 公共職業安定所長は、前項の認定の申請があつた場合において、その再就職援助計画で定める措置の内容が再就職の促進を図る上で適当でないと認めるときは、当該事業主に対して、その変更を求めることができる。その変更を求めた場合において、当該事業主がその求めに応じなかったときは、公共職業安定所長は、同項の認定を行わないことができる。
5 第3項の認定の申請をした事業主は、当該申請をした日に、第27条第1項の規定による届出をしたものとみなす。

第25条 事業主は、一の事業所について行おうとする事業規模の縮小等が前条第1項の規定に該当しない場合においても、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者に関し、再就職援助計画を作成し、公共職業安定所長に提出して、その認定を受けることができる。当該再就職援助計画を変更したときも、同様とする。
2 前条第2項の規定は前項の規定により再就職援助計画を作成し、又は変更する場合について、同条第4項及び第5項の規定は前項の認定の申請があつた場合について準用する。

 大量の離職者が発生する場合には、届出も義務付けられています(27条)。

(大量の雇用変動の届出等)
第27条 事業主は、その事業所における雇用量の変動(事業規模の縮小その他の理由により一定期間内に相当数の離職者が発生することをいう。)であって、厚生労働省令で定める場合に該当するもの(以下この条において「大量雇用変動」という。)については、当該大量雇用変動の前に、厚生労働省令で定めるところにより、当該離職者の数その他の厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。
2 国又は地方公共団体に係る大量雇用変動については、前項の規定は、適用しない。この場合において、国又は地方公共団体の任命権者は、当該大量雇用変動の前に、政令で定めるところにより、厚生労働大臣に通知するものとする。
3 第1項の規定による届出又は前項の規定による通知があったときは、国は、次に掲げる措置を講ずることにより、当該届出又は通知に係る労働者の再就職の促進に努めるものとする。
 一 職業安定機関において、相互に連絡を緊密にしつつ、当該労働者の求めに応じて、その離職前から、当該労働者その他の関係者に対する雇用情報の提供並びに広範囲にわたる求人の開拓及び職業紹介を行うこと。
 二 公共職業能力開発施設において必要な職業訓練を行うこと。

外国人雇用状況の届出義務

 事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、氏名、在留資格、在留期間等について確認し、それを厚生労働大臣に届け出なければなりません(28条)。

 (外国人雇用状況の届出等)
第28条 事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その者の氏名、在留資格(出入国管理及び難民認定法第二条の二第一項に規定する在留資格をいう。次項において同じ。)、在留期間(同条第三項に規定する在留期間をいう。)その他厚生労働省令で定める事項について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。

パワーハラスメント防止の措置義務

 労働施策総合推進法は、第8章で、「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」を定めました(30条の2から30条の8)。

 これがいわゆるパワハラ防止法と呼ばれるものです。

 施行日は、大企業は2020年6月1日、中小企業は2022年4月1日です。

 (雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

重大な責任を負う事業主

 労働施策総合推進法には、労働者を保護し安心して生活できる環境を整えてあげることが、事業主の責任であることが規定されています。

 事業主が社会の中で重要な役割を負っていることがよく分かると思います。

 誇りを持って会社経営に励んでください! 

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