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「道徳」と「倫理」

「道徳」と「倫理」の違いは何でしょうか。

誰にでもわかりやすくまとめてある文章がないものか、辞書で調べてもいまいちその違いがはっきりしません。同じように解釈できるような書き方もされています。でも、実際の使われ方はどうでしょうか。少し探してみたところ、以下のサイトの説明がわりとわかりやすそうなので引用します。

臨床倫理プロジェクト

「倫理」と「道徳」はほとんど同じ意味で使われますが、現代の日本語としては、「道徳」は、私たちの文化がもっている諸規範を事実として前提して、それを教育したり、身に着けたりするものとして考える文脈で使われる傾向があります。これに対して「倫理」は、私たちの文化の中で流通しているそうした諸規範を、理に適ったものとして理解した上で、あるいは時には規範のあるものをより適切なものに改訂する作業をした上で、自分たちが主体的に携えるものとしようとする傾向があります。

道徳的にふるまうというのが、社会的に良いとされている基準に沿って行動することなら、倫理的にふるまうというのは、その道徳的ふるまいが本当にそれでいいのかとさらに考えた上で行動するということでしょう。

以前に書いた『はじめてのスピノザ』という記事の中で、スピノザの考える道徳と倫理の違いがわかる部分を引用しています(『はじめてのスピノザ』(國分功一郎/講談社現代新書))。

道徳は既存の超越的な価値を個々人に強制する。そこでは個々人の差は問題になりません。それに対しスピノザ的な倫理はあくまでも組み合わせで考えますから、個々人の差を考慮するわけです。たとえば、この人にとって善いものはあの人にとっては善くないかもしれない。(中略)そのように個別具体的に考えることをスピノザの倫理は求めます(p51)

また、東京工業大学、未来の人類研究センター長の伊藤亜紗教授も、「道徳」と「倫理」の2つの概念は区別すべきだと言われています(「利他」の落とし穴とブームへの懸念 伊藤亜紗氏に聞いた)。

道徳は一般論。困っている人がいたら助けましょう。小学校で習います。それは、命令です。一方、倫理は具体的な状況において、最善な選択をすること。必ずしも道徳が命令することがベストとは限らないわけです。

道徳と倫理についての考え方を並べてみると、大体その違いが見えてくると思います。道徳は判断する際の目安とするのはいいけれど、実際の場面では倫理がより大事ということになるでしょうか。

ちょっと極端な例になるかもしれませんが、東日本大震災のとき、津波で家が被害にあった人たちが役所で手続きをする際、ハンコを求められ、ハンコは流されてなくなっており、困ったという話を聞きました。このケースがその後どういう経過をたどったかは知りませんが、この際の役所の最善の対応は、やはりハンコがなくても手続きを進めるということでしょう(そしてそうされたはずでしょう)。「決まり」を守ること(これは道徳とはまた違うと思いますが)は大切ですが、目の前に困り果てている人がいるとき、人としてどのようにふるまうべきなのか考える、これが倫理的であると言えると思います。もし窓口が、手続きにはハンコを求めなければならないとプログラミングされたAIであれば、と思うとちょっと怖いですね。個別の事情などに一切反応しない。

何が正しく、正しくないのか、それは個々人の置かれた状況によって違ってくるかもしれない。答えが一つではないとき、または答えがないとき、倫理的に考えることが求められると思います。難しいことですが、倫理的に考え、ふるまえるというのが人間の良さではないでしょうか。

倫理についてより意識を強めたのはここ1年半くらいの間だと思います。まだこれから考えていきたいテーマの一つです。今後、さらに自分の考えが深まればまた改めて書くかもしれません。

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