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個展ありがとうございました

↑個展六日間で書き上げた小説です。誤字脱字の校正をしておらず、個展の際に書いたままの状態でアップします。タイトルも展示内でつけなかったので仮タイトルのままです。(下記の本文中に10万字弱という表現が山ほど出てくるのですが、改行を含んでそのくらいだったようなので文字数は9万5千字くらいでした。すいません。そのとき思ったままにしておきたいので修正しないでおきます)


井口可奈個展「ちからはパワー」ご来場くださった方、お気にかけてくださった方、とにかく皆さんありがとうございました。

至らないところも多々ある個展だったと思うのですが、とても楽しくやれて、いろいろな方に来ていただけて本当によかったです。

初日に一行目から書きはじめて、最終日の終了直前に書き終わり、6日間で10万字弱の小説をつくることができました。
途中疲れてヘロヘロになりながら書いていた箇所や事実チェックしてない箇所があるので、公開するのが不安で仕方がないのですが、展示中に書いたほとんどそのままの状態(作品のあとにコピペミスで謎の文章がついていたのでそこだけ削りました)を公開します。
よかったら読んでみてください。

以下、その日にあった出来事と反省会をお送りします。


1日目

9時に赤帽が家を出発し、10時から会場に搬入。ひととおり展示の準備を終えて12時になると完全に疲れて無言になり、いすから動けなくなる。これはだめだと判断した搬入お手伝い班がかつやでかつ丼を買ってきてくれる。食べたら元気が出た。

こたつにカメラなどをセットして、配信もして、いつでもお客さん来い!の状態で一行目から書きはじめた。普段通りの雰囲気で書いていると開始から一時間経たないうちにお客さんがふたり連続で来る。緊張しすぎてあまり顔を見られなかったが多分顔見知りではなく展示情報を調べたor通りすがりで来てくれた人のようだった。お客さんが帰ったあと脱力してしまう。
見られながら書くというのは、緊張するというより、書き続けなきゃいけない(手を止めたくない)というプレッシャーがあるなと思った。
外から時々「小説の展示だって〜」というような声が聞こえる。たまたま通りかかった人にも入ってきてもらえるようにするためには書いているところを見せるのが一番で、もしそのタイミングで携帯を触っていたりしたら入る気持ちだったお客さんも入ってこなくなってしまうなと思うと、休憩する暇がないことに気がつく(結局お手洗いに立ったのを除いて13時から19時までずっと書き続けることになった)。

途中でポメラbotさんからお花が届く。お花を運んできた人が「いや〜こっちの会場とは思いませんでしたよ〜」と言いながらガンガン入ってきたのでフレンドリーに近寄ってくる詐欺かと思った。
大変ありがたく、とにかく目立つところに飾ろうと思った結果モニターの下に椅子で置くというなんかそれでいいのか?な飾り方になってしまった。

最後一時間ほど、もえちゃん(岡田萌枝)が来てくれてじっと書くのを見ていた。もえちゃんは旧知の仲だからか、見られていることを意識しないでかけたのでやりやすかった。終わった後もえちゃんとエリックサウスでビリヤニとミールスを食べる。あと5日あるのたいへんだな〜無理しないようにね、と言われてほんとそうだなと思う。

初日は15000字くらい書いた。1日にこんなに書くことはめずらしい(たぶん新記録)のでとても頭が疲れて、なにも考えずに風呂に入ってとにかく寝た。


2日目

昨日とはうってかわってお客さんが来ない。とにかく来ない。平日だからということもあるのかなと思ったがそれでも来ない。

書いていて不安になってきて、もしかしてこの個展って需要がないのではないか、とか、面白くないのでは、とか、小説がそもそも魅力的な内容ではないのでは? などと考えてしまう。
そのことが直接の理由ではなく、ふつうにアイディアが切れて、16時頃執筆が止まってしまった。

いつも書きはじめたらなにかしら思いつくため、それを頼りにやっていて、書けなくなったらその日は終了というスタイルを取っているのだが、展示ではそこで止めることはできなくて、クローズの時間まで書き続けなくてはならない。
いったん昼寝兼アイディア出しの時間をとってみるがあまり良い案は出ず、ポメラに向かうと手が止まってしまう。頭がじーんとしてなにも思いつかない。しばらく固まっていたけれど、思い切り、YouTubeの配信を切って、その日は17時ころに閉める決断をした。

アイディアが切れてしまうことを想定していなかった自分に驚いた。自分はどんな状況でもなにかしら作れると思っていたからだ。
奈良で俳句と短歌を即興でつくるパフォーマンスをしたときも、作品の出来にムラがあったが作れないという回はなかったので油断していた部分があった。

閉めた後どうしようか悩んで新宿にお笑いライブを見に行った。わたしは春組織という芸人が好きなのだが、彼らの出るユニットライブを見ることにしたのだった。
春組織は見たことのないネタをやっていた。そのネタは、最近よく使っているフォーマットに加えて大喜利の要素を入れてくるというあたらしい作り方で、とてもよかった。漫才はどうしても仕方がないのだが、ウケるフォーマットが見つかるとその形のネタばかりが増える傾向にあって、春組織のネタも最近は面白いけれど同じフォーマットだなと思っていたところだったのだが、あたらしいものを見せられて、進化している!ということに衝撃を受けた。

わたしもやってやるぞ、と思って、ライブの後は崎山蒼志のsamidareを聴きながら帰った(これも五月雨という既存曲を大胆に解釈しなおしたあたらしさのある名曲だとわたしは思っている)。

家に帰ってとにかくアイディアを考えた。その場で思いつくものだけでなく、いくつか案を出しておけば思いつかなかったときにも安心だと考えたからだった。このアイディアは使った日もほとんど使わなかった日もあったが、アイディアのストックがあるということでかなり安心できるようになって手が止まらなくなったのはよかったと思っている。


3日目

土曜日。友達がたくさん来てくれる。本当にありがたい。

このあたりで全員と言っていいくらいみんなが差し入れをもってきてくれるなということに気がついた。わたしはnoteの個展の注意事項に差し入れOKですとか持ってきてくれるならこういうものがいいですということを書いたのだが、それが、持ってこいっていうふうにとられているのでは…?プレッシャーをかけてる感じになったたら申し訳なさすぎでは…?と思いはじめて申し訳ねえな〜となるが、差し入れのおかげで糖分が足りたり食べ物が増えたりガムテープの予備ができたりおめでたいことがあったときに使えるご祝儀袋をもらえたりしたのでよかったということにしようと思った。

しばようが来てくれるが、あれこの人しばようかな…?でもしばようってもっと違う顔の感じだったよな…?と自信が持てなかったのでめちゃめちゃ他人の態度でしゃべってしまった。
わたしは人の顔を覚えることが苦手で、ほんの少しでも変化があるとかなりの知り合いでもわからなくなってしまいやすい。だから女性の顔が覚えにくい(化粧をしている人が多いから)。相貌失認みたいな感じですと人には説明しているが厳密にはちょっと違うと思う。ちなみに人の名前を覚えるのも苦手なので人生かなり詰んでいる。
なんかこの人めちゃくちゃ見るのうまいなって思ったので、そのとき気がつけばよかったなと思いました。わたしを緊張させずにみる見方がうまいっていう人は大抵長い付き合いの知り合いだった。

17時半頃に酔っ払いがドアに張り付いて離れないという案件があった。
「おれは!おねえさんに!なんでこたつなんですかって聞くんだ!なんで小説を書いてるんですかって!聞く!!!」と主張しているところを同行しているご友人が引っ張って連れていってくれた。はやい時間から飲んでるなと思ったが、いま緊急事態宣言でいろいろなお店が20時までしか空いていないから、一軒目を終えて二軒目に移動するとちょうどこのくらいの時間なのだろうということに気がついて後で納得した。

クローズ後はどこに行こうかうろうろして、目当ての店が閉まっていたので行く宛がなくなり、適当に路地を入ったところにあった定食屋に入った。定食屋という名であったがみな酒を飲んでいて、全員がご老人だった。サービス定食のまぐろとあじの漬け丼600円を注文する。懐メロの人ばかりが登場する音楽番組を妙に高い位置にあるテレビで流していて、常連のおじさんが「上着はそこにかけてね」「荷物ここに置いてもいいよ」ととても優しい。そのうちむかしはビニ本があったよなという話になり、赤線と青線って知ってる?と聞かれて、名前くらいは…と答えるといろいろ教えてくれた。内容は性の話題であるが、セクハラにならないラインをわきまえてしゃべってくれるタイプのおじさんばかりだったので非常にありがたかった。漬け丼と、おまけとしてブロッコリーにマヨネーズをかけたのを出してもらいそれも食べる。さくっと食べて出ると、いい子だったね、という話し声が聞こえてきてなんだかほっとして、意外とわたし緊張してたんだな、と思わされた。


4日目

日曜日。休みの日ということもありまたいろいろな人が来てくれる。ありがたい。
外から女の子が「小説を書いてるんだ、すごーい、もっと見たい」と言っている声が聞こえてくる。お母さんらしき人が「でも無名でしょ?有名じゃないならいいよ」と言っていてそういうものだよなあと思う。

小説を書く展示、というもの自体に興味を持ってくれるひとはかなりいたが、実際に中まで入ってきてくれる通りすがりの人はあまり多くなかった。
仕組みが面白いと思っても文章が面白いかどうかは外からでは(それこそ名前が知れていないと)わからないからそりゃ入らないよなあと思った。
なんかそれって悔しいなあと思う。これが絵だったら入ってくれたのかなとか、別に絵というジャンルに敵対心を持っているわけではなく、単純にそういうビジュアルでぐっと内容の良さが伝わりやすいものだったらどうだったのかなと思った。

友達からお花が届きめっちゃ可愛いのでテンションが上がる。これもモニターの下(絶対みんなの目に入る位置)に置いた。

ツイッターで春組織ファン仲間だと(勝手に)思っている人が見に来てくれた。はじめ入ってこられたときになんか見覚えがある気がすると思って、書きながら考えていて、あっマセキの事務所ライブでよく見る人だ!!と気がついたときに、ブログかなんかで後ろ姿か何かを上げてらしたのをとたんに思い出して、あ〜〜たぶんあの人だ〜〜ってなったけど、えっなんで知ってるのキモいと思われたらどうしようとか勝手にこじらせてしまって、当たり障りない会話しかできなかった。新垣さんの春組織ですをいうときのちょっと身を乗り出した姿勢いいですよねとか話題は山ほどあったはずなのに…(例がキモい)

あと四日目は小説を書く人が多く見に来てくれたので若干緊張した。書く様子を見ているときのまなざしの真剣さがすごかった。緊張もしたけど、ちょっと消して直すだけでも座り方が変わるから反応いいな〜と思ってこちらもノリノリで書けたという面もあった。

集中して書いているときは観客をほとんど見ていないので、でも耳は生きてるので、息の吸い方とかここで笑うんだな〜とかを聞いてました。


5日目

月曜日だが人がいっぱい来てくれてありがたい(みんなに対するほんとありがとうっていう気持ちを忘れてはならないということを個展で学びました)。

急に、来てくれた人がある小説の一部分、それもみんなちがう一部分をばらばらに知っているという状態めちゃめちゃおもしろいなって思った。
あ〜全部知ってるのってわたししかいないのか!という当たり前のことに気がついて、終わったらすぐ全編公開しようと思ってたけど謎をしばらく秘めていてもらうのもいいなってちょっと考えた。でも人によって見た場面に違いがありすぎるからはやく全文を読んでほしいという気もした。

ファンなのだという方も来てくれて、ありがたすぎて泣くかと思った。
個展って知り合いとずっとしゃべってる状態に陥りやすく、それって初見の人は話しかけにくいなって思っていて、この個展ではそれは避けたくて、つまりはじめてお会いする人とそうでない人を差別したくなかったので、全員といっぱい話すか全員と話さないでパフォーマンスに徹するか悩んで後者のタイプの展示にすることにした(ご時世柄もあり)のだけれど、ものすごくみんなと話したかったな〜〜〜という気持ちがこのあたりから生まれてきた。
せっかく来てくれたのにありがとうをしっかり伝えられないのはもったいないし、話をしたっていう思い出を持って帰ってほしい気もして、塩梅がめっちゃ難しいなと思う。
ひとと話しながらもすらすら書く技をマスターしたいと真剣に考えた。

この日最後に来てくれた人も見覚えがあって、あっあいつだ、と思ったのだけれどスーツを着ていることもあって確定できず、あれ〜違うかな〜と思いながら書いてたらすごく真剣に見てくれるし反応がいいのでどんどん調子に乗って、面白く書く、にのめり込んでいった不思議な時間だった。
あとで感想フォームを確認したらやはり彼だった。めちゃめちゃ本を買ってくれて読んで感動したという旨の超長い感想を送ってきてくれて、相変わらずいいやつだなと思った。(HOSの人向けに説明すると、ほしかずのかずの方です)

終わった後に天丼を食べたら胃がつらくなった。個展で疲れているときに天丼は禁忌。


6日目

5日目の後半あたりから、最終日にこの小説を書き上げようという気持ちがあって、どうしたら書き上がるかのアイディアをいっぱい考えて会場に行った。13時から開場なのに12時に着いて、アイディア出し昼寝をした。
きょう書き上げる、しかも時間いっぱいをうまく使って、できるかな〜という不安はあまりなく、やるぞ!!!という気持ちで挑んだ。たくさんアイディアもつくってきたしいけるだろうと思って書きはじめると、いいペースでお客さんが来てくれて助かった。

考えていたアイディアとは違うシーンを交えながら書いていって、最後はこのくだりで終わらせるぞというあたり最後の一時間くらいを使おうと思っていたのだが、無事そのペースで突入することができた。
最後の方はお客さんがいなかったので、うまく17時クローズ(最終日はクローズがはやい)までに書きあげるという自分との戦いってやつだな…と格好つけたことを考えていると、17時になる10分か15分ほど前にお客さんが入ってきた。さっき看板を見て一度通り過ぎた人だなと思った。ふらっと通りかかって見にきてくれたようだった。
ありがたいなと思いながらお客さんが展示を見ている間にどんどん執筆を進めた。お客さんは席に座ってわたしが書くのを見ている。

後半はセリフが多い。ふたりの対話をどんどん描いていって、じつは、どのように終わらせるのかまでは決めていなかった。だんだん話の内容が今の自分を書いているような展開になってくる。文章を書くことや書いていくことについての話へと移りつつあった。
なるほどこんな話になるんだなと面白くなってきて、やりとりを書きたいだけ書いたあと、地の文をさらっと一行書いて、そのとき、あ、これでこの作品は書き上がったな、と思った。時間は展示が終わる17時の数分前だった。

なので顔を上げて、お客さんに、
「終わりです」
と言った。お客さんはえ!!??というような反応をしたので、この小説、ずっと六日間かいてきたんですけど、ここで書き上がりました、ということを説明すると、すごい、と拍手をしてくれた。わたしも拍手をした。

お客さんはすこし自分の話をしてくれた。
声優を志望しているという彼は、なかなか思い通りにならないことや、壁にぶつかることもあり、それがいま書かれていた小説とリンクしているので驚いたという話を聞かせてくれた。
わたしは自分のことを書いていたのだと話した。自分でジャンルやこういうものを書かなきゃということを縛らないで、書いてみること、書いていくことなんだなと思ったというような話をした。

ありがとうございましたと言い合って、しかし17時でクローズはしなくてはいけないので、惜しみながらお客さんを見送り、片付けをはじめた。

ふと文字数を見てみると10万字近くて(厳密にいうと9万8千何百文字かだったと思う)、わたしはその長さの小説を書いたことがなかったので驚いた。6日間でこれだけ書けるものなのだなということにもびっくりした。
書きあげられたのは人が来てくれたことや、常に人の目があったこと、配信をしていたことなどいろいろな理由があったと思う。なんだか嘘みたいな気がして驚きばかりが先に立った。

片付けをする頃にはへとへとになってしまっていて、床に座り込んでしまうことも何度かあった。このまま寝てしまいそうなくらい体が疲れていたので友達と通話して、起きているか監視してくれとお願いし、だらだらと話しながら片付けをした。

そのうち赤帽の人が来てくれて荷物を乗せ、家まで運んでくれた。
家に着くとまず鍵を開けて赤帽さんが荷物を入れやすいようにドアを全開にするのだが、鍵を開けて部屋の電気をつけた途端に、いただいた差し入れのたくさんの袋がみえて、なんだか胸がじーんとするなと思いながら赤帽さんが荷物を運んできてくれるのを受け取っては部屋に運んだ。

赤帽さんが帰ってひとりになるとふらふら布団に向かって、とりあえず横になった。疲れているのだけれど何かしたいという興奮がまだあって、とりあえず来月分のお笑いライブの予約をいっぱいとった。そして少し落ち着いてから、ありがとうございますというようなことをツイッターに書き、感想などをチェックして、この1日に何があったかということを記した文章を書きはじめた。

余談だが、展示中はカフェオレと水を飲んでいて、6日間で一リットルの牛乳を3本あけたので、高円寺の牛乳消費量を増やすことに一役買えたかもしれないなと思った。

ほんとうにいろんな人に支えられて見守られているのだということを感じた展示だった。がんばってやっていかねばならないし、やっていきたいと心から思った。

反省点は多分めちゃめちゃあるが(人の顔を覚えていなかったことにはじまり)、今はそれより終わってほっとした気持ちと、悩みながらもやり遂げられたなという気持ちが大きく、とりあえずそれでいいのかもしれないと思った。

やっとほっとしたのか夜が明けていまめちゃくちゃ眠い。寝てから考えます。ありがとうございました。

ものを書くために使います。がんばって書くためにからあげを食べたりするのにも使うかもしれません。