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眠れない夜に10分で描いた小説「虫の渦」

洗濯をしようと窓を開けた。とたんにちいさな虫がわーっといっぺんに何百匹と家の中に入ってきた。虫はぐるぐると渦を巻いていて、玄関の方へ飛んでいき、ユニットバスのほうへなだれてゆき、ふたたびきれいな渦を取り戻してロフトへ登っていった。ロフトのあちこちを飛び回っているちいさな羽音がいろいろなリズムで聞こえてきて気持ちが悪い。ロフトを飛び回り終わったらしい虫たちが渦のまますーっと一階に降りてきて、
「家賃いくらですか?」
と聞いてきた。
「6万です」
とぼくが答えると虫たちは口々に高いとか安いとかでもわりあい新しい建物だからわるくはないなどの言い合いをはじめて、
「じゃあ6万で」
と言った。
「住まわせないですよ」
「どうしてですか」
「ぼくがこの家を契約しているからです」
「なるほど」
虫たちは再び話し合って、
「管理会社の連絡先をいただけますか?」
と言ってきたので書き写したメモを渡してやるとメモは渦の中をくるくると回っていって、わかった、なるほど、そういうことか、などと言いながら虫の渦はぼくの部屋から出ていった。
次の日、虫の渦が引越し祝いを持ってきて、重くて持てなかったのでお蕎麦をたったふた束ですいませんと言って謝った。家のドアとか開けられますかと聞くと、ドアから入らないので大丈夫ですと機嫌よく答えた。窓ですか、というと、ほかにも、と優しい声色で言うので、ぼくは家の隙間という隙間を塞がなければと思った。

ものを書くために使います。がんばって書くためにからあげを食べたりするのにも使うかもしれません。