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「ムーンライト・ミンストレル」について①

もうすぐ北海道コミティア13です。私も【Z-16】Our York Barで委託参加しております。

今日は北海道コミティア13にお預けする3種の本のうち、「ムーンライト・ミンストレル」の話をします。
こちらは2020年現在web未掲載です。(掲載するとしたら2021年3月以降になるかと思います)

「ムーンライト・ミンストレル」あらすじ

「戦場の女神」サン・セヴァチェリンの王女シトリューカは、
味方の裏切りによって帝国に囚われ、
最愛の人ヨナディオ王子を殺した将軍シャルルとの結婚を強いられる。
シャルルとは互いに憎み合い、幽閉同然の生活に
絶望していたシトリューカの下に、城下からある噂が届く。
「帝都に、ヨナディオ王子に生き写しの吟遊詩人が現れた」と……。

満月の夜ごとに照らし出される、愛憎と群像のロマン。

装画の全体像はこちら。

webムーミン表紙イラスト完成稿文字入れ

鉄子さんの装画に描かれている登場人物は、画面奥から順に
画面奥:シトリューカ(主人公)
中央右:ヨナディオ(シトリューカの許嫁)
中央左:クロワ(ヨナディオに瓜二つの吟遊詩人)
手前:シャルル(シトリューカの夫でヨナディオの仇)
……となっています。

主人公シトリューカを中心にいろいろな人物に視点が切り替わっていく三人称複数視点のスタイルをとった群像劇です。

さて、これから書くのは作品の裏話ですが、なるべくネタバレには配慮しますので、未読の方も「気になるな」と思ったらお目通しいただけましたらさいわいです。
また、「昔書いたプロットを利用して作品を作ろうかな~」とお考えの方にも、何らか役に立つ内容があればいいなと思っております。

当初の設定から何を改変したのか

2019年3月の初版刊行時に書いたあとがきを引用します。

『ムーンライト・ミンストレル』は、二〇〇三年ごろに着想を得て、書いてはあきらめ、書いてはあきらめを繰り返して結果的に放置されていた作品でした。(中略)
 何しろ着想が十六年も前ですから、いまよりさらに未熟な私が作ったプロットや設定は粗だらけで、いまの時代にはそぐわず改変したものもありました。

主に改変したのは、シトリューカの夫となる帝国の将軍、シャルルの設定です。
表向き主人公はシトリューカですが、表紙には一番大きく描かれていることからも分かるように、彼が本作の裏の主人公です。
(なぜ顔の左側が焼けただれているのか? ということについては、本編をご参照ください)

当初シャルルは皇帝から与えられた側室たちと代わる代わる寝て、側室が妊娠すると殺すという悪逆非道の人物でした。「シェへラザード」に出てくる王様みたいな感じですね。
そのほかの設定や彼が辿る運命についてはほとんどそのままですが、ただ一点、現行の完成版に存在するシャルルのある肉体的かつ精神的な問題は、当初ありませんでした。

「シェヘラザードみたい」と書いているように、似た設定の物語がすでにあったこともあり、2003年当時の私は、この設定にさして問題があると思っていませんでした。
当時ブリブリの厨二病(大学生ですけど)だったので、むしろ残忍であればあるほどカッコイイのでは、ぐらいに考えていたと思います。

しかし、時代は流れ、世間の感覚も自分の感覚もずいぶん変わりました。
2018年から2019年にかけて原稿を書くにあたって、私は「自分が妊娠させた女を何人も殺してきた男に対して、この結末はあまりにもヌルい」と思うようになりました。

王様がシェエラザードのおかげで愛に目覚めたからって、いままでの罪が帳消しになるわけがありません。
たとえ王様が過去にどんな悲劇を経験していたとしても、です。
私が許せないことを、私の想定する読者さんがお許しになるはずがありません。

改善案は大きく分けてふたつあります。

①シャルルの設定や描写を見直す
②ラストシーンでシャルルの犯した罪に見合う罰を与える

②の具体的な案もあったのですが、いくらなんでも読後感が最低ですし、①案を取りました。
どう直されたかは本編をお読みいただきたいのですが、それでも「許せない」と感じる方もいらっしゃるだろうとは思います。

少し話は逸れますが、ハイファンタジーは、作中世界の文化的水準などを考慮すると、現代の感覚をあらゆる登場人物が当たり前のように持ち合わせていると不自然になりかねません。

かといって古い感覚の物語を再生産するのは望むところではないので、その微妙な書き加減(?)にいつも悩みます。悩むのは、自分の感覚が古い自覚があるからだろうと思います。

改変したことによって生まれた別の懸念

ネタバレに配慮してぼやかした言い方になってしまいますが……

もしかすると、「シャルルが迎える結末によって、ある性的指向があたかも治療されるべき病のように表現されている」と受け取られるのではないか、ということはずいぶん悩みました。
実際にそのように感じられた方がいらっしゃったとしたら、とても申し訳ないなと思います。

私は「シャルルが本来持っていたが、過去の経験や習性によって失われていたもの」を取り戻した、ととらえて書いています。ただ、作者が意図しなくても、読者がそう感じたらそれがすべてだと思います。

登場人物の性的指向については設定していません。作中の彼らの言動がすべてです。
はっきりと線引きできるものではないと考えていますし、まして作者が作品の外で「この人はこれです」と明言するのは、(実在の人物にそうするのと同様に)あまりにも乱暴だと思います。

そういうふうに考えるようになったのも、2003年当時の自分とは違うところだなと思います。少しは進歩しているとよいのですが、まだまだ不十分だし、十分だと感じる日は来ないだろうと思います。

私にとって「ムーンライト・ミンストレル」は、もの書きが真に磨かなければならないのは、文章力や語彙力や構成力や、キャラクターの魅力などではなくて、自分自身の時代感覚なのだと強く思わされた作品でした。


……長くなってしまったので、今日はこの辺で切り上げます。

②以降を書くかは分かりませんが、今回は主にシャルルのことを書きましたので、気が向いたらほかの登場人物のことなど書くかもしれません。


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