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【短歌】暮らしていく

さかのぼり源氏のころの猫であるあなたは春になるたび鳴いた
目玉焼きたまには服を脱がないでするのもいいねと言えば春霖
真空をつくる機械を使うから静かにしてと言われて黙る
あちこちに脱ぎ捨てた服あちこちに服を脱いでるあなたの姿
やわらかい髪を染めないでください あとはこっちでやっておくから
窓際にヒヤシンスあり粉薬水に溶かして飲んではいけない
庭のない暮らしに慣れて春驟雨ねむるため飲む薬は苦い
ゆっくりと値札を剥がす家族には言えないことを思い浮かべて
シーズニングスパイスを振りつかれたら横になりそのうち起きて振る
みがいたらつやつやになる炊飯器また会いたいと言われてみたい
どこからかラジオが聞こえてきて空気階段ですと自己紹介する
青色の名曲喫茶くちびるの端にほくろがあり生きている
ピアニストになりたいのなら花冷えに散らした紙を集めてきなさい
コーヒーは深煎りがよくさんざんな夢ばかりみたあとに読む歌詞
晴れている いらない果実買ってきていらないのにと思いながら食う
デニーズに飾られている抽象画たまには顔を見せにいきます
夕焼がおそろしいのでクリームをたくさん盛っていただけませんか
警官の帽子の中にある地図を広げてみればまだ知らぬ海
はちみつを耳へと注がないでくださいあなたの話は聞こえています
聴力の検査さざ波ではじまり小さな村に不穏ひろがる
灯籠を倒したことはないけれど揺らしたことはある あやまって
色のついた麺の打率を越えたくてあの子は麺になってしまった
くりかえし放物線になっている手首からこぼれ落ちていく砂
遠浅の海にひたした足がなくなっていく帰らなくちゃいけない
開演の前に流れる映像が淡すぎてビールがすすまない
わたしにも故郷があって映画では最果ての地として描かれる
つめたい手だからもう会えないだろうビデオテープをためておく部屋
寝返りをうてばあなたにぶつかって毎年同じように咲く薔薇
クレープを四角くたたむじっとりと汗かきながらしている 雨だ
ねこだましされてそれからなにごともなく暮らしました 星が流れる

ものを書くために使います。がんばって書くためにからあげを食べたりするのにも使うかもしれません。