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映画『ゴッズ・オウン・カントリー』レビュー ~芸術性の高さにリアリティを兼ね備えたLGBT映画の傑作~

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人と人とは惹かれ合う

かつて、日本の有名な大島渚監督が、自分の作品である『戦場のメリークリスマス』のメインテーマは

人と人とは惹かれ合うという事だ

という言葉を残した。

私は、この大島監督の言葉と『戦メリ』という映画がとても大好きで、繰り返し繰り返し、この言葉を反芻しながら映画の余韻に浸ることがある。

昨今、日本でもセクシャルマイノリティと言われる『LGBT』についての関心や議論がたびたび沸き起こる。

議論の内容は、その時々でその内容は多岐にわたる。実際、個人的に共感できる議論もあるし、共感しにくい議論もあり様々だ。正直、少し遠目でみているくらいが丁度よいなと感じたりする。

人間というものは、自分の理解の範囲を超えたものをすんなり受け入れる事のできない存在であり、自分の考えと同調できるものしか観ない生き物なのだ。LGBTの議論は、そんな人間の許容度の限界を赤裸々にみせつけられたりするから興味深い。

私は、比較的早い段階から、LGBTについては、さほどの障壁もなく理解したいと考えてきた人間だ。だから、LGBTに関する映画も沢山みるし、どんな葛藤をかかえながら、社会の中で生きているかについても、できるだけ分かり合いたいと思っている。

自分が分からないものは、積極的に知るしか術がないからである。

そんな中、映画を通して、私がLGBTへの理解を進めることのキッカケになったのが、カナダ人の映画監督であるグザヴィエ・ドラン監督の存在だ。

新進気鋭の若い映画監督であり、彼の作品は、過去にたびたびカンヌ国際映画祭で評価されている。彼自身が同性愛者であること、そして、自分の感性を独特の切り口と独自の映像美で映画に表現していること、この2点において、彼のきわだつ才能から目をそらすことができない。

そんなグザヴィエ・ドラン監督が大好きな私。
今回、DVDで鑑賞した、映画『ゴッズ・オウン・カントリー』の芸術性とリアリティには、ちょっと鳥肌がたってしまった。

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ゴッズ・オウン・カントリー

映画『ゴッズ・オウン・カントリー』は、2017年のサンダンス映画祭のプレミア上映にて、監督賞を受賞した作品である。最初は数館でしか上映されなかった映画だが、口コミで一気にひろまり話題になった映画だという。

たしかに素晴らしい。

本作は、フランシス・リー監督の長編デビュー作らしいのだが、その画づくりはデビュー作とは思えないほどの崇高な芸術性をもちあわせている。美しいイギリスの風景に溶け込む、男性二人の恋愛物語。これが決してファンタジーに見えないのは、様々なリアリティを赤裸々に表現しているからだ。

農場で起こる家畜との関わりや、自然の営みと生と死。そういえば、冒頭で触れたグザヴィエ・ドラン作品の中でいえば、『トム・アット・ザ・ファーム』の舞台設定にもちょっと似ている。(『トム・アット・ザ・ファーム』もLGBTをテーマにしている)

自然界での『生』という営みを味付けなしに見せられる事で、彼らの恋愛も、その中の一つの営みなのだと思いしらされる。

『生』と『性』は、マーブル模様に溶け込んで、いつしか一体になっていくものである。決して、切り離す事のできない人間の証であり、決してタブー視するものでもないだろう。もちろん、それが男性と男性同士の恋愛であってもである。私は、そう考える。

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リアリティを超えるリアリティ

映画の中では、かなりリアリティにふれるシーンが沢山でてくる。

農場での出産シーンや羊の皮剥のシーンなども、スタントなしで彼らがちゃんと演じているらしい。それを聞いて驚いた。リアリティとは、こうして作られるのである。そういうシーンとシーンの積み重ねが、観ている側にリアリティを感じさせるのであろう。

そして、何よりも主人公のジョニー役を演じた、ジョシュ・オコナーの演技が素晴らしい。心通じ合わせる男性とであうことで、みるみる変化していく表情が見事で素晴らしいものがあった。

何も起こらない、山間の小さな農場で起こる男性二人の恋愛模様を、ここまで芸術性高い作品にしあげたのは、監督をはじめとするすべてのキャストの実力であるとしか言いようがない。

LGBT映画として、また新しい傑作を世に生み出したと言っても良いのではないかと思う。

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“人と人とは惹かれ合う”

それは、性別とか国籍とか、人種とか年齢とか、様々なボーダーを超えて行き交う、人間が持つ本能の煌めきである。

それは時に、人を強くさせ変化をもたらす。

そんな美しいメッセージを込めた素晴らしい作品を世に出した、本映画に関わったすべての方々に感謝したい。


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