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旅行エッセイ【夜行の船旅】⑤斜め上をいく吉本興業のお仕事(大阪市)

 私の家から吉本興業のなんばグランド花月劇場は徒歩で10分程度。時間に余裕があるときは会社に行く途中で「どれどれ」と当日の出し物を冷やかすことがある。私のような50代半ばの人間にとってスーパースターは西川きよしさん。出演される日はたいがい会社と重なっていて、何度も悔しい思いをしたものだ。
 会社の帰りに数枚チラシをもらってくる。家に帰ってふと見ると山里亮太さんの顔の裏にコントの台本が印刷してあり目を疑った。「まさか社内資料の裏紙で、チラシを印刷したのか?」。
 なるほど劇場に張り出してある番組表も「〇〇は2公演は出ますが夜公演は出ません」「△▲は都合で休演します」という張り紙がしょっちゅう。会社が成立しているのが不思議なぐらい、自転車操業の会社だ。ある新聞社のデスクに聞いたのだが、大阪万博の記事で吉本の会長さんを紹介したところ、会長さんは既に引退していて記事は誤報になったらしい。「あれだけ大きな会社で退任が対外発表していないって、こんなことあるか?」とデスクは憤慨していた。さすがにマズイと思ったのか記事掲載当日の朝11時に2ヶ月遅れで退任が記者発表、その「誤報」は訂正記事を出さないことで話が落ち着いたという。
 私も一人だけ吉本興業の方にお目にかかったことがある。ひょんなご縁であるミニコミ誌の編集をいっしょにやったのだが、校正ゲラは300枚、送付先も50を超えていたので責任者だった私はてっきりスキャンしてメール添付するものだと思っていた。
 実はそれまでに中央公論社やキネマ旬報社で書籍を10冊以上手掛けていたこともあり「全員休日に出てきて、全部を郵送作業で」という意見が出るとは全く予測していなかったのだが、現状変更に反対意見が噴出。
 それまで何も手伝わなかった吉本興業の方が「おれがアドバイスしてやっているのに聞かない」「お前の校正作業のチェックリスト? そんなの見るわけない」「文学作品執筆は趣味? そんなことだからダメなんだ」ほか一方的に捏造した話をまくし立てた挙句、「お前はやめろ」と引導を渡されてしまった。
 おこる以前に、その物事の強引な進め方に「これが吉本興業のやり方なのか」と舌を巻いた。常務までつとめられた著名人で、ミニコミサークルでは尊敬されていた人だったが、私だけでなく若い人が何人も彼からの圧迫を受けて文学の世界から離れていった。
 私の会社は報道関係でそれなりに内部対立もあるが、話を捏造してまで話を進めることはまずない。ただ問題処理のためには、ここまで強引な進め方をしないと解決しない、ということを大阪で学んだ。
 チラシを見ながら吉本興業のことを思い出したので一言。

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