「世界史としての日本史」(小学館新書)を読んで

世界史としての日本史(小学館新書)半藤一利 (著), 出口治明 (著)

半藤さんは日本史、出口さんは世界史に精通した人だが、2人の意見は一致している。

日本はすごい、世界に誇れるなんて言い方は間違いだ。指導者は歴史を勉強しておらず、国民を間違った方向に連れて行った。天皇制についても、明治時代までは、軽視されていたということだ。

こう話すことなら、私にも言えそうだが、2人はさまざまな本を自在に引用して説得力をもって対談している。読書量は大したものだ。

本書に出てくる参考文献を読むだけで、お得感がある。出口さんは本をたくさん読めた理由についてテレビとゴルフは捨てていますから.この2つを捨てると、けっこう時間がとれますよ。と話している。もちろんこの2つも価値はあるだろう。しかし「その気になれば、読書時間はいくらでも作れる」といいたいのだろう。

第2次大戦についての著作が多い半藤さんは、意外なことを話していた。

戦争をテーマにお話ししたときに、第二次大戦を理解するにはヒトラーとスターリンを理解することだと申し上げましたが、やはり、この二人を扱った本です。
私にとって若いころからず-っと疑問だったのは、ヒトラーはナチス党を率いて天下を取り、20世紀前半の世界を引っかき回しましたが、なぜドイツ国民は彼を支持したのか。それがどうしてもわからない。これだけはどうしてもわかってから死にてえなと(笑)、
若いときからそう思ってたんですね。それでいろいろと読みあさった。


ヒットラーは自殺する寸前、必ず自分の考えは復活すると予言していた。事実日本でも、麻生副総理が、ナチスの憲法改正の方法を見習えと言う主旨の発言をしていた。

ナチスの時代と日本の今は似ていると半藤さんは言う。つまりナチス台頭時のドイツの選挙制度は小選挙区制の比例代表制で、小政党が乱立していた。ナチスは政治的な力をどう付けていったのか。それは国会への放火事件だった。

犯人は不明なんですが、ヒトラーは共産主義者の仕業だとして、事件翌日の閣議決定で、言論・報道・集会・結社の自由の制限や、令状によらない逮捕を可能にするなど、7つほどの法律をひとまとめにした「民族と国家の保護のための大統領令・ドイツ民族への裏切りと反逆的策動に対する令」を制定し、ヒンデンブルク大統領にサインさせて、もう翌日から施行ですよ。
それで、たちまちに言論の自由、集会の自由、出版の自由が制限され.共産党や反ナチ勢力が次々に逮捕されていくわけです。反対勢力を国会から追い出したうえで、3月には全権委任法を通過させ、独裁体制を確立した。

今、安倍首相は、コロナ禍を理由に改憲の必要性を訴えている。これではナチスの手口と同じだ。事実、そういう視点で書かれた新書が何冊もある。例えば光文社新書の「ナチスの『手口』と緊急事態条項」はその典型だ。 

私は憲法を絶対視するものではないが、自分の政治的信条を、現在のような危機的な状態の中で主張するのは、理解されないだろう。

「日本史を世界史の中で理解する」ことの大切さを教えてくれるエピソードといえそうだ。

本書で推薦されている本の一部を抜き出しておく。
●半藤一利選
『わが闘争』アドルフ・ヒトラー(上下巻、角川文庫)
「スターリン』アイザック・ドイッチャー(みすず書房)
「対比列伝ヒトラーとスターリン」アラン・ブロック(全3巻、草思社)
『第三帝国の神殿にてナチス軍需相の証言』アルベルト・シュペーァ(上下巻中央公論)

●出口治明選
「ヒトラー1889 1936傲慢』イァン・カーショー(上巻、白水社)

下巻は「ヒトラー1936 1945天罰』
『独裁者は知日で生まれたヒトラー政権誕生の真相』ターナー・ジュニア(白水社)
「スターリンl赤い皇帝と廷臣たち」サイモン・セバーグ”モンテフィオーリ(上下巻、白水社)
『ブラッドランドヒトラーとスターリン大虐殺の真実』ティモシー・スナイダー(上下巻、筑摩書房)
『昭和史1926 1945』『昭和史戦後篇1945 1989』「B面昭和史1926 1945』半藤一利(平凡社ライブラリー)
『現代アラブの現代思想』池内恵(講談社現代新書)
『第三帝国の愛人ヒトラーと対時したアメリカ大使一家」エリック・ラーソン(岩波書店)
「クリミア戦争」オーランド・ファイジズ(上下巻白水社)
『1940年体制さらば戦時経済」野口悠紀雄(東洋経済新報社)
『虚妄の三国同盟発掘・日米開戦前夜外交秘史』渡辺延志(岩波書店)

『ロ-ズヴェルトの時代』アーサー。M・シュレジンガー(全3巻、論争社)※
「フランクリン・ローズヴェルト』ドリス・カーンズ・グッドウィン(上下巻中央公論社)
「第二次世界大戦1939 45』アントニー・ビーヴァー(全3巻、白水社)
ヨーロッパ戦後史』トニー・ジャット(上下巻、みすず書房)
「民主と愛国戦後日本のナショナリズムと公共性」小熊英二(新曜社)

〈世界のなかの日本を知るための本〉
「第二次大戦回顧録』ウィンストン・チャーチル(毎日新聞社)※
「ルーズヴェルトとホプキンズ』ロバート・シャーウッド(未知谷)
「大本営陸軍部戦争指導班機密戦争日誌』軍事史学会(錦正社)
『ロ-ズヴェルトの時代』アーサー・M・シュレジンガー(全3巻、論争社)
「フランクリン・ローズヴェルト』ドリス・カーンズ・グッドウィン(上下巻中央公論社)
「第二次世界大戦1939 45』アントニー・ビーヴァー(全3巻、白水社)
『ヨーロッパ戦後史』トニー・ジャット(上下巻、みすず書房)
「民主と愛国戦後日本のナショナリズムと公共性」小熊英二(新曜社)
※絶版、品切れのため新刊書店での入手困難


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