日本で治療薬が買えなくなる日
新しい本を書きました。
自分なりに本のポイントをまとめて見ます。
キャッチーな見出しだが、本書は2021年から続くジェネリック薬の流通混乱をテーマに、国民医療費の伸びを抑えるため、薬価の引き下げに頼っている日本の医薬品行政の矛盾を指摘している。
読みどころはまず2章だ。
今回の流通混乱の引き金になった小林化工の不祥事(水虫の治療薬に睡眠薬の成分が混入し、2人が死亡)をめぐり、同社が第3者に委託してまとめた報告書を読み込み、人の命を預かっている医薬品の工場で、安全性を無視したずさんな製造が行われ、医薬品に関するデータの捏造が行われていた実態を描いている。
政府がジェネリック薬の急激な普及を進めたため、一気に製造施設を拡大したものの、それに応じた人材育成が追いつかなかった結果だ。
続いて、4章も読んでほしい。国がジェネリック薬をはじめ、毎年薬の値段を容赦なく引き下げているため、外国の製薬メーカーが日本市場を嫌い、中国にながれている実状が報告されている。一方の中国は、薬の減薬成分を製造するクスリ大国となり、市場規模で日本を追い抜いている。
5章は、この日本独特の薬価制度によって、海外で開発されたガンの特効薬が日本に入ってこなくなっている。所謂ドラッグラグがはじめっていることを、製薬業界の研究報告書を元に、警鐘を鳴らしている。
この憂慮すべき事態は、今後いっそう深刻化するだろう。
6章は、クスリの受け渡しの窓口となる薬剤師、薬局についてだ。薬局は数だけはコンビニを抜く6万件を数えるが、多くは薬をまとめて渡すだけの存在になっている。地域医療で役割を果たしていない。
厚労省内部でも、薬局が多すぎるとの指摘が出ており、今後、患者とのコミュニケーションができない薬局は淘汰されることになると予測している。
薬剤師ユーチューバーや、薬剤師の意識調査などを豊富に盛り込んでおり、普段あまりに出てこない薬剤師の本音もうかがえる。
医薬品の問題は、専門用語が多く、分かりにくい。このため、どの薬を飲むべきかといった視点で書かれているが、本書は製造から薬価の決定、製薬会社の経営、薬局、薬剤師まで薬の流通をめぐる問題を平易に解説している。日常的に薬を服用している人には目からウロコの話が多いはずだ。
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