ゾートロープのペーパークラフト
Maker Faire Tokyo 2024 に青学つくまなラボのメンバーとして参加し、ゾートロープのペーパークラフトを無料配布ました。
ゾートロープとは静止した絵を動いているように見せるアニメーション再生装置です。ドラムの内側に連続した絵を描いて、それを回転させながらドラムに空けられたスリットから覗くと、絵が動いて見えます。
青学つくまなラボはつくるだけの場所ではなく、つくるという活動を通して学んだり、考えたり、新しい活動をしたりしてもらうことを目指しています。今回配布したペーパークラフトも、ゾートロープをつくることに目標を置かずに、それを使って自分で描いた絵を動かすことを目標にしています。
自分で描いた絵を動かすために、アニメーションを自由に入れ替えて再生できる構造にしました。ゾートロープ本体とアニメーションの絵を描いたフィルムが別になっているので、フィルムを入れ替えることで様々なアニメーションを再生できます。これによって、一度ゾートロープを作れば、それを使って自分でアニメーションをつくったり見せたりするという新しい活動ができるようになります。
設計方法
ペーパークラフトの設計はAutodesk Fusionのシートメタル設計を使って設計しました。ペーパークラフトは柔軟性のある紙を手で組み立てるので、CADの中では表現しづらい部分があります。しかし、強度が足りなかったり組み立てにくかったりする部分を試行錯誤しながら設計するために、CADのパラメトリック機能がとても役立ちました。
入手しやすさ
紙のカットはレーザー加工機で行いました。CO2レーザーの加工機で、0.4mm厚の片面コート紙を切って作っています。レーザー加工機は紙を0.1mmほどの精度で正確に切れるので、切り取ったパーツをそのまま設計通りに組み立てることができます。また、大きなレーザー加工機を必要としないように、カット用の図面はA4サイズに収まるようにパーツを配置しています。
そして、データを公開しているので、レーザー加工機さえ使えれば、誰でもペーパークラフトを作ることができます。レーザーで紙を切るのは比較的簡単で、10WほどのLEDレーザー加工機でもきれいに切ることができます。各地のFabLabなどレーザー加工機を置いているメイカースペースの会員になったり、会員にたのんだりすれば、このペーパークラフトを手に入れることができるでしょう。ペーパークラフト以外の部品は、2センチほどのペーパークリップ(ゼムクリップ小)3個と直径6mmほどのストローを3cmに切ったものだけです。
自分でつくるための設計
自分でつくるペーパークラフトの作品では、作りやすいことが大切です。この作品は紙の柔軟性を活かして、穴にタブを差し込む形のつなぎかただけでパーツを組み立てるようにしました。こうすると粘着テープや糊を使わなくても、材料を組み合わせるだけで作ることができます。
設計に一番苦労したのは、回転軸の構造です。柔らかくて薄い紙に対して垂直に回転軸を立てること自体が難しく、強度が足りないとすぐに傾いたり外れたりします。このために90度に曲げたペーパークリップを3つ組み合わせてストローに差し込む仕組みを考案しました。このクリップ三組構造は材料が手に入りやすく、簡単な工作で回転軸を作れたので、いろいろ応用できそうです。
アニメーション再生ペーパークラフトの変遷とこれから
実は、アニメーション再生装置のペーパークラフトを作ったのは3度目です。
去年のMaker Faire Tokyo 2023では、フェナキストスコープのペーパークラフトをつくって、配布しました。フェナキストスコープはゾートロープに先駆けてつくられたアニメーション再生装置であり、より簡単な構造です。しかし、鏡がないと見えず、同時に一人しか見ることができません。それに比べて今回のゾートロープは、鏡を必要とせず、複数人で見ることができます。
フェナキストスコープの後でヘリオシネグラフのペーパークラフトも作っています。これは2023年9月に開いた青山学院初等部のワークショップ用につくりました。ヘリオシネグラフはフェナキストスコープの絵とスリット部分を2つの円盤に分けた構造になっていて、鏡を使わずにアニメーションを見ることができます。この構造は軸や軸受の部分に強度が必要で、ペーパークラフトとしては設計も組み立ても難しくなってしまいました。
フェナキストスコープ→ヘリオシネグラフ→ゾートロープと、アニメーション再生装置の歴史をペーパークラフトで辿って来たことになります。紙のような薄く柔らかい素材で動く構造をつくることは難しく、新しい装置を作るたびに工夫を重ねました。その結果、設計の質も良くなってきたと思います。
こうして新しい構造を試したり改良したりできたのは、CADとデジタル工作機器の利用によって短期間でたくさんの試作をできるようになったおかげです。これからもこのようなデジタル工作環境を使って、簡単な工作で自分で作れるおもちゃや道具をいろいろ作りたいと思います。