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言葉の宝箱 0175【未亡人ってね、天国ですって。もうねえ、気楽で、気軽で、気持ちが落ち込むっていうことがないって】

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『犬棒日記』乃南アサ(双葉社2018/3/25)

犬も歩けば棒にあたる。その故事のごとく、
一歩外に出てみれば、そこで出会うのは災難か幸運か!?
著者が自ら街で見た人物や光景を日記形式で描く随筆集。
直木賞作家の目に、その人は、あの出来事は、どう映るのか。
身近の風景も一瞬にして物語になる。

・もしも絶望のどん底にいて、一気に老け込んでいたとしても、大丈夫だ。やり直せる。それが若さだから。まだ当分は気がつかないだろうけど P15

・戦争は人間、家族、そして家族の未来までをも変えていく。
取り返しのつかないことになる P27

・あきれ果てている。疲れている。うんざりだと思っている。
だが、こういうことで、すぐに泣いたり怒ったり、
また傍らいる誰かに訴えたりするには、
おそらく彼女は大人になり過ぎているのだ(略)
いい加減に心を決めるべきときなのかもしれないよ P67

・余裕がないんだろうけど、
あの調子でずっと家族でいられるかどうか P72

・あの人は笑っているわけではない、
すべての表情を押し殺して、あんな顔つきになっているのだ(略)
泣くことも起こることも放棄した顔に違いない P92

・「それにしても、亭主はよっぽど嫌われてるみたいだ」
男性の呟きは、なんとも言えない哀愁のようなものを含んで聞こえた。
あなただって陰でどう言われているか分からないですものね P143

・携帯電話やスマホなど、少し前まではまさしく夢の道具だった。
それを現実に手に入れた瞬間(略)
人間が実に年月をかけて身につけてきた
貴重なものを失ったのかもしれない P147

・皆が苛立っている。
まったく普通に見える人間が、
実に些細な部分から不特定多数の相手に憎しみを抱き、
守るべき約束事を捨て去って、
いつしか人に戦慄を与えるまでになってしまうのかも知れない P157

・「理屈の分かる相手じゃないんだよ」
そうなのだ。犬だって赤ん坊だって。
愛情という名の下に、どうして彼らに通じないことを言い、
納得させようとするのだろうか P196

・俯きがちで、険しい表情は崩さず、
背負ってきた過去や人生がよほど重たいといった風情 P197

・今さら余計なエネルギーは使いたくないから
一つ屋根の下に暮らしているけど(略)
すっと逝ってくれるのが一番よね P219

・恋愛は欲望。結婚は、仕事だと思わなきゃ(略)
要するに就職の一種と捉えるべきだと思うんだよね(略)
ある程度、家庭を維持できるくらいに稼いできて、
子どもを作る能力さえあれば、もういいつて(略)
結婚という契約によって、
業務内容が産ませ屋である男と、計画的に製造に励む、と P227

・未亡人ってね、天国ですって(略)
もうねえ、気楽で、気軽で、
気持ちが落ち込むっていうことがないって P231

・息子にそこまで嫌われる父親とは、どんな人なのだろう。
一体それまで家族に対して、どんなことをしてきた人なのか。
拒絶されるには、それなりの理由があるのではないか。
その家のことは、その家の人にしか分からないものだ P251

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