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ある日のチョコブラウニー

子どもの時、母親はよく手作りのお菓子を作ってくれた。中でも"簡単だから"という理由でチョコブラウニーをよくおやつとして作ってくれた。

確かにチョコブラウニーは簡単だ。材料を全部混ぜて焼くだけ。
作ってもらったそばから食べていくので、残りはしなかった。今思えば、母親の作ったお菓子を父親は食べたことがあるのだろうか。

母親の真似をして、お菓子を作るようになったのは姉だった。姉は料理は下手くそだけれど、お菓子作りは上手だ。姉のマドレーヌは何個食べても次々と食べたくなる、素朴なのに不思議なんだけど。


小学生の時、夏休みに地域の子ども会で梨狩りに行った。母親も参加していた。
近所に住む子供達とわいわい梨狩りをしていた時、
ふと母親の方をみると、母親の二の腕が服がめくれて見えていた。そこには、紫色の大きなアザがあった。

それを見た瞬間、唖然とした。そして頭の片隅で、そういえば昨日の夜、お父さんと喧嘩していたなぁとぼんやり考えた。

見てはいけないものを見た気がした。母親が父親から暴力を振るわれたという事実が子供心に受け入れられなかった。
父親の名誉のために言うと、彼は日常的に母親に暴力を振るっていたわけではない。梨狩りの前日の夜、母親は自らの浅はかな行動のせいで父親を怒らせたのだ。父親は怒ったからと言って暴力を振るう人ではない。あまりにも許容できなかった、あまりにも、母親の考えのない行動のせいで、父親も感情を制御できなかったのだろう。

子どもの私は見なかったことにした。なんでもないように振る舞った。狩った梨を他の子の親に切ってもらって、美味しいねと食べていた。
母親も、なんでもないように振る舞っていた。


お菓子を作ってくれた母親は、特段良い母親というわけではなかった。おそらく父親にとっても良い妻ではなかったのだと思う。だけど彼らはずっと夫婦だ。
私には結婚ってよく分からない。

チョコブラウニーと梨。
母親のことを考える時、この二つはセットだ。


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