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栗拾い

私が小さかった頃、祖母と栗拾いに行った。

うっそうと栗の木が生い茂る、ところどころに真っ赤な彼岸花も咲いている、そんな場所だった。


祖母にやり方を教えてもらい、小さなバケツの中に栗がどんどん増えていくのが

たまらなく嬉しい。

時間も忘れ夢中で栗を集めていた。


  ポツン

雨粒が私の頭に当たったのが判った。

それでも気にせず、栗を拾い続けた。


  ポツ ポツ サーサーサー

それはあっという間だった。

栗林は土砂降りになっていた。

  ザアアアアアアアア

「わあああ!お婆ちゃん!お婆ちゃん」

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お婆ちゃんがいない。

怖いよ

お婆ちゃん、どこ?

私は泣きながら叫んだ。

「お婆ちゃーん!」


「千花ちゃん、千花ちゃん」

栗林の奥からお婆ちゃんの声が聴こえた。

私は声のする方へと走った。

気がつくと栗がたくさん入っていたバケツは私の手にはなかった。


「千花ちゃん、ごめんごめん。一人にして」

私はお婆ちゃんの腰に手を回して、しがみついた。

「怖かったね、ごめんなさいね。お婆ちゃんが勝手に奥に入ってしまって。

もう大丈夫。雨がひどいからお家に入りましょう」


お婆ちゃんの手をぎゅっと握って私は歩いた。

そこには古い家屋がひっそりと建っていた。

「さぁ入りましょう。この家は栗林の持ち主さんが建てたの。栗拾いに来た人たちが休憩できるようにって」


入ってみると家の中には何もなかった。

丸いちゃぶ台が一つ。

8畳くらいの畳の上にポツンとあった。


お婆ちゃんは自分がいつも持っているタオルで私のことを拭いてくれた。

「風邪をひかないといいけど」

一通り拭き終えると、お婆ちゃんは小さなコンロの上に水を入れたやかんを置いて火をつけた。


シュンシュンという、やかんの音を訊いていたら私はすごく眠くなり、その後の記憶がない。

 


   ゴロゴロゴロ


「わぁ!雷だ」

「その内に大雨になりそうね」

「ボク、雷、好きだよ」

「颯太のそういうところ、私にそっくり」


あの後、お婆ちゃんは私をおんぶして家まで帰ったそうだ。

私が拾った栗は、全部なくしてしまったけどお婆ちゃんが集めた栗がたくさんあった。


翌日の夕飯は栗ご飯になった。

大きな栗がたくさん入っていた。

父も母もお婆ちゃんも、みんな笑顔で栗ご飯を食べた。


そのお婆ちゃんも2年前に天国に逝った。

私は結婚して10年になる。

  

  ピカッ! バリバリバリ


「近くに落ちたよ!」

「颯太、雨が降って来たから窓を閉めて」

「は〜い」

「お父さんは仕事で遅くなるから、先に夕ご飯を食べましょう」

「ボク、お腹がぺこぺこだよ」

「はいはい」


「あ!やったね、栗ご飯だ」

「今日はお婆ちゃんの月命日だからね。

今の時期はやっぱりこれが、お婆ちゃんも喜んでくれると思うのよ」

「うん、ボクもそう思う。お婆ちゃ〜ん、一緒に食べようね」

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     いただきま〜す。


        了








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