見出し画像

寺山修司の短歌「地平線縫ひ閉ぢむため」

地平線縫ひ閉ぢむため針箱に姉がかくしておきし絹針

『寺山修司全歌集』20頁

『田園に死す』の「恐山」の章の「少年時代」に収められた歌。

■語句

縫ひ閉ぢむ――「縫い閉じようとするために」。「閉ぢむ」は「とづ」+「む」。「む」は意志(~しよう)を表わす助動詞。

■解釈

「地平線を縫い閉じる」という発想がすごい。また、地平線という大きな光景と、針箱の中の針という小さなものの対照が巧みだ。

「地平線を縫い閉じる」とはどういうことか。それは世界を終わらせることだ。天と地が分離することで世界が始まった。時間が動き出した。だから天と地を縫い閉じれば、世界は静止する。時間は止まる。

姉はささやかな日常を送っている。いつも縫物をしている。ていねいに一針ずつ縫っていく。地味で目立たない存在だ。小さな日々の仕事に埋没しているように見える。だが実は、内部に激しいものを潜ませている。いざとなれば、世界を終わらせてしまおうとする激烈な意志だ。世界全体を破壊するほどの怨念だ。

世界を「縫い閉じる」ことができる呪いの針をひっそりと針箱に隠し、姉は今日も穏やかな顔で縫物をしている。

恐ろしい!

■おわりに

寺山修司に姉はいない。「姉」は架空の存在だ。「姉」は激しい性格だった寺山の母親を指しているとも考えられるが、寺山自身のことのような気がする。「少年時代」に世界を終わらせたいと思っていたのは寺山だろうから(★1)。

■注

★1:これについては、他の記事「寺山修司の短歌『かくれんぼの鬼とかれざるまま』」や「寺山修司の短歌『呼ぶたびにひろがる雲を』」の「おわりに」を参照のこと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?