海鼠(ナマコ)③
あの頃、私の携帯電話に盛んに送られてきた「溶けるナマコ」の動画。
修学旅行中のナマコ実験を誰かが撮影していたらしい。
あの動画が私は怖かった。
でも、学校中で流行っていたから、見ないでやり過ごすことは不可能だった。
削除しても削除しても、次から次に誰かが送信してくる。
たとえ自分でファイルを開かなくても、教室のどこかで誰かが動画を見せびらかしているのだ。
うれしそうに携帯電話の画面を差し出してくる同級生たち。
おかしな鼻歌と、とろけるナマコ。
そして笑い声。
どうして、あんな恐ろしいものが流行っていたのだろう。
あの酷い動画が流行ったおかげで、自分でも実際にナマコを溶かしてみようとする人間が爆発的に増えてしまったはずだ。
いったい何匹のナマコが、人間の好奇心のためだけにグズグズに溶かされてしまったのだろうか。
溶けても死なないとはいっても、よろこんで溶けているはずはない。
ナマコは人間を恨んでいる。
ナマコの呪い。
呪いは、きっとある。
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