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和室横にトイレをつくる ~押入れ活用トイレのはなし


高齢や障害による身体能力の低下に伴って、介助が大変になっていくことの最上位は、やはり排泄だと思う。
入浴も同じように大変ではあるのだが、1日に5回も6回も入浴はしないはず。排泄は状況によってはもっと通うことになるので、そこに身体介助が必須になった時の、介助者の負担の増え方は尋常でない。なので可能な限り自力、もしくは見守りでできる環境を整えることは、介護者の健康を守る意味でも重要なポイントだし、何より利用者さんだって可能なら自力で済ませたいとおもっている(はずだ)。

だが、寝室の近くに必ずトイレがあると思ったらそうは甘くない。もともとの寝室が2階にあったりすると、そこまでの介助移動ができないなどの理由で、1階の応接間や和室に寝室が移動してくることもよくある話である。
なので、寝室を移動してきたはいいが、はてそこからトイレへの動線は?と考えて、そのままではお手上げな感じになるケースも、たまにある。


そんなとき、皆様が目をつけるのが押し入れである。着眼点は悪くないのだ、スペースとしては十分広い。だが工事はけっこう大変。でも効果は抜群、そんな事例を2つご紹介します。

【1畳】の押入れの場合

引違いのフラッシュ戸がもともとついていた事例です。何でも以前に襖から交換したらしい。これはラッキー、扉がそのまま使える。引手は操作しづらいから、ハンドルだけ追加すれば問題なし。寝室併設なので鍵はいらないし。

だが、どうやってトイレを機能させるか、この当時は悩ましかった。給水管はなんとかなるが、古い平屋のため、床下に排水管が通せるかが微妙だったからである。
設備屋さんと打ち合わせ、床下でなく、建物の外周を回してくることでもなんとか排水勾配が取れることがわかり、晴れてゴーサインとなりました。

こちらが着工前


まずは給排水管を持ってこなくては。ということで、結構派手な工事になるのがお判り頂けますでしょうか。排水勾配1/50を守りながら引いてきているんですよ、この排水管。

手洗器の排水もさりげなく下から通していたりする


さて内装です。床は補強必須。さらに押入れの中棚を取ると、壁もたいてい壊れてしまいます。なので12mm合板を、手すりなどの下地を兼ねて壁に上張りし、そこに内装のクロスを貼る。さらに棚(体重かけてもOKなやつ)+紙巻器+縦手すりと、小さめの手洗い器を設置。

ただ、このサイズのトイレ、便器を奥に設置すると手前側が広く空きます。なので、出入口側の壁にも横手すり、トイレを出たところの柱にも縦手すり。更に天井には直付けのダウンシーリングライトを付けて、柱に近いところにスイッチを設置したはず。

可能な限り、利用者さんが自分で歩いてトイレに行けるように、という作戦です。

便器の位置はトップ画像を見てね

でも、今後この部屋で車いす移動が必要になったときは、このままでは便器に横アプローチできません。頭から便器に突っ込む正面側アプローチだと介助者の立ち位置も厳しいし、なんせ利用者さんを約135°ターンして車いすから立ち上げ、回転し、座るの動作を支援しなくちゃいけなくなる。書いているだけで腰が死にますね。
なのでそうなった時には、この引違い戸を2枚とも撤去し、アコーディオンカーテン等を新たに設置、車いすは便器横に斜めアプローチして、利用者さんは60°ターンくらいで移乗が可能になるように、ということも次の一手としては考えておりました。


なお、照明はセンサー付きダウンライトとしていたのですが、工事が終わってすぐに、電気が消えてしまうとのお困りのご連絡が。ご利用者さん、トイレは時間をかける派なので、センサーを長時間にしていても、誰もいなくなったと誤認して消灯していることが判明。センサーをカットし、ご自身でスイッチを付けたり消したりすることで無事解決?しました。
照明のセンサーって、そういう意味で使い辛いことがたまにあります。



【3/4畳】の押入れの場合

進行性核上性麻痺だった利用者さんの寝室のケース。すでに寝室を1階和室に移動されていましたが、そこからトイレまでの動線に直角曲がり(クランク)が多く、介助負担が増えてきたことから、和室床の改修などと合わせて押し入れトイレのご希望となりました。

こちらは押入れの幅が狭いのでした

押入れといっても、観音開きで内法が120cm程度の長さしかない。安価に済ませるならアコーディオンカーテンとなるのですが、あれは視覚的には扉であるものの、音も臭いも通すし、何より利用者さんによる自力での開閉が難しい。ぐにゃぐにゃですからね。
でも、3枚連動引戸もこの間口だと有効幅はたいして取れないし、と悩んでいたところに、こんな製品がぴったりハマったのでした。

ひきドア【大建工業(株)】


出来上がりはこんな感じです。天井が低いことから、照明は壁の角にLEDブラケットランプを設置。

こちらは便器が見えてますね

3枚連動引戸として、自力で出入りできるうちはこう。有効開口幅650mmくらいだったかな?車いすは狭めのやつなら頭を突っ込める、くらいの幅です。なので、車いすでそこまで連れて行ってもらって、手すりを保持してターンできる頃まではそれで行ける、と睨んでおりました。

でも、神経難病ですから、いつかは立位保持が困難になります。でも、できるだけトイレで排泄はしたい。そういうときに、トイレの便器横もフルに開放できれば、介助者の立ち位置や車いすの横付け位置を確保し、ほぼ座位での移乗ができること、先に書きました。

でもこの間口でいったいどうすれば、と思うところですが、新しい建材はそういうニーズに対応しているのです。お高いだけはありますぞ。

戸袋だと思ったところが、そのまま180°ターン!

なんと側面が全面解放、120cm幅で開きます。これなら車いすの横付けもなんとかなるかという寸法に納まりました。


このように、押入れトイレのポイントは便器の配管と、扉の設計なのかな、と思っておりますが、実は配管については、今は強引なクリア技があるのです。

ベッドサイド水洗トイレ【TOTO(株)】

税込の希望小売価格が504,900円であることを除けば、すごく良くできている製品。たまにお勧めすることはあるんですけどね、特定福祉用具扱いになるとはいえ、9万円が戻ってくるよ、という話もなかなか導入に至りません。

でも、配管の悩みはこれを入れればある程度は解決します。便器の後ろにポンプユニットがあり、固形物なども粉々にして圧力をかけて流してくれるので。部屋の何処かに、給排水管の接続口は必要になりますけどね。でも排水は細い管を使えるし、勾配の問題はクリアできます。
これをベッド横においても良し、押し入れを改装してそこにおいても良し。

イメージはこんな感じです
具体的にはこんな感じ


というわけで、技術的には気の利いた扉や、便器も出ている状況があるのですが、なんせ費用がかかるということが、そんなに多くはこの工事に至らない理由になっております。

東京都の特別区のように、手厚い介護保険以外の給付があると、こういうケースはやりやすくなるのでしょうね。
やろうと思えば出来る、あとはなんとかの沙汰もなんとやら、とご理解いただければ、こういったご希望については間違いないかと。



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