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「顔に書いてある」とかいう言い回し

小学校の授業が終わるといつも、同じ敷地内にある放課後教室に向かう。地域によって名前が違うらしいが私の住む地区では『いきいき教室』と呼ばれていた。なぜか一面畳が敷かれた大教室に”先生”たちがいて親が迎えに来るまで私たちの相手をしてくれていた。”先生”と言っても教師ではなくほとんどが地元のおじさんやおばさんたちだ。けれども不思議とそのおじさんやおばさんたちは私の中でちゃんとした”先生”だった。

Ⅰ先生は私が小学校に入学した時からずっといてとてもお世話になった。60前後の男の先生で、オールバックに紺のジャージにタバコのイメージがある。今思えば一つもいきいき教室に相容れる要素はない。教室では一番偉いらしくていつもなにかと仕切っていた。この教室にはルールがあって宿題を終わらせてからじゃないと運動場に遊びに行けず、確認のためにいつもI先生に宿題を見せに行かないといけなかった。I先生はやたらと0と6の書き方に厳しかった記憶がある。

子供たちの中には賢い子がいて、宿題が終わってないのに先生がいないタイミングでこっそりと運動場に出て行ったりする。でもそんなときは大体I先生に呼び出されて教室で尋問を受ける。
「宿題はやったんか」
「やりました」
「ウソって顔に書いてあるわ」
そう言われるとその子はバツが悪そうにして観念するというのがいつものパターンだった。

一部始終を見ていた私は心底不思議で仕方なかった。
I先生なんでわかったんや、、、。その子の顔にもなんも書いてないし。I先生にはほんまにその子の顔に”ウソ”って文字が浮き上がって見えるんやろか、、、。魔法みたいや。
といつも思っていた。
その言葉自体がウソであることに気づくのはまだだいぶ後のことだけど私はこの魔法がとても好きだった。

大人になってこの魔法を使う側になった私はこの魔法の裏に高度な技術があったことを知った。手品の種が分かった気分だ。今は私もこの手品を披露したい。できれば無垢な子供たち相手に。たぶんI先生もそうやって不思議がる子供たちの顔を見るのが好きだったんだろうな。

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