☆私にふりそそぐもの 3話
良いお年を〜
あちこちで、そんな挨拶をする光景が、多く見られる大晦日。
私は昨日で魚屋さんのバイトは終了し、毎年、大晦日の夜から、三ヶ日は、神社で巫女さんのバイトである。
大学生の時から毎年の恒例になった。
特別、時給が高いわけもない。
けれど神社仏閣に興味があるし、とにかく好きだから、巫女さんの助勤。
巫女の場合は、アルバイトとは云わない。
神様に関わる神職なわけで、バイトという呼び方はやはり合わない。
白衣に緋袴。
私は、この衣装が大好きだ。
気持ちが引き締まる。
「はい、咲希ちゃん」
同じ巫女の助勤をしている玲子さんから、カイロを渡される。
「毎年ありがとう、玲子さん」
「お礼なんて云わないでよ。100均のカイロなんだから」
「本当に助かる。冷えるからね。今夜は徹夜だしね」
彼女とはこの神社で知り合った。
玲子さんも毎年、巫女の姿になる。
可愛いというより、かなりの美人な彼女には、驚くことにファンがいるらしい。
「咲希ちゃん、あと3分で年が明けるよ!」
「うん!今夜も頑張ろう!」
す、すごい人数の人々。
その人達が、参拝を終えると、一斉に、
私のいる、お守りや、お札を求めて押しかける。
ドン! ドン! ドン!
太鼓の合図だ!年が明けた。
「皆様、ゆっくりお進みください。押したりしませんよう、わたくし共からもお頼み申し上げます」
住職の声が大好きな私です、な〜んてね。
「咲希ちゃん、何笑ってるの?住職の下手な歌が原因?あー来た来た!」
参拝を終えた人達が、一斉にここに向かって来てる!
毎年、思う「怖い!」って。
アッという間に目の前に人間の壁が出来上がった。
「これください。あと破魔矢」
「ようこそ御参りくださいました。
御守りと破魔矢ですね。少々お待ちください」
「こっちも急いで」
50代の男性がイライラしながら絵馬を手にしている。
「ちょっと!押さないでよ!」
後ろの方から声が聞こえて来た。
「おみくじ引くの〜」
「分かってるから、待ちなさい」
私は真冬なのに汗をかいているのが自分でもよく分かった。
「誰か、甘酒を振る舞うのを手伝ってもらえない?」
住職の声を、皆んな無視している。
だってこんなに忙しい中、抜けられっこない。
「ダメか〜仕方がない、僕が一人でするか」
皆んな無言でせっせと商品を袋に入れている。
誰も同情してくれないのが分かった住職は、寂しげに外に出て行った。
「手伝いたいわよ!でもこの状態で抜けるなんて出来ないじゃない!」
玲子さんがキレ始めてる。
眉間の皺が深くなってきた。
毎年恒例とはいえ、せっかく神様に会いに来てくださって、イライラしてたら神様は泣いてますよ〜。
あれ?
あの男の人……
「咲希ちゃん、どうかしたの?」
「ハッキリとは分からないけど、父が居たように見えたもので」
「ホントに!良かったじゃない!」
「はぁ、本物か、そっくりさんか区別が」
「きっと本当にお父さんが、咲希ちゃんを観に来たのよ!」
それならなんで、私に一言も云わなかったの?お父さん……。
「皆さん、お疲れ様でございます。甘酒で疲れを取ってください」
住職が、紙コップに甘酒を入れて一人一人に渡していた。
了
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