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秘密のソファ

誰にも教えたくないお気に入りの場所がある。
教えたくないけれど、その居心地の良さを人におすすめしたいのも本音。

私のお気に入りはカフェ併設の珈琲の焙煎所にあるのです。
珈琲の香ばしい香りが広がっていて、出来立てのコーヒーが飲める。焙煎の音もまたよき。
メニューはドリップ珈琲とカフェラテのみ。
作業場の2階でコーヒーが飲めるスペースになっていて、
いろんなソファーや椅子やテーブルが無造作に置かれている。吹き抜けで開放感抜群。
そこの片隅にある黒いソファ。背もたれが高くて、座面の奥行きが広い2人掛けのローソファ。もうくたびれて革も擦れていて、端はツギハギがされている。座面の真ん中は沈んでいて人が座った跡くっきりついている。

初めて座るまでは、このソファだけなんか古いな、変えたらいいのに。これそろそろ寿命じゃないかと思うくらい残念に見えるのだけど。
座るともう動きたくなくなる。体がソファの一部になったかのようにフィットするのです。
私はここに来るとコーヒーをお替りしてトイレに行きたくても我慢するほど数時間ここに居座ってしまう。背もたれが高いので包まれている感覚がして安心感がある。
何をするでもなく、そこでぼーっと考え事をしたり、
音楽をきいたり、
画集を眺めたりして過ごす時間が疲れた時のリセットになる。
毎回まだソファがあるのを見ると、よかったまだまだ健在だとほっとする。

そのソファ席は人気はないけれど、そこに座りたいからオープン30分後には行くようにしている。
先客がソファに座っていると、あと15分家を早く出ればよかったと後悔する。
その席が空くまで違う椅子でじっと待っていたりする。なんか視線を感じるなと思った人は私が原因かもしれない。無言の圧を送ってました、ごめんなさい。

ついこの前は席のレイアウトが変わっていて、
ついにあの黒いソファが無くなっちゃったんじゃないかとひやひやしたもんだ。
そろそろおしゃんなソファーに新調されそうな気がしてならない。あの空間には浮いているから。長老感がはんぱない。

すごい人気があるわけじゃない、
映えもしないけど、
自分にとっての居心地のいい場所ってあるんじゃないかな。
教えたくないけれど、同じようにお気に入りの気持ちをシェアしたくもなる。あのソファも座り心地の良さをバレたくないけれど。
私と同じようにあのソファにはファンがいて、
そこに座るために通っている人がいるかもしれない。

あのソファ最高だよねとこそこそ話をしてみたい


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