見出し画像

先生、お腹痩せたいねんけどな~

以前、勤めていた女性専用の
フィットネスジムでの話。

「先生~お腹痩せたいねんけどなー」

入会したての会員様が、
両手でお腹をさすりながら話かけてきた。

脚はスラリと細いのに、
上半身にガッチリとした
脂肪と筋肉がついた60代のその女性は、
典型的なりんご体型。

言っちゃ悪いが、その姿はまるで
お腹に亀の甲羅を抱えているよう。

りんご体型の人は、
内臓脂肪が付きやすく、
炭水化物や甘いもの、
またはお酒が好きだったりするのだが、
聞けばやはり彼女も
和菓子とビールが大好きだそう。
買い物にいけばとりあえず
大福を買ってかえるとか。

でも、残念な事にりんご体型の方は
大好きな糖質の代謝が苦手。

摂り方に気をつけないと、
糖質をすばやくエネルギーに
変えることが出来ず、どんどん太っていく。
ということは、糖質を制限すれば
するすると痩せていく、ということ。


とにかくお腹太りに悩むりんご体型だけど、
実は下半身太りの
「洋ナシ体型」よりも、
ダイエットやボディメイクは
比較的簡単だったりする。

自分が何型でどんな体質なのかを、
詳しく知りたいのなら
遺伝子検査をすればいいけれど、
ある程度のことなら、
骨格や筋肉、脂肪のつき方から
判断することが出来る。

「普段の食事に気をつけてること
ありますか?」


「……え、う~ん…もう甘いものはなるべく食べないように気をつけてるけどね…」


歯切れの悪い返事の仕方に
恐らく口にするものには
あまり気にかけていない事が
すぐにわかった。

大抵そうだ。
気にしてるわりに何もしてないのだ。

「そのお腹の感じからすると、内臓脂肪が沢山ついているので、食事から改善していかないと、運動だけではお腹は凹まないですよ」

「でも、ここ(ジム)に入ったら痩せるって
聞いたんやけど」


「運動不足が原因で太っているなら、ジムでしっかり運動すれば痩せます。
けど食べ過ぎが原因ならそこを改善しないと痩せないです。」

私は結構キッパリいう方だ。

悪いところは悪いといい、
お世辞なんて言わない。

お金を払って痩せに来てるのだから
その期待にしっかり応えたい

ただ気分転換に、
誰かと話したいからと
ジムに来ているだけならば、
何も言わずそっとしておくが、

痩せたい、筋肉つけたいなど
きちんと目標を持って入会してきた人には、
マシンの使い方から姿勢やら、
いちいち細かく口出ししている。

それが嫌だという会員さんは、
私のいる時間には来ない。


別に気にしない。


オーナーにも時々注意されることもあった。
皆がもっと楽しく運動出来るように
してあげてと。

でもその意味はちょっとちがう。

オーナーの言う会員さんにとっての
「楽しい」は「楽 (らく)」
なのだ。

そのお腹太りの彼女も、
最初は私の指導を面倒くさそうに聞いていた。
なのに、
「痩せたい、お腹凹ませたい」
と必ず私が来るのを待ち構えて訴えてくる。


「本当に痩せたいのだろうな…」


だけど、その思いに
行動がついてこないのである。

だって長年の習慣から出来上がった
その身体を変えるには、
かなりのエネルギーがいるからだ。

お腹が空いたら
とりあえず甘いものをつまみ、
暇だからとつまむ、
通りすがりにつまむ、
何か1つの用事を終えたからつまむ、
食後のデザートにつまむ。

揚げ句の果てに、
何か口にしてないと暇だという。

「暇?」


お腹も空いてないのに、
とりあえず何か口にしていないと 
落ち着かないらしい。


「家に居るからつまんでしまうのなら、出掛けてみたらどうですか?」


「そやな~」

気のない返事をして帰っていった。

それ以降も、ジムに来ては私に

「やっぱり一ミリもお腹痩せへん」

「このお腹どないしたらいい~?」

「運動してるねんけどな」

と繰り返す。

「その後、甘いものとの関係はどうですか?」


といつもの質問してみても
「うーん、ま、まぁ、あんまり食べないようにしてるねんけどな~」


毎回同じやりとりに、
いい加減私も飽きてきた。


「○○さん、いつも同じ会話してますけど、
甘いものが辞めらない原因が、前後の食事内容が影響してるかも知れないので、一度一日の食べた物を全部、私に報告してもらえませんか?」


まじめな顔してそう言うと、

「そんなん別にしていらん」

と返ってきた。

今まで通り、大福やビールは辞めないけど
お腹は凹ませたい

なんて都合のいい話だ。
だけど、その人に限ったことではない。

痩せたい、痩せたい、と
毎回お菓子をつまみながら言う

極力運動したくないんだろうけど、
「寝ながらダイエット」なんて
この世の中には存在しない。

その後、その女性は
週2~3回ジムに来ていたが、
もう食事について話すことはなかった。

そして、私はプライベートの事情で
やむを得なくジムを辞めてしまった。

しばらく、その女性の事は
すっかり忘れていたのだが、
一年ほど経ったある日、
駅付近をゆっくり歩いている彼女を
偶然見かけた。


相変わらず脚の細さは
変わっていなかったが、
さらにお腹が大きくなっていたのだ。


その大きなお腹を抱えて歩く為に、脚を開き
左右に身体を振りながらヨタヨタ。
後ろから見るとまるで妊婦さんのようだった

話しかけはしなかったが、
何となく彼女のことが気になってしまった。

後日、
当時一緒に働いていたスタッフと 
偶然会ったときに、その話をすると、
その女性は、
私がジムを辞めてしばらくして
退会したらしい。
私が居なくなった事で
やる気を無くしてしまったんだとか。


悪いことをした…

彼女は彼女なりに頑張っていたのだ。

甘いものをつまむ量や回数を
彼女なりに減らしていたのかも知れない。
けれど、
全てキッパリ辞めれたわけではなかったから
正直に報告すれば私に怒られると
思ったのかも。


運動が苦手と言ってたけど、
私のシフトに合わせて
頑張って来てくれていた。


私なら痩せさせてくれるのかもって
期待していたに違いない。

ジムの方針上、
一人の会員にかかりっきりで
カウンセリング出来ない
と言う事情もあったけれど、
もう少しゆっくりと彼女の話を
聞いてあげれば良かったと反省した。


全ての人が同じ理由、
同じ習慣、同じ体質ではないのに、
同じダイエット法で上手くいくはずはない。

冒頭で話したように、
糖質制限が有効な人もいれば、
カロリー制限が有効な人もいる。

その彼女に適したダイエットは、
糖質代謝を促進する栄養素を意識して摂り、
60代という年齢も考慮し、
生活習慣を見直しながら
ゆっくりとダイエットしていくのが理想。

トレーニングは、
とにかく内臓脂肪を減らすための
有酸素運動と、
インナーマッスルへのアプローチが
必須だった。

それをきちんと伝えきれなかった事が
非常に心残りである。


人それぞれの思考や行動の違いで
ダイエットのアプローチ法も
変わるのは当たり前のこと。
なのに、
テレビや雑誌の情報に踊らされていれば、
世の中に溢れかえる
ダイエット商法の思うツボ。


長い習慣を変えるには、
少しずつ、長い期間をかける必要がある。

「○カ月で-○㎏!」
という宣伝文句に飛びつくのは危険だ。
リバウンドするのが目に見えている。

だから
これだけははっきり言いたい


「楽して痩せる方法なんてない!」


太るだけ、食べてきたのだから
痩せるだけ、減らさなければならない


とてもシンプル。

そんなこと分かってるけど、
それが出来ないから困ってんだよ!

これを読んでる
多くのダイエッターから
突っ込まれてるに違いない。


けれど、考えてみて欲しい

チョコレートをつまむとき、
痩せたいのか、食べたいのか。

チョコを選んだんなら、
痩せることよりも
食べることを選択しただけ

ついつい、無意識に食べてることなんてない。

今のあなたの体型は、
自らそう選択し続けた結果である。

一年後、三年後、五年後。
あなたはどうなっていたいか。

無駄食いする前に
そう自分に問いかけてみて欲しい。

Yoko 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?