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ユニバーサルデザインとかけ離れたアレの話 〜マイナンバーカードとUD7原則


便利だぞ便利だぞ、でなにやらゴリ押しされておりまするアレの話ですが、とうとうこちらの業界にも影響が。


元ネタはどうやらこれ、令和6年6月21日閣議決定。これが7月8日の介護保険審議会の介護保険部会に降りてきた、ということですな。厚労省から見たら官邸からのトップダウン案件でございます。

社会保障審議会(介護保険部会)
第113回2024年7月8日(令和6年7月8日)
1.介護情報基盤について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126734.html

デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和6年6月21日閣議決定)(抄)

5. 重点課題に対応するための重点的な取組

(1) デジタル共通基盤構築の強化・加速
①デジタル共通基盤構築
ア 個人におけるデジタル完結の基盤となるマイナンバー制度
  /マイナンバーカードに係る取組の強化・加速
B マイナンバーカードの普及と利活用の推進
c健康・医療・介護分野におけるマイナンバーカードを活用したデジタル化

法律にその実施根拠がある公費負担医療や地方公共団体が単独に設けた医療費等の助成制度(以下「公費負担医療制度等」という。)の受給者証、予防接種の接種券、母子保健 (健診)の受診券、医療機関の診察券、介護保険証等をマイナンバーカードと一体化することにより、マイナンバーカード一枚で受診できる環境整備など、医療DX の推進に関する工程表等に基づき取組を進める。マイナンバーカードを公費負担医療制度等の受給者証として利用 する取組については2023年度末より、予防接種の接種券、母子保健(健診)の受診券、介護保険証として利用する 取組については、2024年度より先行実施の対象自治体において順次事業を開始するとともに、その上で、全国的 な運用を2026年度以降より順次開始する。

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001269924.pdf


この介護業界にいる人なら、介護保険証を見たことがない人はいないとは思うのですが(いるのか?)、たぶん閣議に参加された中には、要介護認定を受けている方はいないと思われます。でもリストを見ると、20名中13名ほどは第1号被保険者に該当しているので、トップ含めて認定を受けるに相応しい方もいるかも知れないですね、とか言いたくなる気持ちをぐっと抑えて、

ここでは介護保険上の介護保険事業者ではない、住宅改修を行う事業者が、いったいどのように介護保険証及び負担割合証と慣れ親しんでいるかを、現状把握されたい誰かのために書いてみようと思います。

まずこちら、介護保険証

藤沢市のものをサンプルにお借りしております

介護保険証は、認定日は利用者さんの申請日によりそれぞれ違い、認定期間もケースバイケースです。今は原則、1年から4年なのかな?

こちらの仕事上、絶対に確認しなければいけないのが太い赤丸のところ。要介護状態区分(要介護2以上だと借りられる福祉用具の範囲が変わる)と、認定の有効期間(そこからはみ出ると給付の対象外になる)です。
他に、七面倒臭い住宅改修の事前申請書住宅改修が必要な理由書を作成する上で、書類に間違いのないように細い赤丸の基本情報もちゃんとチェックします。
ご利用者さんが真顔で違う住所を書いたりすることがないとは言えない、介護とはそういう仕事です。実際に自力で書けない利用者さんもいらっしゃいますので、場合によっては申請書の介護保険情報部分はこちらで赤丸部分の内容を代筆することも、ままあります。

ポイントその1
介護保険証の内容は、認定日も、要介護度も、有効期間も人それぞれ。

 


そしてこちらが負担割合証。どちらもサービスを利用するうえで必須です。

何割負担か書いてあります

さて、これがなぜ別の用紙になっているか、皆様御存知でしょうか。

2015(H27)年8月より、それまで自己負担1割で統一されていた介護保険制度にて、応能負担の考え方により、前年度の所得が多い利用者の負担割合を2割とする改正がされ(2018(H30)年から3割負担も導入)たことでこちらも必須となりました。
ちなみに、たとえば年金以外のまとまった一時所得があったりすると、翌年度の負担割合は上がります。また年金所得と他の所得を線引きしていたり、世帯に65歳以上の方が二人以上いるか否かによっても変化するので、負担割合を自分で割り出すには大変難解なことになっております。

下のサイトにフローチャートがあったので、挑戦されたい方は是非に。https://www.minnanokaigo.com/guide/care-insurance/price/


で、なんで住宅改修の事業者がこれに神経を使うかと言うと、これ事前申請日でなく工事完了(受領)日の日付の負担割合が適用されるからです。まさに今、これに気を使っている最中なんですよこちら。なんせ事前申請提出から、工事可能になる確認通知の利用者宅到着まで、2〜3週間のタイムラグがあるので。

昨年と一昨年、同じ収入だったそうだから負担割合も変わらない大丈夫、などと思っていると、制度改正に巻き込まれて負担割合が上がったりすることもあるので、油断がなりません。

さらに、住宅改修費の支給には、多くの保険者によって運用されている、受領委任払い制度があることが話をさらにややこしくします。工事金額のうちの負担割合分だけ利用者が払い、残りの7-9割(保険給付分)を保険者が住宅改修事業者に直接支給し、利用者の一時払い負担を減らす仕組みなのですが。たとえば8月1日に負担割合が1割から2割に変更になると、そこをまたいで工事を行った利用者さんとしては、自己負担1万円で済むと言われて承諾した工事がなぜ2万円ってことになるのか!2倍やないか!となります。お怒りごもっとも。

なので、こちらはそんなことがないように、この時期は申請の日程にも細心の注意を払い、月末までに工事完了するように段取りを組むわけですね。

ポイントその2
負担割合証は1年ごとに更新、8月1日に新しい負担割合に変わる。

 


さらに居住系施設を利用する場合、負担限度額認定証が必要になる方も多いと思いますが、ここでは割愛。カオスすぎます。なお、これも7月末まで最大1年間有効、8月1日に新しいのが来るはずです。夫婦セットで資産要件も確認するはずだからね。

上記、逐次変更される介護保険の情報を、リアルタイムで掴まないとこの仕事ができない理由、察していただければ幸いです。



で、これがマイナンバーカードに実装され、紙保険証と紙負担割合証が廃止され、我々がカードリーダーを持ち歩く未来の世界を想定してみてください。


年に何回、利用者さんはマイナンバーカードの内容を最新のものに更新するために市役所に行く必要が発生するのでしょう?


おもわず大字になってしまいました。

※7/16追記 その点、続編で補足しました。


マイナンバーカードが、あくまで情報を内装しておらず、通信によって逐次情報を入手できるシステムだったとしたら、情報更新についてはなんの問題もないかとは思います(情報漏れのリスクは爆上がりしますが)。でも現実はそうじゃない。

これを閣議で決められた岸田内閣の皆様、マイナンバーカードの仕組みや、介護保険制度を理解しているのでしょうか、という疑問が残ります。やはり内閣における第一号被保険者たる13人の皆様、要介護認定をですね。


さて表題の件。
先日ちらっと取り上げた、ユニバーサルデザインの話ですが、


提唱者のロン・メイス教授は、その理念をどのように製品などに反映するかをわかりやすく説明するために、ユニバーサルデザインの7原則を提唱しております。



くどく感じるかもしれませんが、この閣議決定に関与された国務大臣の皆様にもその理念をご理解いただけるよう(閣議って、異論があっても誰も反対できない非民主的会議なんですけどね)、あえてこのサイトを貼りましょうね。

ユニバーサルデザインを実現(じつげん)するために注意するポイント。
それが、ユニバーサルデザイン7原則(げんそく)だよ。




なお大人の方向けには、(株)ユーディットさんから再び引用させていただきましょう。

  • 原則1:誰にでも公平に利用できること

  • 原則2:使う上で自由度が高いこと

  • 原則3:使い方が簡単ですぐわかること

  • 原則4:必要な情報がすぐに理解できること

  • 原則5:うっかりミスや危険につながらないデザインであること

  • 原則6:無理な姿勢をとることなく,少ない力でも楽に使用できること

  • 原則7:アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること

 このアレなカード、紙の保険証を廃止することで、UD原則1と2をひたすら無視しようとしていることが気になるのですよね。


利用する人の便利はそれぞれであり、それを強制されない自由、選択の自由もユニバーサルデザインは当然に含みます
たとえば、既存の役所の玄関に、手すり付きの階段とスロープがあり、訪問者はどちらも選べるように。
このアレなカードの導入により、紙の保険証類を廃止する、という方向性は、公共施設の玄関から階段をすべて撤去し、スロープの利用を全員に強制するのと同じことです。


ちなみにユニバーサルデザイン、日本が批准している障害者基本条約(国際法ですね)にその定義と義務が明文化されております。

第二条  定義
(略)
「ユニバーサルデザイン」とは、調整 又は特別な設計を必要とすることなく、最 大限可能な範囲で全ての人が使用するこ とのできる製品、環境、計画及びサービス の設計をいう。ユニバーサルデザインは、 特定の障害者の集団のための補装具が必 要な場合には、これを排除するものではない。

第四条  一般的義務
(略)
(f) 第二条に規定するユニバーサルデザインの製品、サービス、設備及び施設であって、障害者に特有のニーズを満たすために必要な調節が可能な限り最小限であり、 かつ、当該ニーズを満たすために必要な費用が最小限であるべきものについての研究及び開発を実施し、又は促進すること。 また、当該ユニバーサルデザインの製品、 サービス、設備及び施設の利用可能性及び使用を促進すること。さらに、基準及び指針を作成するに当たっては、ユニバーサル デザインが当該基準及び指針に含まれる ことを促進すること。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000018093.pdf


さて、眼鏡のオッサン(誰とは言わない)にそこら辺の平仄をどう取るおつもりなのかお尋ねしたいところですね、この件に関しては。

本日こちらからは以上です、続報を待ちたいと思います。



どうでもいいかも知れない追記

この件に関連していなくもない話を。

何年か前に、自分の息子の卒業式に出かけた際、ロビーに貼られていた一通の電報に足を止めました。

そして皆さんは、明日から新しい一歩を踏み出します。いろいろなことがあると思います。いろいろな選択に直面することもあるでしょう。

私の人生も振り返ってみると、いくつかの分かれ道がありました。
岐路に立つたび、やらないことを後悔するより、やって失敗したら反省!ということを胸に歩んできました。
大事なのは自分で決断することです。
自分で考えて決めたことならば失敗しても価値が生まれるはずです。

最後に、私の好きな時を皆さんに贈ります。ロバート・フロストというアメリカ人の書いた「選ばなかった道」という詩です。


紅葉する森の中、道が二つに分かれていた。

残念だがどちらかの道を選ばなければならない。

旅の途中の私は、そこにたたずんで、

片方の道を見通してみると、

その道はやがて下草の中へと消えていく。

もう一つの道に目をやると、

こちらはもっと魅力的に見えた。

草が生い茂り、誰かに踏んでもらいたがっているようだ。

とは言えその道だって誰かが通れば、

もう一つの道と同じようになるだろう。

あの朝、そこにあった分かれ道。

まだ踏み越えた者がいない落ち葉に覆われて。

私は最初の道はまた今度来た時に通ることにした。

でも、遠くへ向かう旅の途中の私が、

この分かれ道に戻ってくることはないだろう。

ため息をつきながら私は語るだろう。

皆むかし、

桑の中で道が二つに分かれていた。そして私は、

通る人も稀なほうの道を選んだ。

そしてそれが全てを変えたんだよと。


ご卒業おめでとうございます。



国務大臣 衆議院議員 河野太郎

 

この文を書ける方が、今の被害担当艦みたいな仕事をされているところを見るのは不憫だな、と思う今日このごろです。応援というより、汚れ仕事という道とはなにか、ということを考えてしまう話として貼ってみました。



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