従業員を育てるのは会社の責任ですか?
能力がない従業員や、問題行動を起こす従業員にどう対処したらいいか、という相談を頻繁に受けます。
会社は、その従業員をさっさと解雇すればいいのでしょうか?
『解雇はしない方がいい理由』でも少し書きましたが、解雇をするのはハードルが高いので、“さっさ“と解雇するわけにもいきません。
では、どうしたらいいのか!?
採用の際に注意すること
解雇が難しいなら、そもそも採用の時に気をつければ良い。
そんなことは分かってますが、実際に会社にとって「いい人」を見分けるのは至難の業です。
ところで、私は宝塚歌劇の大ファンです。
劇団の生徒さんたち(いわゆる「タカラジェンヌ」。宝塚音楽学校を卒業して、お給料をもらう劇団員となっても「生徒」と呼ばれます。)は、音楽学校時代からとても厳しい指導と教育を受けてもなお、向上心を持って(表向きには)文句1つ言わず芸事に励みます。生徒さんの不祥事もほとんどありません。
これが他の会社だったら、とっくに労使間の紛争が起こってしまっているのでは・・・と思ってしまいます。
この、“宝塚歌劇団の不思議“について、同業他社の方に意見をお聞きしたことがありました。
おっしゃるには、
宝塚は、劇団の理念を理解した上で、何年もかけて受験の準備をして、難関の試験を突破した志を同じくする子たちが集まっている場所だから、不祥事も起きにくいし、みんなが血のにじむ努力を重ね続けることができる
とのこと。
他の組織でも同じことが言えると思います。
会社の理念を明確に発信し、それに共感した人を集め、正式な入社前に時間をかけて入社前研修を行う。
このプロセスで会社のことをよく理解してくれた人だけを採用する。
そうすれば、入社後の教育もずいぶん楽に進めることができるはずです。
ただし、このような採用活動を可能にするには、会社の理念に賛同する入社希望者がたくさんいることが必要です。
そのためには、
① 企業理念の明確化
会社の理念を明確にして、社内外に発信し続けること。
② 社会的責任の明確化
経営者自身が、自社が社会的に意義のある存在であることを自覚し、それを社内外に発信し続けること。
③ 職場環境のたゆまぬ改善
従業員が働きやすい職場環境づくりに励み、従業員の満足度を上げ続けること。
が大切です。
そして、これらの取組みには終わりはありません。
①~③に取り組み続けることで、優秀な人材が押し寄せてくるはずです。
その中から自社に合う人材を見つけることにすれば、失敗の少ない採用活動ができるようになるでしょう。
試用期間において注意すること
本採用の前に試用期間を設ける会社がほとんどでしょう。
ではなぜ、試用期間を設けるのでしょうか。
「試用期間」とは、本採用の前に、正規従業員としての適格性を判定するために、試しに使用する期間です。
したがって、本来、この使用期間中に勤務態度や能力を観察し、従業員としての適格性がないと判断した場合には、本採用を拒否したり、試用期間中に解雇したりすることが、本採用後に比較して容易にできる制度であるはずです。
最高裁(三菱樹脂事件)も、試用期間中に解雇したり本採用を拒否したりするのは、通常の解雇よりも広い範囲において解雇が認められてしかるべき、としています。
ところが、実際の訴訟においては、本採用後の解雇と同じくらいのレベルで、試用期間中の解雇や本採用拒否は難しくなっています。
会社としては、いったん採用してしまったならば、試用期間だろうが正式採用だろうが、従業員を教育し、訓練し、指導する責任があるということです。
そして、従業員が期待した能力を発揮せず、または問題行動を取るのは、従業員が悪いからでなく、会社が責任を果たさなかったから、ということになるのです。
従業員教育の方法
では、会社はどのようにして従業員教育をすれば良いでしょうか。
1 目的・理念の明確化
まず、会社のことを良く理解してもらうことが大切です。
「どこに行くかわからないけど、とりあえず着いてきて~」
と言うだけで、長いイバラの道を文句1つ言わず着いてきてくれる人はまずいないでしょう。
行った先には楽園が待ち受けていると分かっているからこそ、長いイバラの道も辛抱して進んでいけるのです。
会社の目的・理念を明確に伝えて、役員も従業員も全員が同じゴールを目指していけるようにしましょう。
2 心構えの習得
まず、ひとりひとりの仕事に対する“心構え“を作ることが必要です。
そして、心構えは、日々の業務の中で、経営者や上司が懇切丁寧に辛抱強く教育していくしかありません。
業務上のミスは、自分の行っている作業の存在意味を理解していないことから生じることが多いので、なぜその作業が必要とされているのかを説明してあげましょう。
心構えは、一朝一夕にできあがるものではありません。
辛抱強く、繰り返し繰り返し伝え、みんなに考える機会を与えて下さい。
また、組織の中で働くということは、同僚、上司、部下とのコミュニケーションを図り、協力しあって結果を出すということです。取引先や地域コミュニティなどの社外の人達とのコミュニケーションも、会社が存続していくために必要なことです。
コミュニケーションを円滑にするにはどういう心構えでいることが大切か、常にみんなに考えてもらうようにしましょう。その際も、なぜコミュニケーションを円滑にすることが大切なのか、という根本に遡って、日頃から皆で話し合って確認することが重要です。
コンプライアンスや倫理感についても、心構えが醸成されていれば、個々の具体的な法律を知らなくても感覚で良いことと悪いことが区別できるようになります。もちろん、具体的な内容については、研修などを取り入れて習得させることが大切です。
ちなみに、“先輩の背中を見て自分で学べ“、というやり方は、なかなかレベルが高いやり方です。
夫婦の仲と同じで、言葉に出して言わなければ分からないのが普通です。
何度も何度も口に出して伝え、皆で確認し合って進めていきましょう。
3 技術の習得
日常業務に必要な技術の習得や、コンプライアンス教育・研修などは、業務を遂行する上で必要なことですから、OJT(on the job training)とは別に、年間の目標とプランを立てて計画的に実行しましょう。
その際には、社内のベテランに研修を実施してもらったり、トピックによっては外部の専門家を積極的に利用したりすることを検討してください。
研修費用を節約したために、大きな不祥事が発生して、取り返しのつかない大きな損失が出てしまった、などということのないようにしましょう。
従業員と共に
経営者にとって、従業員は戦友です。
目標に向かって共に戦い、共に成長することが、会社の永続的な発展につながります。
会社のコマや歯車としてしか扱われない従業員が、会社のために最大限の力を発揮してくれることはありません。
ましてや、十分な教育をしなかった結果不祥事を起こしてしまった従業員を会社の敵として見るような経営者ならばなおさら、身を粉にして働いてくれる奇特な人はほとんどいないでしょう。
経営者と従業員が共に幸せになれる組織づくり、がんばってください!
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