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舞台『審判』を見て

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2022年6月23日 (木)14時の回観劇 
舞台『審判』
義庵 2ndACT『審判』
出演:加藤義宗
会場:調布市せんがわ劇場(京王線仙川駅より徒歩4分)
作:バリー・コリンズ 翻訳:青井陽治 演出:加藤健一


長い長いコロナの制限期間が終わり(5月22日に東京都のリバウンド警戒期間が終了)、やっと気兼ねなく旅行や観劇が楽しめるようになった。皮肉にもそんな私がコロナ後気兼ねなく最初に鑑賞した演劇作品が“何もかも制限された極限状態の中で人間の尊厳を失わなかったある兵士の物語”バリー・コリンズ作『審判』である。ミュージカルやお笑いが好きな私にとって普段なら絶対に手を出さないタイプの作品であるが、ある縁があってこの『審判』を今どうしても見ておかなければならず、せんがわ劇場へ。見終わってから考えると3,500円というチケットは異常に安く、この値段の10倍、人によっては100倍の価値がある作品かもしれない。

『審判』の物語は第二次世界大戦中、仲間の兵士と共にドイツ軍の捕虜となったロシア兵士ヴァホフ(加藤義宗)が、食糧も水もない地下室で数十日間、最後の二人になるまで生き延びる為に「おこなった事」の詳細を当時の感情を交えて淡々と語っていくというもの。なぜ語るのかというと、そこは軍事裁判の場で罪状は救出された二人が残りの兵士を殺害しその肉を食べてしまったから。主人公ヴァホフと共に地下室から出たもう一人の兵士ルービンは壮絶な体験に気が狂ってしまい、正気を保つヴァホフが一人証言台に立つ。幕が開くスタートから2時間半、ヴァホフを演じる加藤義宗は水も飲まずにしゃべりっぱなし。彼は陪審員(観客)に向かい、この地下室での出来事についての審判を問う。

あらすじを読むとショッキングであるが、理路整然とヴァホフの口から語られる「出来事の数々」は登場人物がその状況においてどうしたか?を読み解くサスペンス・ドラマ性の方が勝り(実際の事件から着想を得たストーリーとのこと)、怖さや気持ち悪さは感じない。舞台上を一人動き回る加藤の表情、研ぎ澄まされたセリフ、少ない小道具、薄暗い照明から、ただただ空は見えるのに逃げられない地下室での絶望感がひたひたと伝わってくる。死んで肉となっていった兵士それぞれに愛する家族や友達がいて、幸せだった思い出がある。戦争そのものについては語られないので国同士の憎しみや戦う事への恐怖といった感情は排除され、理不尽な戦争により死を迎えた仲間と彼らの意思を継いだヴァホフがまた裁かれるという、戦争の理不尽さに強い焦点があたる。


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