一株のランを育てるように 日韓関係に寄せて

私たちのすべての言葉が

隣の人の胸にささる

喜びの花になり

平和の歌になり

世界が少しずつ

もっと明るくなるようにしてください。

これは韓国の著名な詩人、李海仁シスターの「謙遜の香り」という詩の一節だ。
韓国南部・釜山の修道院で活動する李さんは、「国民のおばさん」と呼ばれ、親しまれている。
美しい言葉を使うことの大切さを説く彼女の作品は、日本にもファンが多い。

ところが最近の日韓の間には、この詩のような、やわらかな言葉は見当たらない。トゲトゲしいやりとりばかりが目につく。
きっかけは二〇一八年以降、韓国であいつで出された、元徴用工や元慰安婦に関する判決だった。

両国間で未解決のままになっているとして、日本企業や日本の政府に賠償を求めた。日本側は「すでに解決ずみ」と激しく反発している。

この判決の底流には、戦前に行われた日韓併合に対する考え方の違いが反映している。日本側は「当時は合法だった」とするが、韓国側は「不当だった」として、主張がかみ合っていない。
この問題をあいまいにしたまま、両国間でさまざまな合意がなされてきたが、火種は残ったままだった。

実は日韓は、過去だけでなく未来についても姿勢がかなり違っている。韓国は冷戦が終わったので隣の北朝鮮と経済協力をすすめ、将来の南北統一を準備したい。

一方日本は、軍事的な拡大を続ける中国、北朝鮮を意識し、「新冷戦」に備えようとしている。このように、隣国である日韓の間には摩擦が起きやすい構造がある。

韓国で相次ぐ歴史に関する判決について、日本政府に同調して「常識はずれ」と批判するのは簡単だ。しかし、その背景も考えたい。

韓国では、市民がさまざまな権利を戦い取ってきた歴史がある。世界的に人気のある韓国映画も、長く事前検閲制度が残っていた。
一九九六年に憲法裁判所が「違憲」判決を出し、多彩な内容の映画が登場した。
大規模な市民デモが連日続き、朴槿恵大統領の退任の引き金になっている。
政治が動かないのなら、司法の力も借りながら現実を変えていくのが、「韓国式民主主義」と言えよう。


ただ、判決で白黒を付け、正義を実現しようとすれば、相手との関係が破壊されることもある。
解決は次世代に任せ、破局を避ける知恵もあるはずだ。文在寅大統領も、そこに苦心しているのかもしれない。


冒頭で紹介した李さんの詩にはこんな下りがある。

他人の悪いところよりは

良いところをまず見る

肯定的な心で

肯定的な言葉を言わせてください

毎日真心をこめて水をあげ

一株のランを育てるように


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