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言葉の宝箱 0946【正しい言葉や優しい言葉は意外と残酷なものだ】

『季節風・冬 (サンタ・エクスプレス)』重松清(文藝春秋社2008/12/5)
*産経新聞大阪本社夕刊

出産のために離れて暮らす母親を慕う
5歳の女の子の素敵なクリスマスを描いた表題作ほか、
寒い季節を温かくしてくれる12の冬の物語。
『ツバメ記念日』に始まり、
季節ごとに出版されてきた季節風シリーズ完結篇。

『あっつあつの、ほっくほく』
バスケ部キャプテンの女子高生。
厳しいメニューを組んで部で孤立してしまう。
長じて第三営業部のゼネラルマネージャー。
創業以来初めての女性部長で社内の風当たりも強い。

『コーヒーもう一杯』
親にも大家にも内緒で、2歳年上の彼女と同棲する19歳の大学生。
洗濯機もないアパートに
手回しのコーヒーミルを導入した彼女の好みはマンデリンだった。

『冬の散歩道』
桜並木の公園にもなっている川沿いの遊歩道で
、疲れ切ってベンチに座り込んでいる30すぎの男。
ちょっと腰を下ろしたつもりが立ち上がれなくなってしまった。

『サンタ・エクスプレス』
双子を出産する母親が実家に帰省したため、
毎週父親につれられて名古屋へかよう5歳の少女。
名古屋までの行きの新幹線は機嫌がいいけれど、
帰りはいつでもぐずってしまう。

『ネコはコタツで』
年老いた父親が死んで、
四十九日の法要が終ったあとから母親がめっきり老け込んだ。
年末にはどっさり届いたはずの漬け物も今年は来ない。
送ってきたお餅はいつもと違っていた――
久しぶりに母親に会いに行った中年の男。

『ごまめ』
子どもたちが大きくなって、元日を家族揃っては一日過ごせなくなった。
恒例行事にこだわりたい、
高校2年生の長女と中学2年生の長男をもつ40代の父親。

『火の用心』
中学時代の友達で、40代半ばの地元工務店の社長とその同級生と四人で、
下町の町内会の「火の用心」の夜回り当番をつとめる女子高生。

『その年の初雪』
小学校にあがってから既に転校を三回している小学4年生。
迎えた二度目の冬で『かまくら』を
友達の三上くんと一緒につくるのを楽しみにしていた。

『一陽来復』
・4歳になるひとり娘と暮らす離婚したての女性。
・97歳のひいおじいちゃんを亡くしたばかりの15歳の高校生。
・中学受験に失敗した12歳の女の子。

『じゅんちゃんの北斗七星』
同じ団地のお隣にすむ幼なじみの「じゅんちゃん」は幼稚園の人気者だったけれど小学校にあがる頃、だんだん様子が変わってきて――
大好きな友だちだった少年の記憶をたどる40代後半の男。

『バレンタイン・デビュー』
息子のバレンタインデーをはらはらしながら見守る父親。
モテない男子高校生の一年で最も厳しい一日について、家族に熱く語る。

『サクラ、イツカ、サク』
春合宿を野宿にしないために
映画サークルの先輩とふたりでバンザイ隊を結成し、
合格発表を見にきた受験生をカモに小金を巻き上げる大学2年生。
一年前は同じ先輩からバンザイ攻撃をうけたものの、
手元不如意で払えなかった。


・正しい言葉や優しい言葉は意外と残酷なものだ。
それに気づいたのは、もう少しおとなになってからのことだった。
だからわたしはいま、落ち込んでいる部下や後輩がいても、
よほどのことがないと慰めたり励ましたりはしない。
すると、みんなに陰で「冷たいひとだ」と言われてしまう。
人間関係というのは、ほんとうに難しい  P16

・楽しいのに寂しい。わくわくするのに、しょんぼりする。
どきどきしているはずなのに、べつにどうでもいいけど、と言いたい。
何度でも思いだしたいのに、さっさと忘れてしまいたいものがある  P77


*出産のために離れて暮らす母親のことを想う
5歳の女の子の素敵なクリスマスを描いた『サンタ・エクスプレス』ほか、「ひとの“想い”を信じていなければ、小説は書けない気がする」という
著者が、普通の人々の小さくて大きな世界を季節ごとに描き出す
「季節風」シリーズの「冬」物語。
寒い季節を暖かくしてくれる12篇を収録。
本の装丁は季節をイメージしたものですが、
「冬」は玄冬を象徴する黒を基調に雪の結晶の意匠があしらわれています。既刊3点は『春』の青(青春)、『夏』の赤(朱夏)、『秋』の白(白秋)

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