第9回目の参考図書のご紹介は、増田寛也『地方消滅』(中央公論新社、2014年) 2017年

参考図書の紹介記事から

あるところで、研修のための参考図書の紹介を書いていました。その時の紹介記事を再掲していきます。

第9回目の参考図書のご紹介は、
増田寛也『地方消滅』(中央公論新社、2014年)

このままでは896の自治体が消滅しかねない。

減少を続ける日本の人口構造から導き出された、衝撃的な結論です。地方からの都市圏の人口流出と、子育て環境の悪化、結婚しない、できない若者の増加が生む、超高齢社会の到来です。人口減少が生むさまざまな問題を上げていき、その上で豊富なデータを基に、日本の将来を描き出し、人口減少に歯止めをかける戦略を提唱します。

本書の目次構成は以下のようになっています。

序 章 人口急減社会への警鐘
第1章 極点社会の到来――消滅可能性都市896の衝撃
第2章 求められる国家戦略
第3章 東京一極集中に歯止めをかける
第4章 国民の「希望」をかなえる――少子化対策
第5章 未来日本の縮図・北海道の地域戦略
第6章 地域が活きる6モデル
対話篇1 やがて東京も収縮し、日本は破綻する 藻谷浩介×増田寛也
対話篇2 人口急減社会への処方箋を探る 小泉進次郎×須田善明×増田寛也
対話篇3 競争力の高い地方はどこが違うのか 樋口美雄×増田寛也
おわりに――日本の選択、私たちの選択
全国市区町村別の将来推計人口

人口減少がどれだけ深刻なのかが、よく分かります。このままでいくと、地方都市の半分以上が消滅する事実に、愕然とします。単に出生率が上がれば良いというものではないことも、納得です。東京への一極集中を止めなければ、今後ますます悲惨なことになっていきます。

本書で、人口減少に対する9つの誤解をあげています。

第一の誤解:本格的な人口減少は、50年、100年先の遠い将来の話ではないか?
第二の誤解:人口減少は、日本の人口密度状態を解消するので、むしろ望ましいのではないか?
第三の誤解:人口減少は地方の問題であり、東京は大丈夫ではないか?
第四の誤解:日本全体の人口が少なくなるのだから、東京に人口を集中し、生産性を向上させた方がよいではないか?
第五の誤解:近年、日本の出生率は改善しているので、このままいけば自然と人口減少は止まるのではないか?
第六の誤解:少子化対策はもはや手遅れであり、手の打ちようがないのではないか?
第七の誤解:出生率は、政策では左右されないのではないか?
第八の誤解:「子育て支援」が十分な地域でも、出生率は向上していないのではないか?
第九の誤解:海外からの移民を受け入れれば、人口問題は解決できるのではないか?

これらの誤解が、根拠のないものであることを、実証的なデータと推論をもとに反論を加えていきます。

人口減少は、単純に出生率の問題だけではありません。出生率を上げることに集中しても、人口は増えていかないことを、本書では説明しています。そして、すでに起きてしまった少子化は、これから数十年間にわたって日本に影響を与え続けるとも言います。

そのうえ、出生率回復が5年遅れるごとに、将来の安定人口数は300万人程度減少すると警鐘を鳴らします。人口減少は、慢性疾患のようなものです。体質改善が早期であればあるほど、効果が上がります。今すぐに取り掛からなければならない、喫緊の課題なのです。

出生率が上昇したとしても、人口の「再生産力」を考えなければ、意味はありません。人口の再生産を中心的に担う「20~39歳の女性人口」がどれくらいになるかということの方が大切です。なぜなら、生まれる子供の95%は、20~39歳の女性の出産によるからです。若手女性人口が減少し続ける限りは、人口の「再生産力」は低下し続け、歯止めがかりません。人口が減り続けるということは、子供を産む女性の数も減るということです。出生率がいくら上がっても、なんら解決にはなりません。

そのうえ、地方から都市圏への人口流出の問題もあります。この人口流出は、今後収束していくとの見方もありますが、本書は収束しないと断言します。

地方には雇用機会が少なく、若者が住み続けることができなくなっています。結果、若者は都会に出て行き、住み着きます。しかしその都会は、物価は高く、住環境も適切ではなく、若者が結婚して子供を育てることが難しくなっています。ますます若者は結婚しなくなり、子供も持たなくなります。

現在の地方の雇用減少をかろうじて食い止めているのが、医療と介護分野の雇用です。しかし今後地方は新たな人口減少ステージを迎え、高齢者人口が停滞、減少することとなり、医療や介護ニーズも横ばいないし減少気味となり、医療、介護の雇用吸収力は停滞し減少していきます。

高齢化率にはタイムラグがありますが、大都市圏では、これまで流出した人口が一気に高齢化する時期を迎え、医療ニーズと介護ニーズが大幅に増加することが見込まれます。

東京圏は2040年までに現在の横浜市の人口に匹敵する388万人の高齢者が増え、高齢化率35%の超高齢社会となります。医療介護における人材不足は深刻を通り越し、絶望的な状況になっていきます。その結果、かろうじて地方を支えていた医療と介護分野の人材が、地方から東京圏へ大量に流出する可能性も高いでしょう。

本書では、人口減少社会の日本の縮図ともいえる北海道を、具体的なモデルとして地域戦略構築プロセスを検討しています。

北海道は、全国平均よりも速いペースで人口が急減すると予測されています。札幌圏への人口集中度は、東京圏への集中以上に激しいと予想されます。北海道は2040年に都市部へ人口が集中する極点社会が到来するという点でも日本の縮図であり、将来の日本社会のモデルといえるそうです。

北海道の各地域で、何が課題かも書かれています。

帯広圏は地域全体の人口移動が少なく、帯広市と周辺町村も含めた帯広圏全体がダム機能、つまり都市への人口流出を防いでいます。帯広市は、畑作と酪農が盛んな十勝地方の中心として発達しており、食品製造業や農機具製造業など農業関連製造業の裾野が広く、雇用の場を提供しています。

女性農業者の活動も活発ですが、農家の高齢化が著しく、農家人口の減少が進んでいるのも事実です。そして、親の介護や通院付き添いが女性農業者の大きな負担となっています。

帯広圏では、女性の札幌流出割合が高くなってきています。女性の動向が帯広圏の将来を決めるカギになるということです。

地域の将来や日本の将来を考える上でも、人口問題は外すことができない大きな問題です。地域の未来の戦略を考える際にも、大いに参考となる本書をお勧めします。

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