見出し画像

【往復書簡/11通目】ちょっとクセのある郷土料理「しもつかれ」のドレッシングで和えた、春野菜のサラダ


みやうへ

兵庫から、柑橘類へのときめきがギュッとつまったお便りをどうもありがとう。冬は長く雪に覆われる北海道では、柑橘類がいかに貴重で、ご近所の庭木に実が生っていることにまで感動するくらい珍しいことだなんて。関東育ちで、あるのが当り前に思っていた私には、その感動がすごく新鮮に感じたよ。そんな柑橘へのときめきが一目で伝わってくる、まるごと文旦とタマネギのサラダ、ごちそうさまでした。まるごと!てまずお店では絶対にいただけない食べ方だよね。自分で作るからこその贅沢な使い方。そして、みずみずしい文旦の皮を丁寧に剥いて、お皿に並べられたこの盛りつけの美しいこと。ブルーのお皿に映えて、みずみずしさが際立って伝わってきたよ。ああ、果樹がジュワっと染み出るサラダが、寒さで乾燥した身体を潤してくれそう。ここ北関東にも、はるばる西日本から届いた柑橘類が出回ってきたから、今度自分でも作ってみようかな。

柑橘類がお店に並ぶようになると、春も近いなって思うよね。今年の節分は124年ぶりに2月2日というレアな年だったけど、我が家は相変わらず豆まきとも、恵方巻ブームとも無縁で、静かに過ごしていました。ただ、ここ数年、栃木では節分を過ぎた頃から気になるムーブメントが起きていて、今年もソワソワしながら過ごしていました。そのムーブメントとは、栃木の郷土料理「しもつかれ」を食べる風習を残そうという趣旨で開催されている、「しもつかれウィーク」なるものなのよ。

「しもつかれ」とはどんな料理かというと、荒くおろした大根とニンジン、塩引きした鮭の頭、油揚げ(要はお正月の残り物)、いり大豆(節分の残り物)などを、酒粕を加えて柔らかく煮詰めたものなの。例えていうなら、もんじゃ焼きのように、すべての食材が細かく刻まれてトロトロになっていて、大豆だけがゴロゴロと形を残している感じ。本来は《唐風呂大根》(上の写真左)という在来種の大根を使用していたそうなのだけど、今はNPOが伝統文化継承のために栽培しているような、希少な品種だそうです。なので、多くの人は三浦大根のように水分少なめの大根で代用しているみたい。そして、大根の水分がなるべく出ないようにおろすために使うのが、竹製の大きな《鬼おろし》(同、右)。なかなか迫力ある道具だよね。味つけは、基本的には酒粕と塩。家庭や地域によってかなり違うようで、七軒のしもつかれを食べると無病息災でいられる、と言われているそうだよ。

見た目も味もちょっとクセのあるお料理なので、身近な食として食べている人は今は少なく、消えかかったしもつかれの灯を消えないよう、なんとか楽しめるように残したいということで始まった取り組みが、「しもつかれウィーク」というわけ。県内の飲食店や料理家が参加して、ラーメン、サンドイッチ、ベーグル、ポタージュなどさまざまなアレンジ料理が食べられるという中で、私が選んだのは「しつかれポタージュ」でした。コーンポタージュにしっかり酒粕が効いたようなお味で、フランスパンが欲しくなったな。それと、町内の友人がおすそ分けしてくれた自家製もいただきました。酒粕が少な目でとても食べやすく、ご飯にかけてスルスルといただけたよ。

これまで5種類くらいを食べてみたので、私も何か一品アレンジ料理にチャレンジしてみようと、作ってみたのが今回のお料理です。野菜ソムリエの大先輩の川村葉子さんという方が、100種類以上のしもつかれアレンジレシピを公開しているのだけど、その中から、みやうも気に入ってくれると思った、こちらのサラダを作りました。
平地で陽当たりの良い栃木は、今まさに、味が濃厚で美味なトマトの旬の始まり。濃い紫色と小さな菜花がかわいい紅菜苔と合わせて、しもつかれ、オリーブオイル、レモンとちょっぴりニンニクを加えたドレッシングで和えました。みやうの愛するイタリア料理風の仕上がりです。実は、しもつかれはパックになってスーパーで年中販売されていて、今回はそれを使いました。初めて買ったよ。(笑) 

「春トマトと紅菜苔のサラダ ~しもつかれドレッシング和え~」

画像1

それでは、どうぞ召し上がれ。

五十嵐洋子