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不可視のマテリアル_vol.5

このプロジェクトは既に次の段階、つまりクリエーションに突入しているので、ここからの振り返りは、一気にいきたいと思う。

素数とフラクタル

テキストとしてとりあげた村上春樹著『ねむり』から17という数字に着目し、作品の時間軸を考察しようと試みた。


17という数字は、『ねむり』の主人公が17日間寝ていなかったということからピックアップした数字だ。

まずは、17日目のことをイメージし、そうすると1日目はどんな感じになるのか、2日目、3日目・・・を考えたり、目覚めてから寝るまでを17段階に分けてみたりした。そうやって、いろいろ試行錯誤しているうちに、17が7番目の素数だということに辿りついた。

2   3  5  7  11  13  17

素数とは、1 より大きい自然数で、正の約数が 1 と自分自身のみであるもののことだ。100ケタをこえるような大きな数になると、コンピューターで計算しても素数かどうかを見わけるのに時間がかかり、この性質がインターネットや電子マネーなどの情報を守る暗号に応用されている。

素数というと、ブルガリアの民族舞踊を思い出す。ブルガリアでのレジデンスで現地の方達と作品をつくった時、ブルガリアのフォークダンスを調べた。伝統音楽のリズムは、5、7、9、11拍子などの(Neravnodelni razmeri)という独特な拍子となっていて、その素数で作られるリズムは、変化に富んだ表現を生み出している。それは普通の複合拍子を足し算して組み合わせた拍子で、例えば7拍子は2+2+3(強-弱-中強-弱-中強-弱-弱)か2+3+2(強-弱-中強-弱-弱-中強-弱)から成る。
変拍子は農民の作業のリズムと密接な関係があると言われている。7拍子はバターを作る動作、小麦粉をこねるパン作りの動作、畑に種をまき、足で土をかける一連の動作、9拍子は陶器造りでろくろを操る動作を表す。
ブルガリアの伝統的な踊りもブルガリアの歴史や自然が織り成す地方のさまざまな特徴が盛り込まれている。ホロという踊りは、一列に手をつないだり、隣同士で手をつないだりベルトをつかんだりして踊る。こういった習慣は歴史に由来し、オスマン帝国の支配から村を守ろうとした民族の気持ちが込められているらしい。

素数はシンプルなようでいて、複雑なものを孕んでいる。シンプルだからこそ、複雑さを作り出せる。シンプルとは、複雑なものを「複雑に見せない」ということなのかもしれない・・・。

素数を1次元、複素平面を2次元、宇宙を3次元と考えると時間は4次元と考えられ、素数の配置は時間軸上でフラクタル性を持っているらしい。
フラクタルは、フランスの数学者ブノワ·マンデルブロが導入した幾何学の概念で、図形の部分と全体が自己相似(再帰)になっているものなどをいう。まるで合わせ鏡のように永遠に連なっていくようなその図形と、いまだにその規則性が解明されていない素数に、宇宙を感じてしまう。

眠っている時は、時間の概念などなくなり、ある形状の中に全体の形状が入れ子状に渦をまいて、ぐるぐると巻き込まれていくような多次元宇宙の無限の連なりの中にいる・・・
そんなイメージを思い浮かべた。

いろいろリサーチや実験をしたものの、結局17を作品の時間軸に反映させるところまではいかなかったように記憶している。とはいえ、この作品のタイトルとなった『ENIGMA』の要素が、ここでも浮かび上がってきていたことに驚いた。

次は、作品の構成に移っていく。
構成といえば、「起承転結」「序破急」などで、因果関係を作品に埋め込む方法があるが、すでに音で大まかな構成ができていたので、ここでは別の方法を使った。
まず舞台スペースを地図に見立て、7つのシーンを割り当てる。どんな乗り物で、どんな場に移動するのか。その場で起こることは、どんなことなのか。そうやって作品全体を通して、舞台上でどんな旅をするのかを検討していった。

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