見出し画像

【タクシー・ショートショート】枕元に置いたもの

私は、その日、夕方の6時からタクシーに乗り、真夜中の3時に乗務を終えて、仮眠室のベッドに就いた。
夕方から雨が降り出したので仕事は忙しかった。
売上も3万円を超えた。
私は1日の成果に満足し、すぐに心地よい眠りについた。

1時間ほど経っただろうか。
私はトイレに行きたくなって目を覚ました。
年は取りたくないものだ。眠りについても、すぐに起きてしまう。

私はトイレで用を足し、手を洗った。目の前に、プラスティックケースに入ったペーパータオルがあった。
私はペーパータオルで手を拭いた。
私は何故かそのペーパータオルに愛着を感じた。
まるで自分の所有物のように、ケースごと手に持つと、自分のベッドまで運んで枕元に置いた。
私は、満たされた気持ちになり、再び眠りについた。

しばらくして、私は目を覚ました。明るくなっていた。携帯で時間を確認すると、朝の8時だった。
私は、さっき見た夢を思い出していた。
変な夢だったな。まるで宝物のようにペーパータオルを自分の枕元に置くなんて。
どうかしてるよ。
本当にそんな事をしたら、ヤバイやつだ。
人に見られたら、ボケたか頭が変になったと思われるだろう。
1週間近くタクシーを休んでいなかったから、疲れて変な夢を見たのかもしれない。

私は、そんな事を考えながら起き上がると、枕元を見た。
私は驚愕した。
枕のすぐ上に、ペーパータオルが置いてあったのだ。
私は、しばらく動けなかった。何故、ここにペーパータオルが置いてあるのだ?
私は考えた。さっきの夢は、夢ではなかった。実際に持って来たのだ。
だとすれば寝ぼけていたのだろうか。
私は、決してペーパータオルの信奉者ではない。
わからなかった。

私はすぐにペーパータオルを返しに行った。
幸い誰にも見られずに、一連の奇妙な行動を遂行する事が出来た。

私は、後日、その話を妻にした。笑い話のつもりだった。
しかし、妻は笑わずに一言だけ言った。
「こわい」



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?