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【考え事】『地球は青い』は間違いか?

■ YouTube大学の間違い

 以前紹介したオリラジ中田さんのYouTube大学が、「間違ったことを教えている」という点で専門家から指摘を受けて炎上しています。今日はこれについて思うことを書きます。

■ 分かりやすさの功罪

 物事は本質的には分かりにくいモノなので、それを分かりやすくしようと思うと、情報を削る作業が必要です。例えば以下の内容など。

・5W1Hのどこかを固定する(切り取る)
 (誰かの目線で見る、時代を区切る など)
・情報の粒度を落とす(抽象化する)
 (Aさんは⇒10代男性は⇒日本人男性は⇒日本人は⇒人類は)

そうして分かりやすくするために削った情報は、どこかで誤解を生む内容になってしまいます

例えば「地球は青い」という表現。地球は約7割が海で囲まれているので、遠くから見るとおおよそ青いです。しかし陸地や雲がある部分、南極大陸などは灰色だったり白だったりするので、厳密には正しくありません(画像はWikipediaより)。

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ただし、「地球の約7割を占める海の部分は青く見え、砂漠を中心とした陸地は黄土色、森林部分は緑色、雲に覆われた部分や南極大陸など氷に覆われた部分は白く見える」と正確に表現してしまうと、途端に分かりにくくなります。そうして丁寧に表現した上でも、「いや海の割合は71.1%だし、色も青ではなくコバルトブルーだ」と言われてしまうとそれに対する反論はできません。厳密に言えば間違いだらけの表現になってしまいます。

また同様に、「東大の生徒は頭がいい」という発言に対して「全員が頭がいいとは限らない」とか「頭がいいの定義は?」とか「偏差値で頭の良さが測れるのか」とか「海外の大学ランキングで見ると先進国の中で頭が良いとは言えないのでは?」と言われると、それに対する反論もできません。

複雑な現象を分かりやすく表現する段階では、「明示的に触れない」「代表値を強調する」などの作業を挟んで情報量を落とす必要があります。その段階で削っている情報に対し、「厳密に言えば間違いだ」と粒度を上げた反例を示して反論されると太刀打ちができません。

■ 情報のレベル化

 昨年大流行した「ファクトフルネス」という本で、「先進国か途上国かという区切りではなく、4段階の所得レベルに分割して見る」という方法が紹介されています。そうすると世の中をより正確に捉えることができるということのようです。

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 本の内容自体はあまり覚えていないのですが、この4分割で考える方法がとても便利そうだったので、この本を読んで以降は色々な物事をレベル分けして考えるようにしています。例えばある知識の理解度や習熟度を分けた場合は以下のように考えることができます。こうして分解すると、その分野にどれだけ詳しいか、というのがある程度分かる気がします。

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 また、情報のカテゴリもざっくりとしたものから細かく見ると分けられるようになるので、情報の幅と広さを両方意識すると、より正確な理解が進むようになります。

 例えば下の図。証券会社でアナリストとして勤務するAさんは一番簡単なイメージだと「経済の専門家」として捉えられます。しかしカテゴリを細分化することで、経済の中でも金融経済が得意で、その中でも市場構造の説明や予測が得意である、ということが分かります。もちろん金融と言っても経済の分野はある程度網羅的に理解しており、カテゴリが細かくなっていっても網羅的に理解レベルは2~3です。他の分野をみてみると、歴史は高校の時に世界史を取っていたので世界史はある程度覚えているのですが、日本史は大河ドラマを時々見るぐらいで・・・というように、カテゴリを上げるとより詳細な情報が得られるようになったり、一概に「経済が得意」では言い表せないよね。といった齟齬が出てくることになります。

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逆にカテゴリを下げると情報を集約することになり、小難しい情報を削って「Aさんって経済得意だったよね」というような形で、持ち運び可能な情報(以前の記事の「引き出し」になります。

■ 先生はLv.0~1をLv.1~2にする。専門家はLv.4を磨く。

 で、最初に戻って何が言いたいかというと、池上彰さんやオリラジ中田さんの役割っていわゆる「先生」の役割で、「なんか聞いたことがあるけどそんな意味だとは知らなかった」とか、「高校で暗記しただけの内容が繋がってきた」とか、全く知らないジャンルに興味を持ってもらう(Lv.0→1)とか、聞いたことがあるジャンルを少し深く知る(Lv.1→2)のが役割だと思うんですよね。そこでLv.4の専門家から「厳密に言えば間違い」とか「そんなものは中学生レベルの知識で常識」などの指摘が入っても、それは別の世界の話なのではないか、と思うんです。

 指摘する専門家の先生も、AKB、星の名前、植物の名前、献立、ラグビー、麻雀、音楽、化学など様々なジャンルを辿れば必ずどこか知らないジャンル(Lv.0)があるはずで、そのジャンルを知ろうと思った時には必ず導入として「分かりやすい説明」が必要になると思うんですよね。正確な説明は往々にして語彙がLv.3~4の語彙で語られることが多いので、それだと初学者にはハードルが高くて興味が湧かず、分からない分野を分からない人の語彙で語ってくれる人の存在って結構価値があると思うんです(あの先生のおかげで数学が楽しくなりました、とか、先生より今の授業の内容を分かりやすく教えてくれた友達とか)。

 もちろん間違わない情報の削り方をするに越したことはないですが、そういった存在に専門家目線で「厳密には違う」と指摘することは建設的ではないですよね、という事が今回言いたかったことです。そこは将来的にその分野に興味を持ってくれる人が増える価値の方が大きくて、専門家としてコメントで補足してやればいいだけで、「間違ったことを放送して金儲け」とか「素人が分かったように語るな」とか「通報します」とか、有用な情報は他に大量に提供しているのにそれ全体を潰して誰が得するのか、という点がものすごく気になります。(世界史の専門家が「論語と算盤」の書評やジャック・マーの偉人伝や5Gの解説などを潰す権利があるのか、という視点です。)

 個人的には池上さんやオリラジ中田さんは同じ匂いがするのでとても応援してますし、自分はどういう形になるか分かりませんが後をついていきたいと思っています。そういった「分かりやすくすることの価値」を消さないためにも、ちょっと反論がましいですがここに残しておきます。

地球は青い」に対して「青くない部分もあるからそれは間違ってるよね。」と潰しにかかるより、「地球は青い。でも火星は赤い。同じ星なのになんでだろう?」という持っていき方の方が、将来への貢献度が高いと思うのです。


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