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寄り添い支援の現場から

横浜市通訳ボランティア派遣制度を支える人にインタビュー


依頼者(行政機関・学校等)/通訳ボランティア/外国人/YOKE・国際交流ラウンジ(派遣調整スタッフ)

横浜市通訳ボランティア派遣制度(以下、ボランティア派遣制度)は、在住外国人のみなさんが行政窓口等での手続きや相談の際に通訳者が必要な場合、通訳ボランティアを派遣する制度です。今回、この制度を利用している「依頼者」、「外国人」、現場で対応する「通訳ボランティア」、利用者から依頼を受けて当日現地へ通訳ボランティア派遣の調整を行う「派遣調整スタッフ」に話を聞きました。制度の依頼者、利用する外国人当事者、通訳ボランティア、派遣調整スタッフそれぞれの立場から見たボランティア派遣制度への感想や思いを紹介します。

ボランティア派遣制度を利用している人に聞きました!

質問1 通訳ボランティアがいる際の外国人の方の様子について教えてくだ
              さい。
質問2 ボランティア派遣制度を利用するときに感じる制度上の課題点・改
              善点がありましたら、教えてください。

  1. 通訳ボランティアがいると受付がスムーズに行えます。帰り際、外国人の方は、「ありがとうございました」と言って、安心して帰られている様子です。

  2. ボランティア派遣制度で対応できない言語は、タブレットや外国人のスマホの翻訳機能を活用しています。また、多言語版の問診票を作成して対応しています。今後さらに外国人の増加で多言語化が進むと、人では対応しきれなくなることを

外国人の方が安心して帰られています
横浜市南区福祉保健センターこども家庭支援課
こども家庭係 乳幼児健診担当 


  1. 南区の※定期派遣の際には、ベテランの通訳ボランティアが、外国人市民の方が必要な課を一緒に回り、最後まで親身に対応してくださるので、本当にありがたいです。外国人市民の方の様子を見て、何に困っているのか、汲み取りながら対応してくださっています。機械通訳ではこのような対応はできません。
    ※定期派遣 横浜市南区こども家庭支援課と区政推進課では外国人への対応のために、横浜市通訳ボランティア制度を活用した定期的な派遣契約をYOKEと締結している

  2. 例を挙げると、お子さんがいるご家庭の転入の場合、転入の手続き→学校→児童手当→こども家庭支援課(保育園関連)など一連の手続きが必要で、通訳ボランティアがいると連続して対応ができるので助かっています。通訳ボランティアがいない場合、タブレット通訳を利用しますが、現行では時間や場所の制限があり、市民の方へ十分な対応ができないことがあり、課題となっています。

外国人の困りごとを通訳ボランティアが
汲み取りながら対応してくれています


  1. 通訳ボランティアは、行政と外国籍の市民の間に入り、両者にとって安心感につながっています。児童相談所は、子どもの安全や、権利を最優先する機関なので、保護者の意にそぐわない、法的な対応を説明しなければならない厳しい場面に立ち会うことになりますが、通訳ボランティアは外国籍の保護者に寄り添いつつ、正確で中立的な立場で、使命感をもって対応して下さっています。通訳ボランティアがいてくれることで、外国籍の保護者は、自分が納得するまで質問することができ、安心感につながり、本当に感謝しています。心に残っている場面としては、外国籍の保護者が感情的になった場面で、通訳ボランティアがさりげなく落ち着くように促してくれ、通訳の役割の範囲を超えて、寄り添う姿勢が素晴らしかったと感じました。非常に厳しい場面でしたが、終了後に「力になれることがあれば、また呼んでください」と職員に声をかけてくださったということがありました。善意で成り立っているこの制度は素晴らしいですし、通訳ボランティアには本当に感謝しています

  2. 通訳ボランティア派遣制度は、なくてはならない制度です。ポケトーク、 アプリなどもありますが、生身の人間の思いは、機械ではなかなか伝わらないと考えています。福祉や教育の場面では特に、目には見えない、人と人との関係がとても大事なので、この制度を続けてほしいと強く感じています。

生身の人間の思いは、機械ではなかなか伝わらないと思います


  1. 通訳ボランティアがいてくださることで、保護者は緊張が和らぎ、本音で話せるので、保護者の安心につながっています。印象的なできごとの1つを紹介します。以前、保護者と担任間で、言語の問題による行き違いがありました。その時に、通訳ボランティアが保護者の思いをよく聞き取ってくださり、担任と保護者、両者の思いを互いに確認し、理解を深めることができました。相互の信頼関係を深めるきっかけになり、とてもありがたかったです。

  2. 一点目は、学校通訳の対象範囲を広げてほしいです。例えば、入学式は現行では派遣不可ですが、初めて子どもを日本の学校に入学させる保護者にとって、最初の学校行事で非常に心細いと思うので、入学式をぜひ派遣可としてほしいです。二点目は、依頼票と報告書です。1件につき1枚というのは、特に本校のような依頼が多い学校は、非常に時間がかかる上、ペーパーレスの時代に逆行していると思います。一覧表にまとめるなど効率的な方法を認めてほしいです。三点目は、通訳ボランティアの携帯番号を預かれるよう制度を変更してほしいです。直前のキャンセルや急なトラブル時など、現行では国際交流ラウンジを通じて連絡を取ることになっていますが、非常に時間がかかることがあります。個人情報保護のためという理由は理解できますが、非常時のみ利用するということで許可してほしいと思っています。

担任と保護者、お互いに理解を深めることができました


「横浜市通訳ボランティア派遣制度」依頼と事務処理の流れ

横浜市通訳ボランティア派遣制度は、主に横浜市内の区役所の窓口、市立小中学校、保育所、福祉施設などに通訳ボランティアの派遣を行うことにより、日本語の困難な外国人市民が日常生活を送るために必要な手続きや相談などを安心して行えるようにするとともに、公共機関等の窓口業務の円滑化支援を目的として行っています。
この制度は、発足から約30年が経過しました。年間の派遣数は2233件(2023年度実績)と、大規模な事業展開となっています。当事業は、9か所の市内国際交流ラウンジ等との共同運営となっています。各ラウンジは地域の学校や区役所等からの依頼を受け、ボランティア登録とマッチング業務を行っています。 

(ヨークピア270号記事より)

通訳ボランティアに聞きました!

質問1 通訳ボランティアを始めたきっかけを教えてください。
質問2 通訳をするうえで心がけていることを教えてください。
質問3 これから通訳ボランティアを始めたいと検討している方へメッセー
    ジをお願いします。
質問4 通訳ボランティアを始めて気付いた課題等があれば教えてくださ
    い。

  1. 自分自身、海外生活で助けられたので、今度は自分が助けたいという思いで、20年程前に登録しました。

  2. 英語と言っても、ネイティブばかりではないので、易しい言葉(英語)で説明することを心がけています。日本の制度に関する単語はまずやさしい日本語にして、行政職員に確認します。そのあと単語の意味を英語で説明するようにしています。

  3. まずは登録。専門用語が分からなくても、聞く勇気をもって相手(行政や学校)に聞いて伝えられれば大丈夫です。研修などもあり、参加してスキルを磨くこともできるので、まずは登録しましょう。

  4. 日本の制度を知らない外国人が多いことが課題だと感じています。例えば税金のことに関しても、前年度の収入で今年度の課税額が決まるということを知らず、税金額を見て驚く外国人が多いです。入国時に日本での生活に役立つ制度のパンフレットを渡すなど、何か手立てがあるといいと感じています。

外国人のみなさんにとって、日本の制度を
理解しやすくなる工夫があるといいですね


  1. 子育てがひと段落し、療育に関わった経験を生かしたいと思い、専門通訳を希望し、14年程前に登録しました。

  2. 相手の目的や気持ちを理解すること、相手が言いたいことを、背景やニュアンスも含めて通訳することなどです。相手が言ったことをそのまま通訳するのではなく、まず自分が理解し、やさしい言葉で通訳するように心がけています。

  3. とにかく動く。目標をもって意識して日々努力を積み重ねていくことです。

自分が理解し、「やさしい言葉」で通訳することを心がけています


  1. 最寄りの国際交流ラウンジにボランティア派遣制度の登録に行った際、同時にラウンジスタッフ募集があることを知り応募し、通訳ボランティアとラウンジスタッフを同時に始めることになりました。子どもの頃から通訳になりたいという夢があったので、その夢がかなってうれしく思っています。

  2. 社会や組織のルールを守ることや、相手への気配り、相手の立場に立って考えることを心がけています。困っている方の笑顔を見られると、通訳をしてよかったという気持ちになります。今後も自分自身勉強し、通訳に生かしていきたいと思っています。

  3. 大変なこともあるが、自分の学んだ知識や経験を生かして楽しみながら、日本での生活に困っている外国人を一緒に応援しましょう。

  4. もっとYOKEや国際交流ラウンジの強みを社会にアピールした方がいいと思います。自分自身、来日時、YOKEや国際交流ラウンジのことを知りませんでしたし、困っている外国人がどこに相談したらよいか分からなかったです。HPや区役所、学校などを通じて、研修会や勉強会も含めて、外国人にアピールするといいと思います。

困っている方の笑顔を見られると、通訳をしてよかった
という気持ちになります


その他の通訳ボランティアのみなさんの声を紹介します

とても楽しく、しかもやりがいを感じながら時間を過ごすことができました。1歳半健診の通訳でしたが、まだ母子手帳の発行を受けておらず、健診終了後に発行の手続きまでお手伝いさせて頂きました。ご依頼者のファミリーの安心された表情を見て、充実感を得ました。微力ながらお役に立てたことがとても嬉しかったです。
I.Kさん 英語 登録歴1年

依頼者の安心した表情を見ることができました


日本生まれ日本育ちの男児で、日本語に不自由していないはずが、先生の指示を半分も理解していないと指摘されたことに驚きましたが、前にも同じケースがあったことを思い出しました。将来このような外国につながる子どもたちが、日本の懸け橋になる貴重な人材であること、また、日本人の子どもたちにとっても、小さい時から国際的な環境を味わえる貴重な機会を提供してくれていることを理解し、指導に携わっている、先生方のサポートができることをうれしく感じています。
K.Aさん 英語 登録歴7年

学校現場でのサポートに携われることをうれしく感じています


母親は、日本語が理解できない為、気軽に話せる友人がいないとのこと。通訳を通してでも、健診の間、いろいろな方と交流できたことをとても喜んでいました。寄り添えて良かったです。
S.Aさん 英語 登録歴1年

外国人の方に寄り添うことができて良かったです


通訳を通じて、保護者や先生からの感謝の言葉や笑顔を受け取ることができると嬉しいです。自分の能力を活かして他人を支援することで得られる喜びは大きいです。
R.Tさん ベトナム語 登録歴1年未満

自分の能力を活かして支援できる喜びは大きい


制度を利用している外国人の方に聞きました!

質問1 ボランティア派遣制度を利用してよかったことを教えてください。質問2 普段の日常生活で困っていることがあれば、教えてください。

1.パキスタンから来日、母語はウルドゥ語です。言葉ができなくて、4人の子どもの学校や行政の手続きができず困っていた時、国際交流ラウンジが英語の通訳を手配してくれました。また、三者面談のとき、通訳ボランティアの方が付き添ってくれ、自分の子どもが学校でどのように過ごしているか、また、子どもの成長のためにどのようにすればよいか、通訳してくれました。とても感謝しています。また、国際交流ラウンジは、通訳だけでなく、困り事に寄り添ってくれます。
横浜は制度が整っていて、外国人にとっても暮らしやすいと感じています。

2.日本人の多くは優しく、文化の違いを理解しようとしてくれるので、あまり困っていることはありません。銀行口座の開設のときや、ハラルの食品を買うときなど、困るときもありますが、アプリを活用してなんとか生活しています。

学校の三者面談で子どもたちの様子について通訳してもらい、
感謝しています。横浜市は制度が整っています


YOKE派遣調整スタッフに聞きました!

質問1 派遣調整スタッフになったきっかけを教えてください。
質問2 派遣調整する際に気を付けていることがありましたら教えてくださ 
               い。
質問3 派遣調整スタッフになってから忘れられないエピソードがありまし                たら教えてください。

  1. 多文化共生に興味がありましたが、語学で思うようにサポートできなくても、通訳ボランティア派遣調整窓口という業務がYOKEにあると知りやってみたいと思いました。

  2. 通訳ボランティアが、当日スムーズに依頼者と対面できるように、電話では簡潔に要点をお伝えするようにしています。また、案件の内容に合った通訳ボランティアを見つけられるよう、データベースを見ながら、日々努力しています。1件の依頼に対し、多いときは20人程の通訳ボランティアに電話をして、ようやく1件の依頼が成立することもあります。

  3. 行政や学校から「やっと(外国人対象者と)コミュニケーションがとれた」、ボランティアさんから「通訳として活躍するのはとてもやりがいがある」などのコメントをいただいたときには、スタッフとして喜びを感じます。

依頼者や通訳ボランティアから良いコメントをいただいた時、
スタッフとして喜びを感じます


「横浜市通訳ボランティア派遣制度」の「これまで」と「これから」

「横浜市通訳ボランティア派遣制度」は平成5(1993)年から現在まで約30年間、YOKEが市内9ラウンジと連携して実施してきました。ボランティア派遣先は、区役所窓口や市立小中学校、認可保育園、児童相談所、地域療育センター、市民相談室、区民特別相談室、特別支援教育総合センター、社会福祉協議会までに拡がっています。
多文化共生社会は、外国人の生活基盤を強固なものにしていかなければ始まりません。そのため各種社会福祉制度の享受を保障するのが行政の使命だとしたら、ハードルとなっている言葉・文化の壁を取り払うのはYOKEの役割だと認識して、今後も取組み続ける必要があります。

30年間、外国人口数の増加や属性の変化状況に合わせ、当初の行政一般通訳に加え、行政専門通訳を増やしました。また、外国人集住区役所への通訳定期派遣の実現、教育委員会との間における「学校通訳派遣」に関する委託契約、コロナ禍におけるICTによる通訳対応、法律相談の多言語対応においては市民相談室や法テラスと協定締結など、YOKEだからこそ持てるネットワークや関係性から把握し得るニーズをもとに、行政への提言などを通して、着実に多文化共生社会実現を推進してきました。 市民通訳登録者数は当初の100人から、令和6(2024)年度には783人(うち外国人232人)となり、通訳派遣件数は令和5(2023)年度には2,233件まで増加。横浜市の多文化共生を市民参加(日本人も外国人も)で進めていることも、この制度の重要な一側面です。
今後は、通訳派遣調整業務の効率化を図るためのデジタル技術の活用、行政と支援者間の情報交換の場の設定、専門知識や多文化理解の研修機会の充実などを通して、この市民参加による在住外国人支援のバージョンアップを図っていきます。


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