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不幸な人生の終わりを迎えないために

5月の週末、久しぶりに米国を訪れた。

もう15年も前になるが、私はハーバード大のHarvard Kennedy Schoolという公共政策を教える大学院に通っていた。この大学院では5年ごとに同窓会を開いていて、今年の同窓会に呼ばれたのは、1973年、1978年、1983年、1988年…と5年刻みの2018年までの卒業生。なんと総勢750人以上が集まったそうだ。

この中に私もいます

同窓会は3日間のプログラムで、教授陣のスピーチやディスカッションが組まれているのだが、メーンはなんといっても、旧友との再会である。私はデンマークから出席したが、米国以外から来た人はほかにもけっこういて、ざっと見渡しただけでも、ドイツ、イギリス、ベルギー、カタール、ボリビア、フィリピン、インドネシア、オーストラリア等々。かなり遠方からも来ているようだった。

3日間のプログラムには、国際政治や民主主義がテーマのディスカッションも盛り込まれていた

久しぶりに会った友人と、お互いに年を重ねたよね、としみじみしつつ、プライベートでも色々とあったことを報告し合う。同窓会に参加したのは2度目だが、行くたびに同級生との距離がますます近づくような気がするのは、不思議でもあり、とても幸せなことだと思う。

プログラムのひとつに、大学院を卒業してからこれまでに亡くなった同級生を偲ぶイベントがある。私は2008年の卒業だが、すでに亡くなった人が5人いる。卒業年次がさかのぼるごとに、亡くなった人のリストも長くなっていくのだが、それを見ていると、自分に残された時間をいやがおうでも感じさせる。日常の雑事から離れて、これからの過ごし方を考えるには、とてもいい機会だった。

さて、私にとっては予期せずに再会した友人たちとの何気ない会話が、一番の収穫だったわけだが、同窓会を締めくくったArthur Brooks教授のスピーチも心に響くものがあったので、こちらのnoteで少し紹介したいと思う。

Arther Brooks教授

Brooks氏は”The Leadership and Happiness Laboratory”を主宰している教授で、ケネディスクールだけではなくビジネススクールでも教鞭を取っている。American Enterprise Institute (AEI)というワシントンDCの有力シンクタンクのトップから転身した人で、The Atlanticという雑誌のコラムニストでもあり、podcastなどでも積極的に発信している人である。

教授のスピーチは「From Strength to Strength」というタイトルで、年齢を重ねた卒業生たちに、不幸な人生の終わりを迎えないため何をすればいいかというメッセージを送るものだった。

「幸せでいたいか、それとも特別でありたいか」


ある時、人生を大きく変える経験をした。飛行機に乗っていたのだが、自分の後ろの座席にいるカップルの声が聞こえてきた。声から判断するに、老夫婦で、男性の方は声がくぐもっていて何を話しているのかよく聞こえなかったが、ハイピッチの女性の声は聞こえてきた。「そんなことないわよ、まだみんな、あなたのことを覚えてるわよ」「もう死にたいなんて言わないで」。

飛行機が着陸して、好奇心から後部座席に座っている夫婦をちらっと見てみると、なんと、1960-70年代に世界を大きく変えた、誰もが知る有名人だった。飛行機を降りる際に、この男性を見つけたパイロットは「あなたは、幼い頃からの私のヒーローでした」と握手を求めていた。その時、後部座席の男性の顔は輝いていた。

ではこの有名人はなぜ、これほど不幸な感情に苛まれていたのだろうか?この時の経験から私は、人生後半の幸福について興味を持ち始め、全く発表するつもりもなく個人的なリサーチを始めた。後に、私のメモを見つけた妻にすすめられて出版したところ、多くの人に興味を持ってもらい、今に至っている。

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