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SS『影女』

 影女かげおんなという妖怪がいる。
 男やもめの住む家に出る妖怪だ。
 この影女が、友人の家に出るという。
 
 あまりにも友人が恐れるので、一目見てみようと家を訪ねると、確かに居た。アパートの自転車置き場に女がたたずんでいる。
 
 外灯の光が届かないのか、その女の影は薄い。
 妖怪というよりは、幽霊みたいな女だ。
 幽霊と妖怪の違いをうまく説明することはできないが、顔色の悪い陰気な女と言えば雰囲気が伝わるか。ぼんやりとおぼろげで、はっきりしない。影の薄い女。

 「影の薄い影女」か。

 どんな顔をしているのか見てやろうと、アパートの住人をよそおって自転車置き場に近づいてみる。
 女は顔を伏せ、すうっと暗闇に身を引いた。

 暗い影の中に、女の気配。
 影の中の影女。
 影が女に支配され、女自身が影になる。

 なるほど、こいつが影女か。妖怪に見えないこともない。
 
 が、
 見えないこともないけれど、妖怪ではない。
 陰気な女が自転車置き場に立っているだけ。
 ひとだ。

 おびえる気持ちで見れば、柳だって幽霊だろう。

 とりあえず、あいつの部屋に行って安心させてやろう。
 あれは、ただのヒトあやしいものなんかじゃない。

 影の女は放っておいて、怯える友人を安心させるため、アパートの中に入る。

 おーい。
 いるか?
 なんでそんな暗いところにしゃがんでいるんだよ。
 明かりをつけると影ができるから?
 なんだよ、その理由。
 いたよ。例の女。
 自転車置き場に立ってたよ。
 たしかに影の中にいたな。
 でも、あれは妖怪なんかじゃない。
 人だよ。
 だったら、なおさら怖いって?
 さては、おまえ、あの女になにかしたな。


 あいつの自業自得じごうじとくが生み出した、ただのストーカー女だったか。 






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