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同人誌の感想:雲形ひじき(主宰)『煮ても揚げてもふかしても じゃがいも文芸アンソロジー』

私も参加させていただきました「じゃがアンソロ」こと、『煮ても揚げてもふかしても じゃがいも文芸アンソロジー』を読みました。

タイトル通り、じゃがいもをメインモチーフとした創作文芸のみを集めた奇跡の(まさかの)アンソロジーです。
そのため、この記事は同人誌の感想でありながら「芋研ゼミ」マガジンにも登録されております。

はじめに

「感想」とあるように、こちらは作品の読みどころを紹介するレビューとは煮て非なるものです。
レビュー記事はすでに私と同じく執筆参加者のたこやきいちごさん(宮田秩早さん)がほぼ全作品について書いていらっしゃいます。

また、主宰の芋研ゼミ長こと雲形ひじきさんが、アンソロ制作の裏話を公開なさっています。

ぜひあわせてお読みください。

アンソロは、ひじきさん作の掌編が随所に挟まれて各参加者さんの作品をゆるやかに繋ぐ構成になっています。
以下、感想はひじきさんの作品を除き掲載順です。
※こちらの本文では便宜上、平仮名の「じゃがいも」表記に統一しております。

全作者さん分の感想

・星野真奈美さん「じゃがいも俳句鑑賞教室」

じゃがいも×俳句。
「教室」の名の通り、じゃがいも文芸の入門かつ参加者作品のトップバッターとして最適な一作(※全体の一作目はひじきさんの「イモトライアスロン」です)でありつつ、じゃがいもの各品種を俳句に織り込むという行為にはなかなかのディープさも兼ね備えているなと思いました。
個人的に一番好きなのはシャドークイーンを題材にした三首めです。
しょっぱなから、しっかりじゃがいもが食べたくなります。いももちー!

・服部匠さん「黄金の戦士ゴールドフリッツ」

じゃがいも×ヒーロー。
表の顔はフライドポテト屋さんを営むヒーローのお話だけあって、カラッとしててアツアツな一作!
ヒロインの佐藤さんもゴールドフリッツの心強い仲間(ネタバレ回避)も、じゃがいもにちなんだ敵や必殺技もひとつひとつ輝いています。ゴールドだ!
私も作中に登場させたのがホッカイコガネのフライドポテトだったので「仲間だ!!」と思いました(笑)
私もアゲアゲポテトさんのフライドポテト食べたいです!

・じゃがいも好きひらまりこさん「なぜジャガイモは帽子を被っているのだろうか」

じゃがいも×ファッション。
「じゃがいものキャラクターだけが帽子を被っている」
た、たしかにーーーーー!
目から鱗、芽からソラニンな大発見では??(毒だよ)
ここに揚げられている品種と帽子の組み合わせがまた、どれもしっくりくるものばかり。
そもそもじゃがいもに帽子をかぶせてあげようっていう発想自体が、めちゃくちゃじゃがいも愛あふれているではありませんか。
カルビーのポテトチップスが食べたくなっちゃうなー。

・青川有子さん「お姉ちゃんのカレーと冒険のわけ」

じゃがいも×家族。
カレーライスは家庭料理の定番ですよね。
お気に入りのルーがあったり、入れる具材にこだわったり、各家庭に「これ!」といった味があることが多いのではないでしょうか。
「お母さんのカレー」このワードだけでほっこりします。
本作に登場する姉妹も、お母さんの味に慣れ親しんできたわけですが……あるときからお姉ちゃんが毎度違う味のカレーを作るようになります。
その理由を聞いて二度ほっこり、カレーライスのようにあったかな一作です。
もちろんカレーライスが食べたいです!

・宮田秩早さん「吸血鬼博士の異常な愛情 彼は如何にして心配するのを止めてジャガイモを愛するようになったか」

じゃがいも×吸血鬼。
言わずにはいられないので言いますね。タイトルながっ!!(笑)
もちろん元ネタは「博士の異常な愛情 または私は如何にして(うんたらかんたら)(覚えられない)」のやつですね。長すぎてヘッダが両ページに分かれてるところに笑ってしまいました。
宮田さん……じゃなかった、とても博識な家政婦さんの解説のおかげで、これを読むだけでちょっと吸血鬼にもじゃがいもにも詳しくなっちゃえる、おもしろくってためになる一作です。
もちろんちゃんとじゃがいもは出てくるんですが、トマトジュースが飲みたくなるのは仕方ないですよね。だって同じナス科だもの。
(※私はトマトがめちゃくちゃ好きです。)

・三宮のえるさん「名探偵とうや ~追憶の雪片(スノーフレーキ)~」

じゃがいも×名探偵コ……もとい、探偵モノ。
消えたはずの少女(品種)「スノーフレーキ(雪片)」の声がする――その真相を追う名探偵とうやたちのお話。
パロディ風の作品ではあるものの、しっかりオリジナルなので元ネタを知らなくても問題ありません。
落語家さんが声色を使い分けて語っているような台詞の応酬が気持ちいいです。
(でもみんな芋だったり玉ねぎだったりして脳がバグる)
全作中最も芋マニアな作品は? と聞かれたら、こちらかなと思いました。
ミステリーの鍵となる某じゃがいも加工食品、よく考えたら食べたことないような気がします。一度くらいは食べてみたいなあ。

・湖上比恋乃さん「冬の風物詩」

じゃがいも×北海道。
じゃがいもの本場、北海道から届いたエッセイは、本場ならではのうらやましくも悩ましいお話。
のえるさんの芋濃度高め(褒め言葉)な作品の後に吹き抜ける、夏の北海道のそよ風のような作品です。
なお、湖上比恋乃さんは題字も担当していらっしゃいます。
行間からにじみ出るユーモアと、イモっとした(イモっとした)かわいい題字にふんわり通じるものを感じます。
いろんなじゃがいも料理が登場するのですが、ここではシュクメルリが食べたいなと思いました! にんにく!

・文野華影さん「20XX年のきみへ」

じゃがいも×じゃがいも×じゃがいも……であり、じゃがいも×時事。
馬鈴薯有識者(芋)会議、いわば世界中のじゃがいもたちがあつまるじゃがいもサミットに、あの「ラセットバーバンク」が来ないという緊急事態!
(最初はラセットバーバンクとはなんぞや、と思っていても、ここまで読んでいたらもう知っている芋になっているはずなので大丈夫)
ひじきさんとの合同誌「われは妹思ふゆえに芋あり」や本誌収録のひじきさん諸作品の流れを汲みつつ、たくさんの芋たち(品種)が登場し、これまでのおさらいもできて二度おいしい! なんて親切設計なアンソロなんだ!
ちなみにM社のフライドポテトも、現在は無事メニューに復帰していますね。
よし、Mックフライポテト食べ行こうぜー!
 
※「われは妹思ふゆえに芋あり」は現在PDF版の頒布があります。

・千萱べこさん「春を待つ」

じゃがいも×長崎。
こちらは北海道に次ぐじゃがいもの産地、長崎から届く便り。
叙情たっぷりに描かれたかの地の風景と、デジマさんとニシユタカさんの姉弟?(母子?)の絆とにうっとりします。
他の作品もそうですが、食べ物の描写がまたおいしそうでおいしそうで……。
甘いマッシュポテト食べたい! 長崎ちゃんぽんも皿うどんも食べたい!!

・泡野瑤子「牛肉と馬鈴薯とゾンビ」

じゃがいも×ゾンビ。
自分の作品なので感想もへったくれもないんですが、全作のトリだったことにビックリしました……!
(いちばん長かったらしいです)
タイトルは国木田独歩の「牛肉と馬鈴薯」はもちろん、映画「高慢と偏見とゾンビ」が元ネタで、タイトル先行で後で内容を考えたお話です。
じゃがいもを全然知らなくても楽しめるよう、でも知っている人にも面白く読めるように書きました!(だいぶふかしたことを言っているな……)
よかったら最後の最後までお付き合いくださるとうれしいです。

・氷上リホさん(装画)

私の小説本『暁天の双星』や『隠者は払暁に眠る』にも素晴らしい装画と口絵を描いてくださった氷上さんが、今度はじゃがアンソロの表紙を飾るだってー!?
「じゃがアンソロ通信」で先にお知らせもらったときは最高にテンションあがりました。
アンソロの装画って一冊の中にいろんな個性が集まるぶん難しいと思うんですが、各作品の要素を見事に取り入れた、読了後にじっくり眺めて楽しめる素敵な装画です。
しかも芋の描き分けがすごい……
表皮の質感とか断面とかデフォルメしてもいいところをしっかり描いてるところが本当にすごい……

そして……


・雲形ひじきさん(「われはいもおもふ」など全10作、主宰)


「イモトライアスロン」から「西の使い」まで、多彩な文体を巧みに使い分けたバラエティー豊かな掌編で全作品をまとめあげる主宰のひじきさん。
しっとりした艶のある文体が好きなので「われはいもおもふ」がやっぱり一番のお気に入りです。
(艶っぽいのがみんな芋なのでやっぱり脳はバグる)
フィナンシェヤクザ、芋の人、りんごやいちごの人、そして何より創作の人だなあと改めて実感しました。
ひじきさんが並べた作品順も見事ですし(ひじきさんの具体的な狙いまでは読み取れてないのでもっと考えたいなと思っちゃう)
参加者みんなでわいわい楽しく盛り上がれる雰囲気を作ってくださったのも、すごくありがたかったです。
どうにかお尻は撫で回されずにすみましたが(※〆切は守った、の意。詳しくはひじきさんの裏話参照)提出ギリギリですみませんでした!
これからは「アンソロの人」でもありますね!!
また何か作るときはぜひ呼んでください!

以上、じゃがアンソロの感想をとりとめなく書きました。

最後に

もしかしたら「じゃがアンソロって、相当じゃがいもについて知ってないと楽しめないのでは?」と不安がっている方がいるかもしれないので書きます。
そうですね、じゃがいもについて何も知らなくても全部隅から隅まで楽しめる……わけじゃないかもしれません。
少しは「何のこと?」と思うものもあるんじゃないかな、と思います。
私にも(別にじゃがいもに詳しい自覚はありませんが)分からなかったネタが多少ありました。

でも、そもそも書いてある内容をすべて知っている本を読むことはあまりないですよね?
読んだそのときは分からなくても、じゃがいもに対して興味を持って生活していれば、きっといつかピンと来る日が来るはず。
そのときあなたは手を打って叫ぶでしょう――「じゃがアンソロで見たやつだ!」と。

※アンソロタイトルにちなんで、感想文も煮たり揚げたりふかしたりしてみました。誤字じゃないよ。探してみてね。

頒布情報

2022/5/29の文学フリマ東京がイベント初頒布です。

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