脳を安定化させる:不便益8:一緒に暮らす意味
孤独が増えていく時代
少し前は自分の部屋が欲しい、1人の時間を大切にしたいなどという言葉をよく聞きました。しかし、現在の日本では、孤独・孤立はとても深刻な問題なのです。
独居世帯は全体の3分の1を超え、未婚率(50歳時未婚割合)は男性27%、女性18%と急増しています。少し古いデータですが、経済協力開発機構(OECD)の調査では"友人や同僚との交流が全く/ほとんどない"人の割合が20カ国中最も多く、内閣府の4カ国調査では"同居の家族以外頼れる人はいない"人の割合は日本で16%と最多でした。
さらに、高齢化が進むなか配偶者の死別や離婚が理由で単身となる人は多く、さらに若いうちからシングルで生きる「おひとり様」人生を選ぶ人も増えている。そのため、2040年にはおひとり様の割合は、50%以上になるとの試算もあり、孤独を感じることが益々増えることが予想されています。そうなると、健康にも様々な障害が生まれてきます。
孤独と健康問題
孤立・孤独の影響に関しては1970年代から疫学研究が蓄積され、今ではメタ解析の成績がそろっています。
まとめると、孤独を感じる人は、正常な人と比べて死亡率が1.3~2.8倍、心疾患が1.3倍、アルツハイマー病のリスクが2.1倍、認知機能の衰えが1.2倍高まります。また、うつ病は2.7倍、自殺念慮が3.9倍と、メンタルに対しても甚大な悪影響を及ぼすのです。以上のように、孤立や孤独が種々の疾患の発症や死亡を増やす点については、確固たるエビデンスがあるといえるでしょう。
孤独の脳内機序
機能的MRIを用いた検討では、ヒトが社会的に拒絶されると身体的痛みを感じたときと同じ領域(背側前帯状皮質)が活性化されます。つまり、日常的な孤独は慢性痛と同じで、両者は類似のメカニズムで心身に悪影響を及ぼすと考えられるのです。孤独を感じたストレスで炎症が生じ、冠動脈疾患や脳卒中を発症しやすくなります。また、免疫力が低下して易感染性になり、肺炎などのリスクを高めるとの報告もあります。
逆に、つながりが豊富なら周囲のサポートを受けられる、社会参加が促される、健康に役立つ資源にアクセスできる等の利点が生じます。また、サポートが十分だとオキシトシンが分泌され、ストレス反応も緩和すると考えられます。
高齢者の孤独と健康
居住形態にかかわらず、他者とのつながりが乏しい者では健康悪化リスクが高まることが知られています。特に要介護認定率では、誰かと同居して いるにもかかわらず他者とのつながりが乏しい者ほどリスクが高いことが知られています。そして、他には以下のような懸念があります。
これからの社会をデザインする
今後日本社会では孤独者が増えていきます。そのため、おひとり様ビジネスが盛んになります。しかし、その逆に、孤独を感じる人にとっては人とのつながりを持つことが大切となり、わざと個別化していたサービスをグループ化するというようなことになるはずです。宿泊先も個室ではなく共同部屋が、家も個室よりもシャアハウスが、さらに職場も個人の部屋よりもコアワーキングスペースをあえて増やすような仕組みになると思われます。そんな未来では、健康も個別で管理するよりも、集団で管理することになると思われます。いわゆる”グループワーク”のような形の治療が主体になる時代が到来すると予測できるので、我々はグループの大切さを踏まえた健康管理を今まさに準備しています。
#日経COMEMO #NIKKEI
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